伝染性単核球症 IM: infectious mononucleosis

伝染性単核球症とその疫学

・伝染性単核球症(以下IM: infectious mononucleosis)は発熱、咽頭痛、頸部リンパ節腫脹を三徴とする疾患で、主にウイルス感染症が原因となる。

EBVはIMの約90%の原因である。他にもCMV、HIV、HHV-6、トキソプラズマ症、アデノウイルスなどでも生じる。

・ICD-10ではIMには4つの小見出しを提示していて、EBV感染症、CMV感染症、その他の感染症によるIM、分類不能なIMと区別している。

・EBVは成人の90%以上既感染状態にあるとされている。EBVは主に正常なBリンパ球に感染する。

・通常、EBVに感染し4~7週間の潜伏期間を経て、思春期あるいは若年成人でIMを発症する。IMの多くは2~4週間で自然軽快するが、約20%のケースで1ヶ月を超えて症状が残存する。

・アメリカにおける年間発症率は人口10万人あたり約500例とされている。

臨床症状/臨床経過

・IMでは非特異的な前駆症状(発熱、悪寒、倦怠感など)がみられ、その後に咽頭痛などが出現することが典型的な経過である。

・前述のとおり、発熱、咽頭痛、頸部リンパ節腫脹がIMの古典的な三徴である。頚部リンパ節腫脹は主に後頚部リンパ節でみられることが典型的である。細菌性扁桃炎ではリンパ節腫脹が前頸部リンパ節においてみられることが典型的であり、この点は鑑別点である。

身体所見

口蓋垂の点状出血(25~50%)、脾腫(8%)、肝腫大(7%)、黄疸(6~8%)などがみられる。

・口蓋扁桃に白苔の付着がみられることもあり、この点では細菌性扁桃炎も鑑別に挙げられる。ただし、一般的に扁桃白苔は細菌性扁桃炎よりもIMの方が目立ちやすい傾向にある。

発症初期両側上眼瞼浮腫がみられることがあり、この所見をHoagland signという。

血液検査

AST、ALT80~90%のケースで高値となる。

リンパ球割合高値(>50%)、異型リンパ球増多(>10%)ではIMの可能性が大きく高まる。両者がみられれば、ほぼ診断的といえる。

・EBV-IgM抗体が陽性でEBNA抗体が陰性であれば、EBV感染の急性期にあると考えられる。EBNA抗体は感染後に遅れて陽性となり、既感染状態であれば原則として終生陽性となる。なお、IgM抗体は通常4~6週間で消失する。IgG抗体も急性期に上昇することがある。頻度としては稀であるが、血清学的検査から判断が難しいケースではEBVウイルス量の定量も有効とされる。

・MSMや不特定多数の性交渉歴があるケースなど、リスクがある状況であれば、HIV抗体検査の実施も検討する。また、中高年ではCMV感染に伴うIM様症状もみられることがあり、疑えばCMV-IgM抗体の提出を行う。

治療

・IMのほとんどはウイルス感染症によるもので、安静、水分補給、鎮痛薬、解熱薬で対処可能である。

ペニシリン系抗菌薬、なかでも特にAMPCを投与することで、約90%のケースで発疹が生じるため、原則として投与しない。この反応は薬剤に対するアレルギー反応とは区別して捉える必要がある。

・アシクロビル(ACV)による抗ウイルス治療は口腔咽頭におけるEBVの総量を大幅に減少させることが知られている。実際、以前はACVによる治療で有益性が認められると考えられていたが、その後の複数のメタアナリシスにおいて、急性期治療としてACVを使用することの有益性を指示する根拠はないという結論に至っている。なお、バラシクロビルなどの抗ウイルス薬による治療は重症の伝染性単核球症などにおいて一定の効果が期待できるという見方もあるが、少なくともルーチンでの使用は推奨されない

・MNZなどの嫌気性菌を対象とする抗菌薬は炎症に関与すると考えられる口腔内嫌気性菌を制御することでIMの回復を早める可能性があることが示唆されている。ただし、こちらもルーチンでの使用は推奨されず、今後のエビデンス集積が待たれるように思われる。

・またIMの治療においてステロイド投与は原則として推奨されない。

スポーツへの復帰時期

・IMでは脾腫を伴うことがあり、特にコンタクトスポーツなどに伴い、脾破裂を合併し得る。

激しい運動、コンタクトスポーツ(例: サッカー、体操、ラグビー、バスケットボール)や、ウエイトリフティングなどの腹圧上昇を伴うような運動は特に脾破裂のリスクが高い。

・スポーツへの復帰時期に関する推奨は3週間後、4週間後、8週間後、24週間後と様々な推奨が存在し、コンセンサスが得られていない。

・脾破裂の発生率は1%未満で、そのほとんどはIMの発症3週間以内に生じていると報告されている。ただし、それよりもさらに遅い時期に生じることもあり、安全な期間を一概に定めることは困難である。

・また、誘因が明らかでない、自然発生的な脾破裂のケースも過去に存在する。したがって、IMの治癒過程にある患者で突発的に腹痛が生じた場合には脾破裂の可能性を一度考慮する。

・過去の研究では脾腫が最大径に達するまでの平均日数は約12日間とされている。通常、脾腫は4~6週間程度で改善する。脾臓径が最大に達した後は平均的には1日あたり1%の割合で脾臓が縮小していくことが予測される。

・コンタクトスポーツへの復帰を希望する患者については、脾臓が正常な大きさに戻っているかを確認する目的に、発症3~4週時点で超音波検査を受ける推奨も存在する。

伝染性単核球症の合併症

・IMはほとんどのケースで数週間で自然軽快するが、一部様々な合併症を起こすことがある。

1~5%の患者では神経障害、特に脳炎、髄膜脳炎、けいれん発作、視神経炎、突発性難聴、特発性顔面神経麻痺、Guillain-Barré症候群などが挙げられる。

・血液合併症としては溶血性貧血(3%)、血小板減少(25~50%)が比較的多く、稀に再生不良性貧血、汎血球減少、無顆粒球症もみられる。

・その他の稀な合併症としては心筋炎、心外膜炎、膵炎、間質性肺炎、横紋筋融解症、不思議の国のアリス症候群が知られる。

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<参考文献>

・Lennon P, Crotty M, Fenton JE. Infectious mononucleosis. BMJ. 2015 Apr 21;350:h1825. doi: 10.1136/bmj.h1825. PMID: 25899165.

・Luzuriaga K, Sullivan JL. Infectious mononucleosis. N Engl J Med. 2010 May 27;362(21):1993-2000. doi: 10.1056/NEJMcp1001116. Erratum in: N Engl J Med. 2010 Oct 7;363(15):1486. PMID: 20505178.

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