虚血性大腸炎 ischemic colitis
虚血性大腸炎とその疫学
・虚血性大腸炎(ischemic colitis)は虚血性消化管疾患のなかで最も頻度が高く、全体の50~60%を占める。
・人口10万人あたり4.5~44例の発症率とされる。
・病型として壊疽型、狭窄型、一過性型に分けられる。ほとんどのケースが一過性型であり、粘膜全層の壊死に至ることはなく、保存的に管理が可能。
・リスク因子として65歳以上、過敏性腸症候群(IBS)の既往、COPDの併存、便秘、血栓性素因、動脈硬化などが挙げられる。また、女性の方がリスクは高いことが考えられるが、それは報告によっても異なる。
・機序は不明であるが、過敏性腸症候群(IBS)の患者は虚血性大腸炎の発症リスクが約3倍に増加する。また、COPDを有する患者では発症リスクが約2~4倍増加する。
解剖
・結腸は主に上腸間膜動脈(SMA)と下腸間膜動脈(IMA)とから血液供給を受ける。なお、直腸は下腸間膜動脈(IMA)と内腸骨動脈とから血液供給を受ける。
・SMAは結腸の口側2/3に血液供給を行い、IMAはそれ以降の結腸に血液供給を行う。
・解剖学的構造には個人差もあり、中結腸動脈(from SMA)が欠如している人が一般人口の約20%でみられる。
・結腸辺縁動脈(Drummond動脈)は結腸間膜に沿って走行し、IMAとSMAとを繋ぐ。末梢血管の問題を抱える患者の最大70%ではDrummond動脈が主な側副血行路となり、遠位結腸への動脈血としての唯一の供給源となる。
・血流減少に最も影響を受けやすい箇所、つまり虚血に至りやすい箇所は脾彎曲部(Griffiths point)とS状結腸部(Sudek’s point)とが知られる。前者はSMAとIMAとの循環が交わる場所で、後者はIMAと直腸動脈とが交わる場所であり、いわゆる分水嶺にあたる。これらの分水嶺の領域は主にDrummond動脈に依存している。
・虚血性大腸炎の約75%はGriffiths pointか、Sudek’s pointが関与する。また血液供給が比較的豊富な直腸は約5%に過ぎない。
・加齢に伴って、結腸が蛇行したり、カーブが急峻となったりすることもあり、それも血流減少の影響を受けやすくなる要因かもしれない。
病因
・腸管虚血の原因は閉塞性疾患によるものと非閉塞性疾患によるものとに区別される。
・閉塞性疾患にあたる原因としては塞栓症、コレステロール塞栓症、動脈硬化症、血管炎、糖尿病、関節リウマチ、放射線治療、アミロイドーシス、外傷、外科的治療(大動脈治療/人工心肺/腸管切除/内視鏡検査/腎移植など)、腸間膜静脈血栓症、凝固能亢進状態、鎌状赤血球症、膵炎、門脈圧亢進症、リンパ球性静脈炎などが挙げられる。
・非閉塞性疾患にあたる原因としては灌流不全、心不全、敗血症性ショック、出血性ショック、貧血、血液透析、アナフィラキシー、膵炎、薬剤性(降圧薬/ジギタリス/利尿薬/コカイン/エストロゲン製剤/NSAIDs/エフェドリン/タキサン系薬剤/スマトリプタン/シンバスタチン/IFN製剤/リバビリンなど)、大腸閉塞、腸捻転、大腸癌、便秘、過度な運動などが挙げられる。
・非壊死型虚血性大腸炎は虚血性大腸炎の80~85%を占め、多くの症例が保存的加療で軽快する。少数を占める壊死型虚血性大腸炎の場合では原則として外科的治療を要する。
・虚血性大腸炎の原因として便秘はよく知られているが、これは便秘による腸管内圧上昇による血管の圧迫などに起因すると考えられている。
・若年者に虚血性大腸炎が生じた場合には血管炎、薬剤性、鎌状赤血球症、過度な運動、飛行機搭乗などとの関連性が知られている。なお、右側結腸が侵されやすい傾向にあるが、その機序は不明である。
臨床症状/臨床所見
・急性経過で腹痛を伴う。腹痛が出現した際にはテネスムス(しぶり腹)も伴うことが非常に多い。
・24時間以内に血便が生じる。
・稀に疼痛を自覚せずに下痢や血便が出現するケースがある。
・左側結腸が侵されるケースでは便の色調は鮮血となる。しかし、右側結腸が侵されるケースでは茶褐色となることがある。
・腹痛や血便が主症状となるが、そのほか下痢(68%)、腹部膨満(63%)、悪心/嘔吐(38%)などもみられる。
・身体所見では虚血が生じた結腸領域に圧痛が認められる。ただし、ときに圧痛が軽微なことがある。反跳痛や筋性防御などの腹膜刺激徴候がみられるケースでは粘膜全層性の壊死が生じている可能性が比較的高い。
鑑別診断
・主な鑑別疾患としては憩室炎、結腸がん、腸間膜虚血症、炎症性腸疾患、感染性腸炎、消化性潰瘍、膵炎などが挙げられる。
血液検査
・WBC増多は特に虚血性大腸炎が進行した状態ではよくみられる。
・乳酸高値、代謝性アシドーシスなどの所見は壊死型虚血性大腸炎である可能性が高まる。
X線撮影
・単純X線撮影は虚血性大腸炎の診断に有用とはいえない。
・母指圧痕像(Thumbprinting)は粘膜浮腫を反映する所見で、虚血性大腸炎で古典的に知られる所見であるが、特異的な所見ではない点に留意する。
・腸管気腫は腸管粘膜障害で腸管壁にガスが迷入してみられることがある。
CT撮像
・造影CT撮像は虚血性大腸炎の診断に有用で、他の腹痛をきたす鑑別疾患の除外にも有用である。
・非壊死型虚血性大腸炎では通常、腸管壁肥厚、母指圧痕所見(Thumbprinting)、腸管周囲脂肪織濃度上昇がみられる。また、腸管の分節性肥厚所見はほとんどの症例で認められ、平均的な腸管壁厚は8mmである。
・腸管気腫や門脈気腫は腸管壊死と関連する所見として知られる。ただし、COPD、感染性大腸炎、ステロイド治療、放射線/化学療法後、AIDSと関連する場合がある。
血管造影
・虚血性大腸炎では血管造影検査はほとんど有用でない。それは虚血性大腸炎のほとんどの症例は一過性の小血管の低灌流によるためである。
治療
・虚血性大腸炎の多くは保存的加療が可能である。
・結腸の低灌流が病態に関与するため、増悪因子を除去し、腸管灌流を最適化することが重要。したがって、蘇生輸液(fluid resuscitation)、心拍出量の最適化、酸素投与が重要である。
・腸管安静も同様に重要。
・腸管粘膜障害によるBacterial translocationで菌血症を伴うケースなどでは抗菌薬投与も検討する。
・穿孔リスクなどもあり、急性期は内視鏡検査を行うことは控えることもある。
・ステロイド治療の有用性は示されていない。またステロイド投与によって病勢を悪化させ、穿孔リスクを高める可能性も示唆されている。
・24~48時間以内に臨床経過が改善に転じない場合には画像検査の再検や、状況によって内視鏡検査を検討することとなる。
・腹膜炎の出現、腸管穿孔、制御不能な出血、臨床経過が改善しない場合では腸管切除も検討することとなる。
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<参考文献>
・Washington C, Carmichael JC. Management of ischemic colitis. Clin Colon Rectal Surg. 2012 Dec;25(4):228-35. doi: 10.1055/s-0032-1329534. PMID: 24294125; PMCID: PMC3577613.