帯状疱疹 shingles

帯状疱疹とその疫学

・帯状疱疹(Shingles)は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化を原因とする発疹である。VZVは脊髄後根神経節などに潜伏し、その再活性化し、求心性神経を介して皮疹を生じさせる。

・本邦では年間1,000人あたり5人程度が発症する。

・発症率は50歳頃から上昇し始める。80歳までに約3人に1人が発症すると考えられる。

・皮疹は典型的には紅暈を伴う水疱がみられ、長いと2~4週間続くこともある。ときに瘢痕化、色素沈着を残す。

・特に化学療法、放射線療法、ステロイド治療を受けている患者、AIDSや糖尿病、担癌患者などの免疫抑制状態にあるケースではより発症率が高い。

予防

・帯状疱疹はVZVに感染した経験のある人であれば、年齢に関係なく発症する可能性がある

・本邦で入手可能な帯状疱疹ワクチンとしては、乾燥弱毒生水痘ワクチン(以下ZVL)乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(以下RZV/シングリックス®)とがある。

・ACIP(Advisory Committee on Immunization Practices; ワクチン接種に関する諮問委員会)は免疫機能が正常な50歳以上の成人および以前にZVLを接種した方に対してRZVを接種することを推奨している

・RZVを接種する際には2回、筋注での接種機会を要する。初回の投与から2~6ヶ月時点で2回目の投与を行う。なお、日常生活に支障をきたす局所反応(疼痛など)は接種者の9.4%に認められる。最も一般的な全身性の有害事象としては筋肉痛、易疲労感、頭痛、悪寒、発熱、消化管症状で、接種者の10.8%で認められるという報告もある。また、通常RZVの全身性の反応は1~3日間程度続くことがある。

・RZVの適応にならないケースやRZVを接種できないケースで、かつ60歳以上の免疫機能が正常な方に対して、ACIPはZVLの接種を推奨している。ただし、ZVLはRZVと異なり、生ワクチンであるため、妊婦、免疫抑制薬使用者などでは禁忌となることに留意する。

・ワクチンはインフルエンザウイルスワクチンと同時接種が可能である。

・帯状疱疹をその時点で発症している場合では発疹が改善するまでワクチン接種を待つべきとされる。

・帯状疱疹ワクチンは水痘の既往があるケースでも接種が可能であるため、ZVLやRZVの接種にあたって、水痘の既往の有無を確認する必要はない

・ZVLの有効性を示す期間は5年間程度で、効果は60歳代で約65%、80歳以上では約20%。一方で、RZVは少なくとも10年間以上は有効と考えられ、効果は50歳以上で約95%、90歳代で約90%とされ、接種7年後時点でも約85%の効果の存在が示唆されている。また帯状疱疹後神経痛の予防効果についてはZVLよりもRZVでより優位である。

診断

・帯状疱疹は通常、病歴と典型的な皮疹の視診で臨床診断される。

・皮疹は帯状で、片側性であることが典型的で、通常正中を超えることはない。隣接するデルマトームにも重複して皮疹が存在するケースが約20%に相当する。

・最もよく皮疹がみられる高位は胸椎レベルで、次いで頭皮、腰椎レベル、頸椎レベルとされる。

・皮膚局所には軽度の掻痒感、ピリピリ感、強い疼痛まで様々な症状がみられ得る。皮疹が出現する1~5日前の時点でアロディニアなどを伴うこともある。そのほか、倦怠感、頭痛、羞明などがみられることもある。ただし、高熱をきたすことは稀である。

・ほか小水疱内の液体のPCR検査あるいはDFA検査(直接蛍光抗体検査)によって診断を確定することも可能。ただし、小水疱内の液体のウイルス培養の感度は低いことで知られる。

主な鑑別疾患

・帯状疱疹は皮疹の性状、分布などから臨床診断が容易であることが多い。

・そのうえで帯状疱疹と比較的混同しやすい疾患を挙げれば、接触性皮膚炎、単純ヘルペスウイルス感染症などがある。

・なお、患者に疼痛などの症状が伴わない発疹がみられたり、デルマトームに沿わない皮疹がみられたり、典型的な皮疹でなかったりするケースでは帯状疱疹以外の可能性を一度考慮することとなる。特に若年成人に帯状疱疹を発症した場合にはHIV抗体検査の実施を検討する。

合併症

三叉神経第一枝(V1)領域に皮疹が生じているケース、鼻部に皮疹がみられるケース(Hutchinson徴候)では角膜炎をはじめとする眼合併症がみられる頻度が高まるため、眼科医に診察を依頼することとなる。眼部の炎症性合併症がみられるケースではステロイド治療の適応となることがある。また、無治療の場合、眼部帯状疱疹を合併した患者の約50%で後遺症を残す。

・耳痛、顔面神経麻痺がみられ、外耳道や耳介に小水疱がみられるケースではRamsay-Hunt症候群を想起する。

・帯状疱疹後神経痛は帯状疱疹を発症後3ヶ月以上持続する疼痛と定義される。60歳以上の方における、帯状疱疹ワクチン導入前の帯状疱疹後神経痛の合併頻度は発症3ヶ月後で約13%、1年後で約7%と報告される。なお帯状疱疹後神経痛の疼痛の程度も様々である。

・帯状疱疹後神経痛の予防を目的にしたステロイド投与が有効というエビデンスはない。ただし、帯状疱疹発症の急性期における疼痛緩和効果は示唆されている。

中枢神経系の血管炎を合併することがあり、通常、皮疹が存在する側とは対側の片麻痺を呈する。これは三叉神経第一枝(V1)に沿った浸潤による脳動脈の浸潤による影響と考えられている。血管造影検査などで血管狭窄所見などを描出が可能な場合がある。

・ほか無菌性髄膜炎などを合併するケースもある。

内服治療

・帯状疱疹に対する内服治療薬剤としてはバラシクロビル(バルトレックス®)、ファムシクロビル(ファムビル®)、アシクロビル(ゾビラックス®)が承認されている。このなかでも薬物動態などから総合的に特にバラシクロビルかファムシクロビルかをより優先的に使用されやすい。これらの薬剤では主にウイルスの複製を阻害することで、軽快を促す作用が期待されている。

・RCTでは皮疹の改善に関して、バラシクロビルとアシクロビルとは同等の効果が示されている。しかし、疼痛改善までの期間、帯状疱疹後神経痛の期間を短縮する効果に関して、バラシクロビルの方がより優れていることが示されている。

・また別のRCTにおいて、バラシクロビルとファムシクロビルとは治療効果が同等であることが示されたが、費用対効果の点でバラシクロビルが優れている

・皮疹出現後72時間以内に抗ウイルス薬を投与することで、より皮疹の改善が促進されやすいことが示されている。72時間以降の時点での治療開始の有効性についてはエビデンスが不十分であるが、実際には投与がされることもある。

・皮膚局所への抗ウイルス薬の外用は効果がなく、推奨されない

・投与例としては、バラシクロビル3,000mg分3(7日間)、ファムシクロビル 1,500mg分3(7日間)、アシクロビル 4,000mg分5(7日間)。

・眼部帯状疱疹を合併したケースでも通常は内服治療が可能であるが、重症例では点滴静注での治療が検討される。

点滴治療

・通常の帯状疱疹は内服治療で治療を完遂できる。しかし、免疫不全者で播種性帯状疱疹や、臓器障害を伴う帯状疱疹などではアシクロビル点滴静注での治療が検討される。

・特に髄膜炎などの中枢神経系感染症を合併した帯状疱疹ではアシクロビル点滴静注での治療を選択する。腎機能正常であれば、10~15mg/kg/回の用量で8時間ごとに投与することがある。

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<参考文献>

・Schmader K. Herpes Zoster. Ann Intern Med. 2018 Aug 7;169(3):ITC19-ITC31. doi: 10.7326/AITC201808070. Erratum in: Ann Intern Med. 2018 Oct 2;169(7):516. doi: 10.7326/L18-0483. PMID: 30083718.

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