インフルエンザ influenza
インフルエンザ感染症とその疫学/感染伝播
・インフルエンザ感染症は主にインフルエンザウイルスA型およびB型の感染によって生じる。
・温帯地帯では秋~冬に流行する。
・通常は数日程度で自然軽快するが、特に妊娠中の方や免疫不全状態にある方では合併症を生じることもある。妊婦のインフルエンザ感染症では妊娠1期よりも、2期あるいは3期の方がより月餅症リスクが高いと考えられている。
・インフルエンザ感染症は1年~4年程度の間隔で流行を繰り返す。
・歴史上最大のパンデミックは1918年~1919年にかけて発生していて、”スペイン風邪”と称された。死者は世界中で約2,100万人に及んだと報告されている。
・ウイルスは主にくしゃみ、咳嗽時に飛沫によって伝播する。感染が生じるのは1m以内の至近距離で患者と接触している場合がほとんどである。通常、ウイルス排出は発症の24~48時間前から始まる。ウイルス排出は発症6~7日程度まで続くとされるが、10日程度という報告もあり、まちまちである。なお、小児、高齢者、免疫不全者ではウイルス排出期間、感染期間がより長期化する可能性が想定される。
病因
・インフルエンザウイルスは”Orthomyxoviridae”と呼ばれるウイルス科に属するRNAウイルスである。
・主にA型、B型、C型に分類される。特に流行時に原因となるのはA型とB型である。
・インフルエンザウイルスの外層には重要な糖タンパク質として、赤血球凝集素(HA: hemagglutinin)、ノイラミニダーゼ(NA: neuraminidase)が存在し、両者とも発症に重要な役割を果たす。
・A型の場合、少なくとも16種類のHA(H1~H16)、9種類のNA(N1~N9)が確認されている。
臨床症状/臨床経過
・インフルエンザは通常1~2日程度の潜伏期間を経て、急性経過で発症する。
・症状としては主に高熱、筋肉痛、関節痛、悪寒戦慄、頭痛、倦怠感、咳嗽、咽頭痛、鼻汁などがみられる。
・筋肉痛は腓腹部(特に小児発症例)や、傍脊柱筋をはじめとした背部の筋肉で顕著である。また、外眼筋に生じれば眼球運動時痛がみられることもある。全ての横紋筋が侵される可能性がある。
・症状は比較的急激な経過で生じるため、発症の正確な時期を言えることが多い。
・発症初期は高熱がみられるが、2~3日目には解熱傾向に転じ、徐々に回復する。ただし、ときに症状は4~8日程度続く。
合併症
<肺炎>
・インフルエンザの最もよくみられる合併症である。
・肺炎はインフルエンザウイルスが原因で、インフルエンザ感染症に連続して発症するケース(原発性肺炎)もあれば、発症から数日程度経過してからウイルスと細菌との混合感染として発症するケース(二次性肺炎)もある。
・特に原発性肺炎のケースで急性呼吸促迫症候群(ARDS)を合併することもある。典型的には発症2~5日目に進行性の呼吸困難、低酸素血症を呈し、ときに人工呼吸を要する経過に至る。
・二次性肺炎では黄色ブドウ球菌の関与する割合が比較的増える。
<非呼吸器系合併症>
・心筋炎や心膜炎を合併することがある。ある前向き研究では心原性の症状を有していないインフルエンザ感染症患者の約半数が受診時に心電図異常がみられていたと報告されている。
・心筋炎は多くのケースで28日以内に軽快する。
・稀ながら横紋筋融解症、筋炎、ギラン・バレー症候群、脳炎、急性肝不全、Reye症候群などを合併することがある。主にA型に感染後に生じる。
診断
・インフルエンザの大多数は臨床症状から診断され、検査は必須ではない。
・インフルエンザ抗原迅速検査も利用可能で、通常は30分以内に結果が得られる。報告によって差はあるが、検査の感度は50~70%で、特異度は90%後半とされる。したがって、除外(rule out)に適した検査ではなく、確定診断(rule in)に適した検査といえる。また、発症初期はウイルス総量が多いため、検査の感度は比較的高まることが想定される。
・臨床診断と検査による診断とで、医療経済的な影響がどう異なるかという点についてはコンセンサスが得られていない。
治療
・インフルエンザ感染症の抗ウイルス薬としては4種類利用可能である。
・抗ウイルス薬は特に発症24時間以内に投与された場合で最も効果的。なお、48時間以上経過したケースにおける有益性ははっきりしていない。
・抗ウイルス薬は有症状期間を約0.5~1日間ほど短縮すると考えられている。
・合併症のハイリスク者に該当しない患者を治療する有益性は小さい。
・外来患者では主にオセルタミビル(タミフル®)またはザナミビル(リレンザ®)の使用が推奨される。
・入院患者ではオセルタミビル、ザナミビル、またはペラミビル(ラピアクタ®)の使用が推奨される。入院を必要とする患者は原則として全例で治療適応となる。なお、ペラミビルは使用可能な唯一の点滴製剤で、単回投与を基本とする。
・オセルタミビルでの治療用量は成人では75mg1日2回投与(5日間)である。日本小児科学会はオセルタミビルについて新生児(生後2週以降が対象)、乳幼児、就学児においても使用を推奨している。なお、小児で使用する際には体重に基づいて用量を決定する。
・ザナミビルでの治療用量は成人では10mg(2ブリスター)を2回吸入(5日間)である。なお、日本小児科学会は5歳未満については多くの場合で吸入困難とし、6~11歳の小児に関しては吸入可能であれば使用を推奨している。また、ザナミビルは気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者で使用した場合に薬剤による気管支痙攣作用などで状態が悪化する場合があるため、注意する。
・妊娠中または授乳中ではオセルタミビル、ザナミビルの使用は比較的安全と考えられる。妊娠中は安全性に関する報告がより多いオセルタミビルの使用がより勧められる。
・小児の治療について、以前は10歳代の患者でオセルタミビルの使用を差し控えることが推奨されていたが、現在はそういったステートメントは削除されている。投与する抗ウイルス薬の種類に関わらず、小児では少なくとも発熱から2日間程度は異常行動などについて注意して経過観察をすることが望ましい。
<成人・小児患者で治療が推奨されるケース>
- 症状出現48時間以内で、合併症リスクが高く、インフルエンザ感染症が臨床的に疑われるか、迅速検査で陽性となったケース。
- 入院が必要な患者で、基礎疾患に関わらず、症状出現48時間以内に位置し、インフルエンザ感染症が臨床的に疑われるか、迅速検査で陽性となったケース。
- 症状出現48時間以上が経過し、迅速検査が陽性となった外来患者で、かつ合併症リスクが高いか、または症状が改善しないケース。
<合併症のハイリスク者>
・12~24ヶ月のワクチン未接種の乳児
・喘息、小児の嚢胞性線維症、成人の慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性肺疾患のある患者
・重要な心疾患のある患者
・免疫抑制状態にある方、HIV感染者
・鎌状赤血球症およびその他のヘモグロビン異常症の患者
・慢性腎機能障害がある患者
・がん患者
・糖尿病などの慢性代謝性疾患、神経筋疾患、認知機能障害などがある患者
・関節リウマチなどの長期的なアスピリン使用をしている患者
・65歳以上の成人
・年齢を問わず、介護施設に入所している方
予防接種
・合併症リスクが高い方、特に妊婦、6~60ヶ月の乳幼児、高齢者、COPDや糖尿病などの慢性疾患を有する患者、ハイリスク者(医療者など)などにおいて、WHOは毎年のワクチン接種を特に推奨している。
・目安として、北半球では10月、南半球では5月までにワクチン接種を完了することが望ましい。
・生後6ヶ月以上、13歳未満の小児に関するワクチン接種は2回接種が原則となる。投与間隔は最低4週間空けることが望ましい。
曝露後予防
・曝露後予防に利用される薬剤はオセルタミビル、ザナミビルが挙げられる。
・対象はインフルエンザ感染症を発症した患者と濃厚接触した方のなかで、合併症のハイリスク者に相当するケース、ワクチン未接種者が相当する。
・治療期間は7~10日間が推奨される。
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<参考文献>
・Moghadami M. A Narrative Review of Influenza: A Seasonal and Pandemic Disease. Iran J Med Sci. 2017 Jan;42(1):2-13. PMID: 28293045; PMCID: PMC5337761.