前庭性片頭痛 vestibular migraine
前庭性片頭痛とその疫学
・前庭性片頭痛(以下VM: vestibular migraine)は片頭痛発作に回転性もしくは非回転性めまいを伴うものを指す。
・めまい症のうち2番目に多い原因ともされ、人口の約3%に影響を及ぼしているという推定もある。
・慢性片頭痛患者の最大60%でVMの診断基準を満たす可能性があり、また前兆のある片頭痛患者では最大73%でVMの診断基準を満たす可能性がある。
・原因不明のめまい症ではVMを鑑別診断に含めるべきである。
・様々な年齢で発症し得るが、前庭症状の好発年齢は男性では30歳代、女性では更年期前後に相当する。
・良性発作性頭位めまい症(BPPV)、乗り物酔い、メニエール病などの他のめまいをきたす疾患を併発する可能性も比較的高い。また、片頭痛患者の約40%が持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の診断基準を満たすことも知られている。
臨床症状/臨床経過
・患者はときに自分の症状を表現することが容易でないことに留意する。
・前庭症状は片頭痛の発作の前、最中、後のほか、間欠期のいずれにおいても生じ得る。
・ある調査では前庭症状の平均持続時間は約32分間で、月3回ほどの頻度であったとされている。ただし、頭痛の頻度、重症度がより高いケースでは前庭症状もより重度である傾向にある。
・ときにうつ病、抑うつ症状、不安症状なども併存する。
・VMでは頭痛を訴えることもあれば、頭痛と表現せずに三叉神経V1~3領域、後頭部、頸部などの”圧迫感”などというふうな表現がされることもある。実際、頸部の緊張は片頭痛ではよくみられる症状である。
・通常の片頭痛の発作と同様に心理的ストレスや気象変化などによって前庭症状も生じ得る。
診断基準(ICHD-3) 2013年
- CとDを満たす発作が5回以上ある.
- 現在または過去に「前兆のない片頭痛」または「前兆のある片頭痛」の確かな病歴がある.
- 5分~72時間持続する中等度以上の前庭症状がある.
- 発作の少なくとも50%は以下の3つの片頭痛の特徴のうち少なくとも1つを伴う.
- 1. 以下の4つのうち, 少なくと2つを満たす頭痛
- a) 片側性
- b) 拍動性
- c) 中等度または重度
- d) 日常的な動作により増悪
- 2. 光過敏と音過敏
- 3. 視覚性前兆
- 1. 以下の4つのうち, 少なくと2つを満たす頭痛
- 他に最適な診断がない, または他の前庭疾患によらない
治療
・通常の片頭痛治療がVMにも有効であることが示されている。
・複数の予防治療が奏功しないケースであっても、CGRP経路を標的とした薬物療法を継続することで有効性が発揮されることがある。
・VMでは不安症状や抑うつ症状が併存することもあり、向精神病薬が使用されることもあるが、前庭症状の頻度や重症度の改善具合は、必ずしも精神症状の改善具合と相関しないことが既に示されている。
・ケースによってはライフスタイルや食生活などの修正を試みることも重要。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Villar-Martinez MD, Goadsby PJ. Vestibular migraine: an update. Curr Opin Neurol. 2024 Jun 1;37(3):252-263. doi: 10.1097/WCO.0000000000001257. Epub 2024 Apr 15. PMID: 38619053; PMCID: PMC11064914.