急性胆嚢炎 acute cholecystitis
急性胆嚢炎とその疫学
・急性胆嚢炎(acute cholecystitis)と診断された患者の90~95%は胆嚢管への胆石嵌頓が原因である。
・胆石症患者の約20%は最終的には年間1~4%の割合で胆嚢炎をはじめとする胆石関連合併症を発症する。
・胆石を伴わない急性胆嚢炎は全体の5~10%存在するが、その原因は多様である。原因には欠食、血管炎、糖尿病、HIV感染症、動脈硬化などが含まれる。通常は50歳以上に発症し、男性は女性の約3倍発症しやすい。
リスク因子
・胆石症は急性胆嚢炎の最も一般的なリスク因子である。
・胆石症は女性において男性の2~3倍多く認められるが、この差は加齢に伴って小さくなる。
・小児における胆石症の原因としては遺伝性球状赤血球症、サラセミア、鎌状赤血球症などの先天性溶血性疾患が一般的である。
・妊娠によって胆石や胆泥形成は促進される。また、肥満も胆石症のリスク因子である。なお、肥満手術による大幅な減量は胆石症の発症と関与している。
・薬剤性ではオクトレオチド(1ヶ月以上の使用で発症率5~66%)、セフトリアキソン(10回の投与で発症率8.8%)などの一部の薬剤で胆石形成リスク上昇と関連していると報告される。
・無石性胆嚢炎のリスク因子としては完全非経口栄養(16%)、重度の外傷(10%)、骨髄移植(4%)、熱傷(0.4~3.5%)、重症疾患(0.2~0.4%)、人工心肺を必要とする心臓手術(0.08%)が挙げられる。
病態生理
・胆石または胆泥による胆嚢管閉塞後に、胆石性胆嚢炎が発症する。
・胆嚢管閉塞の程度と期間とが急性胆嚢炎への進行速度と炎症による重症度とを規定する。胆嚢管閉塞により胆嚢内圧が上昇し、急性炎症反応が惹起される。
・腸内細菌、通常は大腸菌、クレブシエラ菌、腸球菌による二次性細菌感染は急性胆嚢炎患者の約20%で発生する。
・胆嚢管閉塞後には3つのPhaseを経て、胆嚢炎は進行すると考えられている。第1期は炎症によって特徴づけられ、胆嚢壁のうっ血と浮腫が顕在化する(症状発現2~4日目が典型)。第2期は胆嚢壁の出血と壊死とによって特徴づけられ、壊死部分で穿孔が生じ、それに続き胆汁性腹膜炎に至る可能性がある(症状発現3~5日目が典型)。第3期は慢性期または化膿期とも呼べ、白血球浸潤、壊死組織形成、感染を伴い、膿瘍形成や重篤な感染症に至る(症状発現6日目以降が典型)。この一連の経過のなかで膿瘍が肉芽組織に置換され、亜急性胆嚢炎、そして最終的に慢性胆嚢炎へと進行する。
・無石性胆嚢炎の原因は前述したように多様であるが、こちらも胆汁うっ滞または胆嚢壁の虚血によって生じる。胆汁うっ滞は絶食や腸閉塞によって生じやすく、胆汁が濃縮される。濃縮された胆汁はそれ自体が胆嚢上皮にたいして直接的な毒性を発揮すると考えられている。その後、胆嚢の微小血管閉塞による内皮障害が生じ、胆嚢炎に至る。無石性胆嚢炎の患者の最大50%で壊死、膿瘍形成、穿孔へ進行する。
臨床症状/身体所見
・持続する右上腹部痛を自覚するケースでは食事との関連性に関わらず、急性胆嚢炎の可能性を想起する。発熱、悪心嘔吐が典型的な初発症状である。
・発熱の感度は31~62%と十分でない。発熱がなくても胆嚢炎は除外されない。
・限局性腹膜炎を反映する右上腹部の圧痛は患者の95.7%で認められる。
・右上腹部の触診時に深吸気をしてもらうと疼痛で一瞬吸気が止まることがあり、それをMurphy徴候と呼ぶ。Murphy徴候は感度62%、特異度96%とされる。
血液検査
・通常、左方移動を伴う白血球増多がみられる。
・重症の急性胆嚢炎では軽度の黄疸(Bil高値)がみられることがある。これは胆管への炎症波及または胆嚢の拡張によって胆管が直接的に圧迫されることで胆管閉塞をきたすことによって生じる。
・急性胆嚢炎を疑った場合には血液検査のほかに、腹部エコー、造影CT撮像などが検討される。
腹部エコー
・超音波検査は安価で、被曝を伴わない点でも有用で、急性胆嚢炎の初期評価に適している。
・通常、胆嚢周囲の液体貯留、胆嚢腫大、浮腫状の胆嚢壁、胆石または胆泥がみられる。
・メタ解析では超音波検査は胆嚢炎の診断に関して感度81%、特異度80%と報告される。
・Sonographic Murphy signはプローブを胆嚢に当てた際に疼痛が最大となる身体所見として知られるが、こちらは感度48%と不十分であるが、特異度は96%と高いことが知られる。
CT撮像
・CT撮像では胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚、胆嚢周囲脂肪織濃度上昇、胆嚢周囲の液体貯留などがみられる。
・CT撮像で確認できない場合であっても胆石症は除外できない点に留意する。胆石はその主成分と撮像スライスの厚みとによる影響を受ける。胆石の少なくとも20%は胆汁と同程度のCT値を示し、CT撮像で指摘できないことがある。
・造影CT撮像で造影早期相で胆嚢床の造影増強効果がみられることがある。
・またtensile gallblader fundus signも診断的意義が大きいという報告がある。所見としては胆嚢底が腹壁に沿って尖ってみえる。
・メタ解析ではCT撮像の感度は94%、特異度は59%と報告される。
MRI/MRCP撮像
・MRI/MRCP撮像での急性胆嚢炎でみられることがある所見としては①胆石(通常、胆嚢頸部または胆嚢管に存在) ②胆嚢壁肥厚(3mm超) ③胆嚢壁の浮腫性変化 ④胆嚢腫大(短径 40mm超) ⑤胆嚢周囲の液体貯留 ⑥肝周囲の液体貯留 が挙げられ、これら6つの所見のうち1つ以上が認められることは急性胆嚢炎の診断に関して感度88%、特異度89%と報告される。
・また気腫性胆嚢炎、穿孔性胆嚢炎の可能性を評価するためにも有用で、CT撮像ができないケースや判断が困難なケースでは利用が検討される。
胆石発作
・胆石発作はときに急性胆嚢炎の重要な鑑別疾患となる。
・胆石発作は胆管の閉塞によって生じる。疼痛は間欠的なものでなく、持続的なものとなる。
・通常、胆石が胆嚢内に戻ることで初めて疼痛が緩和される。
・胆石発作は食後2時間以内に発症し、数時間以内に症状が改善することが典型的な病歴である。腹部エコーで確認すると胆嚢壁などは正常範囲にあり、胆嚢周囲液体貯留などもみられない。
治療
・標準治療は胆嚢摘出術で、現在は腹腔鏡手術で行われることも多い。
・Trialは様々存在するが、概して早期胆嚢摘出術(診断24~72時間以内に実施)は、それよりもさらに遅いタイミングで胆嚢摘出術を行うケースよりもより良好な転帰と関連することが示されている。なお、腹腔鏡下胆嚢摘出術を受ける患者の約2~15%は開腹手術にされることが知られる。
・抗菌薬は可及的速やかに投与されることが望ましい。通常は腸内細菌科グラム陰性桿菌、嫌気性菌をスペクトラムに含めた抗菌薬選択がなされ、地域のアンチバイオグラムや患者背景なども加味して決定する。敗血症や創部感染のリスクを低くするためにも手術前の早い段階で投与がなされるとよい。
・術後の抗菌薬投与は感染が残存していると考えられるケースや、敗血症の徴候が認められるケースのみに限定し、実施が考慮される。
妊娠中に発症した胆嚢炎の治療
・妊娠中に発症した急性胆嚢炎については妊娠のどの時期であっても腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うことが推奨されている。
・胆嚢摘出術に伴う種々のリスクは、非外科的治療を選択する場合に伴うリスクよりも低いことが示唆されている。
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<参考文献>
・Gallaher JR, Charles A. Acute Cholecystitis: A Review. JAMA. 2022 Mar 8;327(10):965-975. doi: 10.1001/jama.2022.2350. PMID: 35258527.
・An C, Park S, Ko S, Park MS, Kim MJ, Kim KW. Usefulness of the tensile gallbladder fundus sign in the diagnosis of early acute cholecystitis. AJR Am J Roentgenol. 2013 Aug;201(2):340-6. doi: 10.2214/AJR.12.9919. PMID: 23883214.