急性腎盂腎炎 acute pyelonephritis

急性腎盂腎炎とその疫学/臨床経過

・急性腎盂腎炎(acute pyelonephritis)は腎盂および腎臓における炎症を指す。

約20%のケースでは膀胱刺激症状が判然としない。また、発熱がみられないケースもある

・菌血症合併率は報告により大きく異なり、10~50%とされる。特に重症例、免疫不全例、尿路閉塞を伴うケース、65歳以上の患者で合併率は高くなる。

・入院患者としては高齢者や幼児の割合が比較的大きい。

膀胱炎のリスクとなる要因(例: 性行為、尿路感染症の既往など)はそれ自体が腎盂腎炎の発症リスクにもなる。ただし、膀胱炎あるいは無症候性細菌尿のケースが腎盂腎炎に進展する割合は3%以下とされる。

・尿流を妨げる要因(例: 妊娠、機械的閉塞など)は腎盂腎炎の発症リスクを高める。

・通常、腸内細菌が膀胱内に侵入し、腎臓へ上行することで発症する。頻度は低いが、黄色ブドウ球菌カンジダ菌などが血行性に腎臓に到達し、感染症を合併することはある。

・未治療の腎盂腎炎のその後の自然経過を確認したデータは乏しい。しかし、起因菌がin vitroで耐性を示す抗菌薬を投与された14人の女性患者のうち、5人(36%)が臨床的に改善を示したという報告がある。これは自然治癒か、あるいはin vivoでは部分的に抗菌薬が有効である可能性を示唆している。

・通常は72時間以内に解熱がみられる。したがって、48~72時間以内に改善がみられないケースでは尿路閉塞の有無、膿瘍形成の有無、気腫性腎盂腎炎(主に糖尿病が併存)について精査を進める必要性が高い。

・尿路閉塞を合併していない限り、腎不全に進行することは稀である。

起因菌

・腸内細菌科細菌、特に大腸菌(E.coli)が90%以上を占めるという報告がある。

・一方で、男性、高齢女性、泌尿器科疾患の併存例、施設入所者では大腸菌以外のグラム陰性桿菌(GNR)、グラム陽性菌、カンジダ菌の関与の割合が相対的に大きくなる。しかし、それでも大腸菌が占める割合が最も大きく、大半を占める。

診断

側腹部痛や腰背部痛などの腎盂腎炎による疼痛がみられ、尿検査で膿尿がみられる場合には腎盂腎炎が想定される。ただし、尿路感染症は除外診断であるため、他の鑑別疾患の可能性を考慮する必要がある。

発熱を来していなくても腎盂腎炎の可能性は除外されない。また、診断に際し、膀胱刺激症状の有無は問わない

・尿培養の提出は重要。

・腎盂腎炎の診断が曖昧なケースなどでは血液培養の提出を検討する。ただし、腎盂腎炎であれば、菌血症が仮に存在してもマネジメントの方針が変わることは稀である。

・尿路閉塞/膿瘍形成/気腫性腎盂腎炎の可能性を評価するための初期における画像検査(主にCT撮像)は重症例、尿路結石が疑われるケース、尿pH>7.0、新規にeGFR<40mL/minへ低下しているケースなどで選択的に実施することが検討される。

治療

・腎盂腎炎のマネジメントとしては抗菌薬治療、支持療法、ソースコントロールの3つが挙げられる。

・悪心嘔吐がなく、全身状態が不安定でないケースなどの軽症例では内服治療も検討可能。

・それ以外のケースでは静注治療を検討することとなる。

支持療法

蘇生輸液(Fluid resuscitation)によって倦怠感、悪心/嘔吐の軽減が可能。敗血症あるいは敗血症性ショックを合併している場合には積極的な蘇生輸液(aggressive fluid resuscitation/例: 3時間以内に30mL/kgの晶質液を投与)と、状況によって血管収縮薬が必要である。

・解熱鎮静薬、制吐薬なども適宜使用する。

抗菌薬治療

・抗菌薬は可能な限り速やかに開始する。

・抗菌薬の選択については割愛する。

治療効果判定

・前述のように通常は72時間以内に解熱がみられる。したがって、48~72時間以内に改善がみられないケースでは尿路閉塞の有無、膿瘍形成の有無、気腫性腎盂腎炎(主に糖尿病が併存)について精査を進める必要性が高い。

ソースコントロール

・水腎症が存在する場合は病状に応じて尿管ステント留置などの処置を検討する。

・膿瘍が存在し、膿瘍径が大きいケースや、臨床経過が芳しくないケースではドレナージの必要性が高い。

・気腫性腎盂腎炎が認識された場合には通常、外科的治療が選択される。

妊娠中の腎盂腎炎

・妊娠中の腎盂腎炎はときに急速に病状が進行し、母体と胎児との両者に危険を及ぼし得る。したがって、特に妊娠後期の腎盂腎炎のケースでは入院のうえ静注療法が選択される。臨床的に安定した状態になれば内服治療として自宅退院することもできる。

・胎児への潜在的な毒性から、ST合剤、キノロン系、アミノグリコシド系抗菌薬の使用は回避するべきである。

・14件のRCT(合計2,000人相当)を含むメタアナリシスでは、妊娠中の無症候性細菌尿に対して抗菌薬治療を受けることは、プラセボ薬の投与群あるいは無治療群の女性よりもその後の腎盂腎炎発症リスクが有意に低いことが示されている。ただし、研究の質が高いとはいえない。

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<参考文献>

・Johnson JR, Russo TA. Acute Pyelonephritis in Adults. N Engl J Med. 2018 Jan 4;378(1):48-59. doi: 10.1056/nejmcp1702758. Erratum in: N Engl J Med. 2018 Mar 15;378(11):1069. doi: 10.1056/NEJMx180009. PMID: 29298155.

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