レイノー現象 Raynaud's phenomenon

レイノー現象とその疫学

・レイノー現象(Raynaud’s phenomenon)は寒冷刺激や情動刺激によって四肢、特に指に一過性の血管攣縮と虚血が生じ、色調が白色→青色→赤色と変化することを指す。

原発性レイノー現象は根本的な原因は不明であるが、二次性レイノー現象リウマチ性疾患が原因で、組織障害を合併しやすい。

・頻度としては原発性レイノー現象が約89%、二次性レイノー現象が約11%

約10~20%の症例ではリウマチ性疾患(例: 強皮症(SSc), 混合性結合組織病(MCTD)など)の初発症状として出現することなどもあり、適切に除外診断を進めることが必要。レイノー現象を有する患者の約12.5%が強皮症を発症し、約13.6%が結合組織病を発症すると報告されている。

・レイノー現象は寒冷曝露がなくても、気温変化などがあれば生じる。たとえば暖かい環境から冷房の効いた環境へ移動した場合などのシチュエーションが挙げられる。

・男性の3~12.5%、女性の6~20%でレイノー現象の症状を経験したことがあるという報告がある。

・発症平均年齢は女性の方がより低く、寒冷地ではより発症率が高い。

女性ではレイノー現象の家族歴、エストロゲンへの曝露、精神的ストレスが症状出現に関連することが多い。一方で、男性では喫煙、振動障害がより関連しやすい。なお、喫煙によって20分間で1度の体温低下が生じるという報告がある。

一次性と二次性の鑑別点

 <一次性レイノー現象>

・若年者(あらゆる年齢で可能性はあるが、通常は30歳未満で発症)

・女性

・遺伝的要因(30%で家族歴あり)

・基礎疾患の存在を疑う病歴や症状がない

・四肢の潰瘍や壊死がない

・爪床の毛細血管所見に異常がない

・ESRが基準値内にある

・自己抗体が陰性

 <二次性レイノー現象>

・より高齢で発症(あらゆる年齢で可能性はあるが、通常は30歳以上で発症)

・基礎疾患の存在を疑う病歴や症状がある

・指に重度の疼痛を伴う

・指の潰瘍、壊死がみられる

・爪床の毛細血管に異常所見がある(蛇行, 拡張, 消失など)

・ESR亢進

・自己抗体が陽性

二次性レイノー現象に関連する疾患/病態

 <リウマチ性疾患>

・全身性強皮症(約90%でレイノー現象をみる)

・混合性結合組織病(85%)

・全身性エリテマトーデス(40%)

・皮膚筋炎/多発筋炎(25%)

・関節リウマチ(10%)

・Sjögren症候群

・血管炎

 <血液疾患>

・真性多血症

・白血病

・血小板増多症

・寒冷凝集素症(∵マイコプラズマ感染症)

・パラプロテイン血症

・プロテインC欠乏症, プロテインS欠乏症, アンチトロンビンIII欠乏症

・HBV感染症/HCV感染症(∴クリオグロブリン血症)

 <動脈疾患>

・胸郭出口症候群

・手根管症候群

・神経血管症候群

・血栓症/塞栓症

・閉塞性血栓性血管炎/Buerger病

・動脈硬化症

臨床症状

・通常は寒冷曝露や精神的ストレスなどが誘引となり、四肢(手指, 足趾, 鼻, 頬, 耳)において血管攣縮が生じ、その結果として色調が変化する。色調変化の病歴を聴取することが重要で、「白→青→赤色」の変化に注意して聴取を行う。

・なお白色は血管攣縮を反映し、青色は組織の低酸素状態を反映、そして赤色は再灌流の状態を反映し、あくまでも3段階存在する。また、最初の2段階(青→白色)では主に絞扼感を、最後の段階(赤色)では焼け付くような疼痛を伴うことが典型。

・四肢を加温することで色調は戻る傾向にある。ただし、発作は数分から数時間続くケースもある

・二次性レイノー現象の患者は重症例の割合は比較的高く、無治療例ではときに四肢の潰瘍形成などに至る。

アセスメント

 <病歴>

・レイノー現象は病歴、身体所見などから総合的に臨床診断される。

・病歴としては前述の色調変化や増悪寛解因子を把握し、また可能であれば発作時の色調変化の画像を撮影してもらうことが重要。

・二次性レイノー現象の可能性を評価するためには病歴のほか、身体所見も重要。

・ときに職業性のレイノー現象が一部存在し、寒冷曝露や振動工具を使用する職業に就業しているかどうかも確認を要する。

・ほか喫煙が発作に影響を及ぼすケースもあるため、喫煙歴を聴取。

・”Raynaud’s condition score”は患者が経験する症状による日常生活への影響を定量化することができ、参考になる。

 <血液検査>

・原発性レイノー現象の患者では血液検査が必須でない。

・ただし、二次性レイノー現象が疑われる患者では背景にあるリウマチ性疾患や血液疾患などに関係する項目を検査することが望ましい。状況に応じて、ANA、抗Scl-70抗体、抗SS-A抗体、ESRなどの提出を検討する

・なお、血液検査の陰性結果をもとに除外ができる疾患はごく一部であるため、病歴、身体所見なども総合的に加味して判断することとなる。

・強皮症をはじめとする二次性レイノー現象の原因疾患では爪床Capillary microscopeで観察することで、爪床における毛細血管の蛇行、拡張、消失などの変化が認められることがある(一方で、一次性レイノー現象では規則正しい毛細血管の配列がみられる)。

レイノー現象、強皮症関連自己抗体、Capillary microscopeで強皮症パターンが確認される患者約80%はそれから15年以内に強皮症を発症する。しかし、Capillary microscopeで確認される爪床の毛細血管所見が正常であれば、強皮症を発症する可能性はほぼゼロとされている。実際、Capillary microscopeは欧州リウマチ学会(EULAR)が全身性強皮症の早期所見として指摘している。

リウマチ科への紹介を検討するケース

・多くのケースはプライマリケアの現場で対応が可能。

・ただし、以下のようなケースはリウマチ科への紹介を検討するべき。

  1. 診断が不確実
  2. 二次性レイノー現象が疑われる
  3. 職業関連のレイノー現象が疑われる
  4. 患者が12歳未満である
  5. 指に潰瘍形成がある
  6. 適切な保存的加療を行っても、症状管理が不十分である

治療

・プライマリケアの現場におけるレイノー現象のマネジメントとして、まずは生活習慣の改善が挙げられ、通常この対応で症状は改善し、それ以上の治療を要さないことが多い。

・二次性レイノー現象では基礎疾患の治療が必要である。

 <非薬物療法>

・保存的加療としては、まず寒冷曝露や精神的ストレスなどの誘因の除去に努めることが重要。市販のカイロなどでなるべく四肢を温めておくことは実践的な助言となる。

・職場環境に原因がある場合には就労環境の調整も検討する。

腕を風車のように回したり、手を温水に浸けたり、腋窩などの温かい部分に挟んだりする方法は指先への血流を増加させるため症状軽減に有用と考えられる。ほか、両腕を肩よりも高く挙げ、腕を体の前後に勢いよく振り下ろす方法(Swing-arm maneuver)も同様の理由で有用である。

・ときに重いものが入ったバッグを指先で持つ場合には血流悪化を来し症状を増悪させることに留意する。

・栄養療法の有効性は示されていない。

・一般的なリラクゼーションは精神的な緊張を緩和することで、誘因除去につながる可能性がある。

イチョウ葉エキスの有用性は10年以上にわたって研究されている。RCTではレイノー現象の存在が確定している患者の症状発現頻度を、イチョウ葉エキスの摂取によって56%減少させたことが示されている(プラセボ群では27%減少)。ただし、別の研究ではニフェジピンが50.1%減少させたのに対し、イチョウは31%の減少に留まったため、ニフェジピンの有用性には劣る可能性が示唆される。ただし、イチョウには大きな副作用がなく、比較的忍容性も高いため、選択肢としては挙げられる。

 <薬物治療>

・レイノー現象の治療に広く用いられているのは非DHP系CCBに相当するニフェジピンである。ニフェジピンは血管拡張を来してレイノー現象に効果を発揮する。メタ解析ではニフェジピン10~20mg 1日3回の投与によって、発作回数が1週間あたり2.8~5.0回減少し、また重症度も33%減少することが示された。ただし、効果は一時的と考えられ、状況によってはより長期間作用するアムロジピン、ジルチアゼムが選択されることもある。なお、血圧低下、皮膚紅潮、頭痛、頻脈などの副作用もときにみられる点に留意が必要。

・ほかにイロプロストやPDE5阻害薬などの有効性も検討されているが、EULARは薬物治療としてはニフェジピンを第一選択とするべきと勧告している。

・RCTではARBの一つであるロサルタンがニフェジピンよりも発作頻度と重症度をより大きく減少させることが示唆された。EULARはロサルタンの使用については検討可能ではあるものの、エビデンスが十分とはいえないという見方をとっている。

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<参考文献>

・Goundry B, Bell L, Langtree M, Moorthy A. Diagnosis and management of Raynaud's phenomenon. BMJ. 2012 Feb 7;344:e289. doi: 10.1136/bmj.e289. PMID: 22315243.

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