アレルギー性鼻炎 allergic rhinitis
アレルギー性鼻炎とその疫学
・アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis)は季節性と通年性とに区別される。
・症状としは主にくしゃみ、目、鼻、喉元の掻痒感、鼻汁、鼻閉などがある。
・特定の空中アレルゲン(季節性の植物など)、通年性アレルゲン(ダニ、ネコやネコなどのフケ、ゴキブリなど)に対する特異的IgE抗体検査で陽性が示されることもある。
・世界人口の約5億人に影響を及ぼしていると考えられている。QOL低下、医療費の増加と関連しやすい。患者の約30%が記憶力などの低下や、不安、抑うつ気分を経験し、成人患者の約82%が仕事の質の低下を自覚している。また小児患者の約92%で学業成績に影響があると報告されている。
・喘息、アトピー性皮膚炎、慢性or再発性副鼻腔炎、緊張型頭痛、片頭痛と併存しやすい疾患である。
・季節性アレルギー性鼻炎で最も症状が重度となる季節としては春(52%)、秋(29%)、夏(15%)、冬(13%)とされる。なお、通年性アレルギー性鼻炎では鼻閉と鼻汁の症状が1年を通じてみられやすい。
病態
・アレルゲンの侵入により、抗原提示細胞が処理を行い、ナイーブT細胞がIL-4などのサイトカインを放出するヘルパーT細胞へと分化することで、気道におけるアレルゲン感作が生じる。
・このプロセスのなかで、アレルゲンに特異的なIgE抗体が産生され、そのIgEが肥満細胞、単球などのIgE受容体に結合する。結果としてヒスタミン、ロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが放出される。メディエーターは粘液分泌腺、知覚神経の受容体に作用し、くしゃみ、鼻汁、鼻閉などの症状を誘発する。
鑑別診断
・主な鑑別診断には局所アレルギー性鼻炎、非アレルギー性鼻炎、職業性鼻炎、感染性鼻炎、薬剤誘発性鼻炎などがある。
・局所アレルギー性鼻炎(LAR)はアレルギー性鼻炎と類似した病像を呈するが、空中アレルゲンに対する特異的IgE抗体は所見を欠く。診断は特定量のアレルゲンを鼻腔内に投与し、その後の症状によってスコアリングするなどのプロセスを要する。
・非アレルギー性鼻炎においても特異的IgE抗体で所見がみられない。病型が複数あり、血管運動性鼻炎、萎縮性鼻炎、急性鼻炎、慢性鼻炎などに分けられる。症状は血管拡張による症状(鼻閉、耳管機能障害、頭痛、副鼻腔における圧迫感、耳閉感など)、粘液症状(後鼻漏など)などがあり、特異的な化学物質、刺激物、気象変化により誘発される。なお、慢性鼻炎患者の最大50%はアレルギー性と非アレルギー性の混合性鼻炎の可能性がある。
・職業性鼻炎は職場でのアレルゲン曝露などにより鼻炎症状が出現または悪化するものを指す。一般的な原因としては清掃や医療現場で使用される化学洗浄剤(洗剤、研磨剤、脱脂剤など)、殺菌剤(消毒薬など)などが荒れられる。
・感染性鼻炎は主にライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルスなどによって誘発される。
・薬剤誘発性鼻炎はNSAIDs、降圧薬(主にβ遮断薬、CCB)、エストロゲン製剤などの副作用として知られるが、メカニズムは明らかでない部分が多い。
併存疾患
・併存しやすい疾患としてアレルギー性結膜炎、急性および慢性副鼻腔炎、小児の反復性中耳炎、耳管機能不全、後鼻漏による慢性咳嗽、喘息などが挙げられる。
・喘息との関連性は鼻での局所的なアレルギー反応が結果として肺にまで及ぶことによって誘発されると考えられている。
・アレルギー性鼻炎患者の約30%は鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎で、約13.5%が片頭痛または緊張型頭痛を合併する。また、約25%は閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害を合併することが知られる。
アセスメント
・非アレルギー性鼻炎に関連しやすい特徴が複数示されていて、季節性(例: 春)の屋外での症状がないこと(OR 7.76)、アレルギー性の家族歴がないこと(OR 5.16)、ネコがいる場所で症状がないこと(OR 3.82)、香水や芳香剤の周囲で症状が出現すること(OR 4.88)、症状発現が35歳以降であること(OR 1.08)などが挙げられている。
・ネコを含むペットがいる環境で症状を自覚する患者は通年性アレルギー性鼻炎の可能性が高まる。
・ホコリ、刈り草の付近で症状が出現する病歴は非特異的で、アレルギー性鼻炎と非アレルギー性鼻炎とを区別するうえで有用性が低い。それはホコリなどのアレルゲンはアレルギー性鼻炎と刺激誘発性鼻炎のいずれの原因にもなるためである。
・慢性的な鼻炎で、持続性あるいは間欠性の症状を有するケースで、薬物療法でコントロールできない場合は季節性および通年性の空中アレルゲンに関する検査(IgE抗体検査、プリックテストなど)を実施し、アレルギー性鼻炎、混合性鼻炎、非アレルギー性鼻炎のいずれに相当するかを分類することを検討する。この分類によって治療法などが異なる可能性がある。
・皮膚プリックテストでは特定のアレルゲン一滴を患者の前腕に滴下し、針で刺す。感作されていれば、15分以内に膨疹などの所見がみられる。
・特定のアレルゲンに対する感作を評価するためにはIgE抗体検査が実施される。
・メタ解析では皮膚プリックテストの感度は感度85%、特異度77%と報告された。
・皮膚プリックテストが陰性で、それでもアレルゲンとして疑わしい場合には少量のアレルゲンを前腕の皮下に注入して反応を観察する皮内テストも検討可能である。ただ、皮内テストはプリックテストよりも診断学的特性が優れているということはなく、感度60~79%、特異度68%と報告されている。
治療
<環境要因の除去>
・アレルギー性鼻炎の治療の第一選択は症状の原因となる環境要因の除去である。
・詳細な病歴聴取で家庭内あるいは職場での疑わしいアレルゲンを挙げられることがある。
・関連しやすい室内アレルゲンとしてはダニ、ペット、カビ、ゴキブリの糞などがふくまれる。花粉症のケースでは窓を閉めるようにする。ダニは寝具、カーペット、布張りの家具などに付着しやすい。
・室内の湿度を30~50%に維持することで、ダニの繁殖を予防できるかもしれない。
・ペットがアレルゲンとして考えられる場合にはペットを寝室に入れないようにして、空気清浄機などの利用を検討する。なお、抜け毛が比較的少ないイヌ(プードル、マルチーズなど)ではイヌに対するアレルギーを有する人でも、アレルギー症状は比較的起こしにくいとされる。
<薬物治療>
・季節性アレルギー性鼻炎の患者ではアレルギーシーズンが終了した時点で治療を中止できる場合もあるが、通年性アレルギー性鼻炎の患者では年間を通した治療が必要となる場合がある。
・間欠性のアレルギー性鼻炎の第一選択薬としては、フェキソフェナジン、セチリジン、レボセチリジン、デスロラタジンなどの第二世代抗ヒスタミン薬(H1RA)が挙げられる。RCTでも例えばフェキソフェナジンは有効性が確認されている。ただ、第二世代抗ヒスタミン薬の種類ごとの有効性の違いに関する研究はなされていない。l
・現状はモンテルカスト(LTRA)よりもH1RAの優先的な使用を推奨されている。モンテルカストは服用者の一部で不安症状、抑うつ症状、悪夢などの副作用がみられる。
・持続性のアレルギー性鼻炎の治療としてはH1RAとステロイド点鼻薬の併用なども選択肢となる。ステロイド点鼻は鼻腔の炎症を抑え、中等度~重度の鼻炎に対する局所治療として推奨される。主な副作用は鼻出血が知られ、そのほか稀に鼻中隔の潰瘍などが報告されている。ステロイド点鼻による鼻出血の出現率は短期間の使用(2~12週間)であれば4~8%に留まるが、1年間の使用では約20%という報告もある。なお、ステロイド点鼻は眼症状も改善させることが示されている。
・薬物治療に反応性が不良な場合にはアドヒアランス不良のほか、鼻中隔弯曲などの構造的異常が存在する可能性なども想定する。状況によっては副鼻腔CT撮像、鼻腔鏡の実施を検討する。
・持続的なくしゃみ発作、鼻汁、掻痒感、鼻閉などを伴う重度の季節性アレルギー性鼻炎の患者では短期間の高用量ステロイド内服(35~40mg/日 5~7日間)を行うこともある。しかし、アレルギーシーズンが始まる前からH1RA内服などの治療を先行させることで、そういった事態は回避できるかもしれない。
免疫療法
・皮膚プリックテストや血清学的検査で感作が証明されていて、環境整備や薬物治療でも症状が変わらない患者ではアレルゲン免疫療法を検討する。
・アレルゲン免疫療法は症状改善を希望していて、治療を継続できる方が対象となる。
・アレルゲン免疫療法にはいくつかの方法があるが、有効性に関するエビデンスが示されているのは舌下免疫療法と皮下免疫療法である。
・そのほかの詳細は割愛する。
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<参考文献>
・Bernstein JA, Bernstein JS, Makol R, Ward S. Allergic Rhinitis: A Review. JAMA. 2024 Mar 12;331(10):866-877. doi: 10.1001/jama.2024.0530. PMID: 38470381.