特発性全身性毛細血管漏出症候群 SCLS: systemic capillary leak syndrome
特発性全身性毛細血管漏出症候群とその疫学
・特発性全身性毛細血管漏出症候群(以下SCLS: systemic capillary leak syndrome)とは可逆的な血液濃縮と低アルブミン血症を特徴とする疾患である。
・1960年にBayard Clarkson医師がショックや全身性浮腫を繰り返す女性について報告したのが最初の症例と考えられていて、Clarkson病とも呼ばれる。
・1960年以降、500例未満であるが、症例報告はされている。死亡率が高いが、疾患の認知度が依然として低い。
・明確な病態生理は不明であるが、血管内皮機能障害により血管透過性が亢進し、血漿や蛋白が間質に漏出することによって生じていると考えられている。
・意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)がSLCS患者の68~85%で併存することが知られている。Mタンパク血症の存在はSCLSの支持的な所見となる。
・診断時の年齢中央値は48歳であるが、年齢の幅としては新生児から85歳まで様々である。
・男女差はほとんどない。女性が52%を占める。
・全死亡率は14%という報告がある。
臨床症状/臨床経過
・通常、筋肉痛などの前駆症状がみられ、その後に急激な経過でショックに至ることもある。こういった発作のようなエピソードを反復することも特徴である。
・発作(attack)の直前には約3/4のケースでウイルス感染症のような前駆症状がみられる。
・著明な低血圧(通常sBP<90mmHg)、低アルブミン血症(<3.0g/dL)、血液濃縮(男性でHt<49~50, 女性でHt<43~45)が三徴として知られる。
・発作の誘因としては激しい運動や温熱曝露なども知られる。
・古典的には急速な血漿漏出によるショックおよび体液貯留が生じ、この状態が数日間続く。発作の持続期間の中央値は3.8日(1~27日)である。
・発作の間欠期には浮腫は認められないことが多いが、発作時には胸腹水貯留、消化管の浮腫性壁肥厚がみられる。
・症状の重症度や頻度は個人差が大きい。また経過とともに変化する。
・発作頻度は少なくても10年に1回、多くて3~5日に1回という報告もある。年間発作頻度の中央値は1.2回(0.13~21.2回)。
・なかには血圧低下が軽度にとどまり、易疲労感、めまい、脱力感、四肢の軽度の浮腫などを主に呈するケースもある。原因不明の非周期的な末梢性浮腫を呈するケースは、chronic SCLSと呼ばれる。
・SCLSによる重度の浮腫がみられるケースではときに四肢のコンパートメント症候群が生じ、筋膜切開術を必要とするケースもある。
診断
・SCLSは臨床診断であり、他の低アルブミン血症をきたす疾患(例: ネフローゼ症候群)などを除外する必要がある。
急性SCLSの治療
・SCLSは稀な疾患であるため、治療の根拠はRCTなどでなく、観察研究に基づく。
・低血圧や血液濃縮がみられるケースでは補液で血管内容量を補い、臓器灌流を維持し、代謝性アシドーシスを回避することが重要である。
・ある症例報告では重症の発作中にメトヘモグロビン値が上昇したことが確認され、一酸化窒素の増加が低血圧の一因となっている可能性が示唆されている。
・乏尿は一過性であることが多く、通常は必ずしも血液透析を必要としない。
・血液濃縮などの影響で深部静脈血栓症を合併しやすいため注意を要する。
・ときに四肢の浮腫が重度になると、コンパートメント症候群を合併する。必要に応じて整形外科医とも連携をとることとなる。筋区画内圧は40mmHgを超えると筋膜切開の必要性が高まると考えられている。
・postleak phaseでは肺水腫を予防するために、むしろ積極的な利尿が重要となる。
・SCLSに伴う血管漏出は数日後にはほぼ自然に回復することもあり、急性期治療の有効性を評価することがそもそも難しい側面がある。
・現時点でステロイドを含む抗炎症作用を有する薬剤が急性SCLSに有効であるという根拠は少ない。
・テオフィリンは急性SCLSの治療に有効であることが報告されていて、再燃時にはアミノフィリンの静注を推奨されている。
・また、高用量の免疫グロブリン静注療法(IVIG)によって低血圧が改善し、利尿が促進されたという報告が複数ある。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Druey KM, Parikh SM. Idiopathic systemic capillary leak syndrome (Clarkson disease). J Allergy Clin Immunol. 2017 Sep;140(3):663-670. doi: 10.1016/j.jaci.2016.10.042. Epub 2016 Dec 22. PMID: 28012935; PMCID: PMC5481509.