原発性月経困難症 primary dysmenorrhea
月経困難症とその疫学
・原発性月経困難症(primary dysmenorrhea)は骨盤内病変が存在しない状況で、月経時に疼痛を伴い日常生活に支障をきたす状況を指す。
・一方で、二次性月経困難症は子宮内膜症などの器質因が関係し、月経時の疼痛が生じる状況を指す。
・月経困難症は思春期以降で発症する。疼痛は月経開始時のプロゲステロン減少により惹起される子宮収縮に伴って生じていると考えられている。子宮収縮によって一時的な子宮の虚血が生じ、それに伴って分泌されるプロスタグランジンが疼痛を起こす。子宮の収縮は通常、数分間続くことが多い。ただし、疼痛は子宮収縮以外にも様々な要因による修飾を受けていることもある。
・全体の1/3~1/2に相当する女性が中等度から重度の月経痛を経験し、疼痛の影響で学校や職場へ行くことも困難な場合もある。しかし、患者の多くはこの症状に対する医療機関での治療を受けられていない。そういった状況の背景には患者が「月経困難症による症状は避けられないもの」という風な解釈に基づくという報告もある。
・月経痛の程度は一般的に年齢と逆相関関係にある。したがって、思春期において症状が顕著になりやすい。
・喫煙は月経痛を悪化させる。また、受動喫煙による影響もある。
・経産婦は月経困難症の有病率が低い傾向にある。
・生活環境変化が多いこと、社会的なつながりが小さいこと、ストレスが多いことなども月経困難症に関係していることを示す報告もある。また、低所得層で月経困難症の有病率はより高い可能性も指摘されている。
・気分障害を合併することもある。
自覚症状
・通常、原発性月経困難症では月経開始の数時間前から数時間後にかけて、差し込むような恥骨上部の疼痛がみられる。経血量が最大に達したタイミングの約24時間後に月経痛はピークに達し、2~3日間続くこともある。
・程度に差はあるが、症状は毎回の月経毎にある程度の再現性がみられる。
・疼痛は下腹部正中に生じ、疝痛の形式をとる。鈍痛として自覚されることもあり、ときに左右下腹部、腰部、大腿部まで疼痛が自覚される。そのほか悪心/嘔吐、下痢、易疲労感、めまい、頭痛、立ちくらみなどを伴う。また、稀ではあるが、失神や発熱を伴うケースもある。一連の症状は前述のプロスタグランジンによる影響と説明が可能。
月経困難症の鑑別診断
・原発性月経困難症
・二次性月経困難症:
・子宮内膜症
・子宮腺筋症
・子宮筋腫
・子宮頸管狭窄
・生殖器の閉塞性病変
・月経痛の原因となる、その他の疾患:
・骨盤内炎症性疾患(PID)
・骨盤内癒着
・過敏性腸症候群
・炎症性腸疾患(IBD, Crohn病)
・間質性膀胱炎
・気分障害
・筋筋膜性疼痛
臨床的なアプローチ
<病歴聴取>
・月経痛を有する患者の診療を行う際には原発性月経困難症と二次性月経困難症とを鑑別することを意識するべきである。
・月経に関する情報として、初経年齢、月経周期/持続期間、月経の規則性、経血量、初経から月経困難症が始まるまでの期間を聴取する。なお、初経時に月経困難症が既に伴っていた場合にはMüller管奇形を示唆している可能性がある。
・ときに性活動歴、性交時痛の有無、避妊の有無についての情報も重要となる。
・過去の産婦人科受診歴/既往歴、性感染症、不妊症、性的暴力の既往なども含めた情報も状況に応じて聴取する場合がある。
・気分障害を合併することがあるため、精神症状の有無についても注意する。
<身体診察>
・腹部診察では触知可能な病変がないかを確認する。
・性的活動歴がなく、月経困難症として典型的な病歴を有する患者では内診は必須でない。ただし、処女膜閉鎖症や処女膜強靭症などを除外する目的でルーチンでの内診を推奨するExpertもいる。
・一般的には病歴から子宮内膜症や先天性奇形などの器質因が疑われる場合や、標準治療に対する治療反応性が不良な場合に内診を含めた骨盤に関する検査が検討される。
<臨床検査>
・血液検査や画像検査は通常、原発性月経困難症の診断に有用でない。
・月経困難症の初期評価において超音波検査を実施することは必須でない。ただし、標準治療に対する治療反応性が不良な場合、身体所見で異常が認められる場合などでは二次性月経困難症の可能性を想定して実施するべきである。
・実際、超音波検査では腫瘤性病変やMüller管奇形を指摘できることがある。ただし、超音波検査で異常所見がなくても、器質因がないとは限らない点に留意する。
・MRI撮像は子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症、子宮奇形などの診断において有用。本検査も月経困難症の患者において、全例で実施する必要はない。標準治療を3~6ヶ月間ほど試したうえで、臨床経過が芳しくない場合に撮像するべきである。
・子宮内膜症ではCA125が高値を示す場合がある。ただし、感度と特異度は十分でないため、付属器腫瘤が認められない場合ではCA125の測定は推奨されない。
・また子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、骨盤癒着などが疑われる場合で、かつ内科的管理で奏功しないケースでは腹腔鏡検査を実施することが検討される。
治療
<非ホルモン療法>
・主にアセトアミノフェン、NSAIDsが使用される。
・アセトアミノフェンは消化性潰瘍などの副作用もなく、比較的使用しやすい。
・NSAIDsの薬剤毎の有効性の比較では、有効性、安全性のいずれにおいても差はなかった。なお、NSAIDsを服用する患者ではプラセボ薬に比して、日常的な活動制限や、仕事や学校を休む患者の割合が有意に低いことも示されている。
<ホルモン療法>
<低用量エストロゲン・プロゲスチン療法(LEP)>
・経口避妊薬(OC: Oral contraceptive)にはエストロゲンとプロゲステロンが低用量配合されている。排卵と子宮内膜増殖を抑制し、それに伴い経血量とプロスタグランジン分泌量が減少することが知られている。
・複数の観察研究で、OCの使用が月経困難症の発生率低下と相関することが示されている。また、OCの使用はプラセボ薬と比較して、仕事や学校を休む日数を大幅に減少させることが示されている。なお、OCの連続服薬と周期投与とで有効性を比較したRCTでは連続服薬群の方で有意に高い有効性が示された。
・なおOCは後に二次性月経困難症であったことが発覚したケースでも有効であったことが報告されている。したがって、仮に器質因の存在が疑われるケースであってもOCの使用を選択できる。
<黄体ホルモン療法>
・ジェノゲストは子宮内膜症による月経困難症の治療に関して、プラセボ薬よりも有効であることが示されている。また、リュープロレリンと比較しても遜色ないと考えられている。
・そのほかの詳細は割愛する。
<非薬物治療>
・主に運動療法、局所の加温、栄養療法、ハーブサプリメントの有効性が示されている。
・複数の研究で運動は月経困難症の症状軽減に有効であることが示されている。
・鍼治療については有効性に関する報告が一貫していないが、質の高い研究結果を重視すれば、現時点では鍼治療の有効性を裏付けるデータに乏しいと考えられている。
・RCTでは下腹部に温熱パッドを貼付することは月経痛緩和において、プラセボ薬よりも優れ、なおかつイブプロフェンと同等の効果であったことが報告されている。また、温熱療法をイブプロフェンと併用で利用した場合、イブプロフェンを単独で使用した場合よりもさらに症状改善までの期間が早いことも示されている。
・栄養療法としては複数の食物に関する研究がなされているが、特にショウガの有効性は示唆されている。あるRCTでは月経の最初の3~4日間においてショウガ 750~2,000mgを摂取すると、NSAIDsと同等の効果があったことが示された。
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<参考文献>
・Burnett M, Lemyre M. No. 345-Primary Dysmenorrhea Consensus Guideline. J Obstet Gynaecol Can. 2017 Jul;39(7):585-595. doi: 10.1016/j.jogc.2016.12.023. PMID: 28625286.