喘息 asthma
喘息とその疫学
・本邦の20~45歳における喘息有病率はおよそ5~10%程度と推定されている。なお、小児の有病率は15%以上とされる。
・喘息による死亡(喘息死)は年々減少しているが、2020年において年間約1,160人の喘息死が報告されている。
・喘息の確定診断は典型的な病歴、スパイロメトリーでの気道可逆性の証明に基づいて行われる。
・アトピー素因(例: アレルギー性鼻炎, アトピー性皮膚炎)の既往歴、喘息の家族歴がある場合、喘息の疑いが強まる。
・喘息は小児期に発症することが多いが、思春期には寛解することも少なくない。しかし、一部は成人期に再発する。
・新たに喘息と診断された成人の約半数は小児喘息の再発例である。
・典型的な喘息発作の誘因は運動、冷気、屋内外の吸入アレルゲン曝露などである。症状は誘因を回避することで、治療なしに症状が寛解することもある。
・成人での新規発症例の10~25%は職業関連の曝露要因(例: 木粉, 穀物粉, 家畜のフケ)に由来すると考えられている。曝露要因の推定には病歴聴取が重要である。
・喘息を有する成人の約7%はNSAIDs不耐症に相当し、アスピリンやCOX-1阻害薬を摂取して30~120分以内に症状が誘発される。鼻茸や鼻ポリープの指摘歴がないか、匂いが分かりづらいことがないか、湿布薬や鎮痛薬を利用した際に呼吸器症状が生じたことがないか、などといった聴取もときに有用。
・肥満、不安症、うつ病、閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)も喘息悪化につながる。
身体所見
・胸部や背部の聴診でWheezeが聴取されることが多い。Wheezeは通常の呼吸では聴取できず、強制呼気でやっと聴取できるケースもある。
・Wheezeの強度評価にはJonsson分類がある。0度はWheezeなし。Ⅰ度は強制呼気時のみに聴取。Ⅱ度は平常呼気時のみに聴取。Ⅲ度は呼気時と吸気時に聴取。Ⅳ度は呼吸音減弱(silent chest)を指す。
・チアノーゼもときにみられ、比較的重症な喘息増悪である可能性が想定される。
・増悪時には努力様呼吸、呼吸補助筋の使用などが認められる。
マネジメント
・喘息のマネジメントにおける主な目標は症状のコントロール、喘息発作のリスク軽減、薬物治療による副作用の最小化の3つである。
・治療としては患者教育(服薬アドヒアランスなど)、喘息の誘因の管理、症状や肺機能のモニタリング、薬物療法が挙げられる。
・患者教育としては禁煙や毎日のコントローラーの使用の重要性を理解してもらうこと、適切な吸入手技ができることなどが挙げられる。こうした患者教育によって喘息発作が減少することが既に示されている。
・症状のモニタリング方法としては患者自身が回答する質問紙(例: ACT(Asthma Control Test))を利用することができる。
・薬物治療については後に記載するとおり。コントロール不良なケースでは治療強化(Step up)を行い、安定した状態が3~6ヶ月間継続できれば治療強度を下げる(Step down)することが推奨される。
レリーバー
・喘息発作が生じた際にはICS/LABAに相当するブデソニド・ホルモテロール(シムビコート)を利用することも一般的である。なお、コントローラーとしてもシムビコートを利用し、発作時にもレリーバーとしてシムビコートを1回追加吸入することをMART療法(Maintenance And Reliever Therapy)と呼ぶ。なお、本邦ではSMART療法と呼ばれることもあるが、海外ではMART療法と呼ぶことが一般的になっている。
・発作時にMART療法で対処する群と、SABA(テルブタリン(本邦未承認))で対処する群とで比較したTrialではMART療法で治療された群の方が重症喘息発作の発生率が有意に少ないことが示された(RR 0.78(95%CI: 0.67-0.91))。
・発作時にはPSL 0.5mg/kgを3~5日間 内服とすることも多い。
・なお、運動誘発喘息(EIA: exercise-induced asthma)では運動前に予防的に吸入治療を行うこともある。GINA(Global Initiative for Asthma)ではSABAの使用よりも、さらに予防効果が高い根拠があることから、シムビコートの使用を推奨している。おおむね運動の15分前に使用すると良いという見方がある。
コントローラー
<Step1(軽症間欠型)>
・軽症間欠型は症状が月2回未満に相当する。
・発作時には必要に応じて低用量のシムビコートを使用することが可能。なお、SABAの頓用でも良い。
・コントローラーの利用は不要。
<Step2(軽症持続型)>
・軽症持続型は症状が月2回以上、週5回未満に相当する。
・MART療法が第一に推奨される。コントローラーとして使用する際には低用量(160μg/4.5μg/回 2回/日)で使用する。
・発作時にSABAを利用する場合には、コントローラーとしてICS定期吸入(低用量)を選択する。
・状況に応じてLTRAを併用することも考慮可能。
<Step3(中等症持続型)>
・中等症持続型は症状がほぼ毎日みられ、週1回以上で増悪で目覚める状態に相当する。
・MART療法が第一に推奨される。コントローラーとして使用する際には低用量(160μg/4.5μg/回 2回/日)で使用する。
・状況に応じてLTRAを併用することも考慮可能。
<Step4(重症持続型)>
・重症持続型は症状が毎日みられ、週1日以上で増悪で目覚め、肺機能低下がみられる状態に相当する。
・MART療法が第一に推奨される。コントローラーとして使用する際には中用量(320μg/9μg/回 2回/日)で使用する。
・なお、シムビコートは高用量(640μg/18μg/回 2回/日)で使用することも検討可能。ただしLAMA追加も選択肢となる。
・状況に応じてLTRAを併用することも考慮可能。
<Step5(難治性喘息)>
・Step3あるいはStep4の治療を行っても、コントロール不良な場合では専門医への紹介を検討することとなる。
・この場合、生物学的製剤の使用が検討される。薬剤としては抗IgE抗体製剤、抗IL-5抗体製剤、抗IL-5受容体α抗体製剤、抗IL-4受容体α抗体製剤が選択できる。
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<参考文献>
・Mosnaim G. Asthma in Adults. N Engl J Med. 2023 Sep 14;389(11):1023-1031. doi: 10.1056/NEJMcp2304871. PMID: 37703556.