腰部脊柱管狭窄症 lumbar spinal stenosis

腰部脊柱管狭窄症とその疫学

・腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal stenosis)は脊椎の変性により脊柱管、椎間孔が狭小し、脊髄神経や神経根を圧迫し腰痛や下肢痛などの症状をきたす疾患である。

・本邦における脊柱管狭窄症の有病率に男女差は大きくなく、約10%とされる。

病因ごとの分類

先天性の狭窄症では通常20~40歳代で症状が出現する。先天性のなかには①特発性 ②軟骨無形成症(achondroplastic) が含まれる。

後天性の狭窄症では①変性疾患(外側陥凹, 中心管などの変性, すべり症など) ②変性疾患と先天性疾患の複合的原因 が含まれる。

医原性の狭窄症としては椎弓切除後脊柱管狭窄症などが挙げられる。

外傷後においても脊柱管狭窄症を発症することがある(post-traumatic)。

その他の病因として過剰なコルチコステロイド(例: Cushing症候群, 外因性ステロイドの過剰使用)、Paget病、先端巨大症が挙げられる。

病歴

・最も一般的な症状として神経性間欠性跛行(neurogenic claudication)が知られる。典型的には臀部から大腿、下腿に広がる不快感、疼痛として自覚される。また、体幹前屈により改善し、後屈によって悪化するのが特徴である。

・腰痛を有する93人の成人を対象にした研究では臀部あるいはそれより遠位に放散する疼痛の病歴は、腰部脊柱管狭窄症の診断に関して感度88%、特異度34%と報告された。同一の研究では立位で腰痛がみられるが、座位で疼痛が全くない病歴感度46%、特異度93%と報告された。

身体所見

Romberg試験を行うとWide-based gait(開脚歩行/歩隔の拡大)が確認されることがある。Romberg試験では脊髄後索に由来する固有感覚の障害を捉えられる。ある研究では腰痛患者におけるWide-based gaitの所見は腰部脊柱管狭窄症に関して特異度90%超と報告された。

・自動的な腰部伸展によって不快感が生じ、一方で屈曲によってその症状は改善する。腰部脊柱管狭窄症患者の約50%感覚障害あるいは運動障害がみられる。ただし、運動障害は軽度に留まることの方が多く、日常生活に支障を生じるような筋力低下に至ることは稀である。

・腰部脊柱管狭窄症による神経症状は両側性にみられることもある

鑑別疾患

変形性股関節症、大転子滑液包炎、末梢神経障害、血管性間欠性跛行を呈する疾患などが主な鑑別疾患となるが、病歴と身体所見で区別は可能なことが多い。

・変形性股関節症では股関節内旋によって疼痛が誘発されることが特徴で、通常鼡径部の疼痛を自覚する。

・大転子滑液包炎では大転子部に一致した圧痛がみられる。

・血管性間欠性跛行を呈する疾患では腰部の伸展や屈曲によって症状が変わったり、立位で症状が悪化することはないが、歩行を続けること、特に上り坂で症状が悪化する病歴を聴取できる。

大転子滑液包炎は腰部脊柱管狭窄症で併存することが多い。

画像検査

・通常は病歴、身体診察で腰部脊柱管狭窄症の可能性は想定できる。

・腰椎単純X線撮影では脊椎すべり症のほか、ときに椎間板の狭小化、椎体終板の骨硬化像などがみられる。

CT撮像またはMRI撮像では脊柱管狭窄を証明できる。

椎間関節嚢腫(facet cyst)は椎間関節が変性し、脊柱管内に発生する滑膜嚢腫のことを指し、これが存在すると狭窄を助長させる可能性がある。

・骨評価はCT撮像でも可能であるが、靱帯や椎間板などの評価はMRI撮像が適している。画像評価は手術あるいは硬膜外ステロイド注射の適応を検討するうえで有用である。

・腰部脊柱管狭窄症の診断に関して、CT撮像とMRI撮像の感度70%を超える。また、60歳以上の患者や、症状や機能障害が乏しいケース20%以上においても脊柱管狭窄所見が認められることにも留意が必要。したがって、検査の特異性という点では十分とはいえず、その画像所見は病歴や身体所見と合わせて総合的に判断されることが望ましい。

治療

・保存的加療を選択した、有症状の腰部脊柱管狭窄症の患者の大多数は、大きな変化がないまま1年間経過すると報告されている。

・ただし、劇的な改善の経過を辿ることも稀であるため、重度の症状を有するケースでは経過観察は選択し難い。

保存的加療

・通常、腰部脊柱管狭窄症では自転車を漕ぐ運動のような、体幹前屈を主とする動きは行いやすいはずである。腹筋の強化は過剰な腰部の伸展を回避するという観点で有用な可能性がある。

・有症状の腰部脊柱管狭窄症のケースに対するコルセット着用の有用性に関するエビデンスは十分でないが、腰椎の前弯を保つことに役立つ場合があり、利用してみる価値はある。ただし、傍脊柱筋の萎縮を回避するためにコルセット装着は1日あたり数時間程度に留めた方がよいかもしれない。

・腰部脊柱管狭窄症の疼痛に関してはアセトアミノフェンを試してみる。もしも効果がなければ、NSAIDsを使用することを検討する。NSAIDsでも鎮痛が不足する場合には麻薬性鎮痛薬を使用する。

・硬膜外ステロイド注射の有用性に関するデータも乏しい。観察研究では硬膜外注射は数週間から数ヶ月間は下肢痛を緩和する可能性が示唆されている。ただし、1年後の機能状態は変わらないことも同時に示唆されている。

外科的治療

保存的加療を行ったうえで症状が続く場合には外科的治療を検討することとなる。

・外科的治療の主な目的は脊柱管を広げ、神経圧迫を解除することである。方法としては椎弓切除術、部分椎弓切除術がある。

・脊椎すべり症が併存する腰部脊柱管狭窄症では除圧術に腰椎固定術を併用することで、さらに疼痛緩和と機能予後の改善とにつながりやすいことが示されている。ただし、あくまで脊椎すべり症が併存するケースに限られる。

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<参考文献>

・Katz JN, Harris MB. Clinical practice. Lumbar spinal stenosis. N Engl J Med. 2008 Feb 21;358(8):818-25. doi: 10.1056/NEJMcp0708097. PMID: 18287604.

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