自然気胸/続発性気胸/月経随伴性気胸/外傷性気胸 pneumothorax
気胸とその疫学
・気胸(pneumothorax)とは胸腔内に空気が存在している状況を指す。
・気胸が生じるためには「肺胞と胸膜との間の交通」、「大気と胸膜との間の交通」、「胸膜腔にガス産生を行う微生物が存在」のいずれかが原則として必要である。
・発症に誘引を伴わない自然気胸と、そうでない非自然気胸とに区別可能。また特に肺疾患のない人に明らかな誘因なく生じる気胸を原発性自然気胸と呼ぶ。
・原発性自然気胸の患者の約1/3で再発を経験する。
原発性自然気胸
・原発性自然気胸(PSP: primary spontaneous pneumothorax)は1年間あたり男性で7.4~18人/10万人、女性で1.2~6人/10万人の発生率とされる。
・正確な病態生理は明らかとなっていないが、ほとんどのケースで胸膜下のブレブなどの自然破裂が原因であろうと推察されている。実際、ブレブは健常者の15%で伴うという報告もある。
・通常、痩せた長身の方に好発する。また、男性、喫煙者もリスク因子である。
・通常、安静時に発症する。
・気圧変化、大音量の音楽への曝露などが誘引となる場合もある。
・ほとんどの患者において突然発症の患側の胸痛が生じ、通常症状は24時間以内に自然軽快する。呼吸困難がみられることもあるが、軽度なものに留まることが多い。
・小さな気胸では身体診察で異常所見がみられない場合もある。一方で、大きな気胸では呼吸音の減弱/消失、胸部の打診で鼓音がみられる。
・進行性に血圧低下がみられたり、頻呼吸、頻脈、チアノーゼがみられる場合では緊張性気胸(Tension pneumothorax)の疑いが強まる。なお、原発性自然気胸で緊張性気胸に進展することは稀である。
・大半の症例は立位の胸部X線撮影で診断が可能であり、気胸の大きさも推定することが可能。ただし、小さな気胸では胸膜腔のAirの存在を確かめるためにCT撮像を要する。
・自然気胸では気管偏位がみられないことがある。なお、少数のケースであるが胸水貯留を伴うこともある。また、稀ながら原発性自然気胸では血胸を合併していることがある。
原発性自然気胸のマネジメント
・原発性自然気胸の治療としては保存的加療(経過観察、酸素投与など)、侵襲的治療(胸腔ドレナージ、胸腔鏡下手術(VATS)など)が挙げられる。
・アルゴリズムにも記載があるように、初発で小さな気胸などでは外来で経過観察するという方針も提案されている。
・ただし、20%以上の虚脱に至っているケース、肺尖部から3cm以上虚脱しているケース、症候性のケースでは原則としてドレナージの適応となる。
・胸腔ドレナージでなく、胸腔穿刺/脱気(simple aspiration)は原発性自然気胸の患者における第一に選択される治療法という見方もある。ある報告によると成功率は50~80%で、平均的には約2/3のケースで成功する。ただし、患者の約1/3ではドレナージを必要とするケースなどもあることに留意する。
・再発予防を目的にした治療法としては胸膜癒着術などが知られる。一般的には再発予防治療は再発例において提案される。実際、原発性自然気胸の患者の約1/3で再発を経験する。なお、一度再発した患者のさらなる再発率は62%、二度再発した患者のさらなる再発率は83%と増加することも知られていて、このことも再発したケースで再発予防策を提案する根拠である。
続発性自然気胸
・続発性自然気胸(SSP: secondary spontaneous pneumothorax)の原因疾患としては肺気腫を伴う慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、結核、肺癌、HIV関連ニューモシスチス肺炎である。また、稀な疾患としてリンパ脈管筋腫症(LAM)などが知られる。
・臨床症状としては呼吸困難が最も一般的で、そのほか胸痛、チアノーゼがみられることもある。また、低酸素血症、高CO2血症が生じることもあり、呼吸不全に至る。
・診断は原発性自然気胸と同様に立位の胸部X線撮影で行われるが、ときにCT撮像を必要とする。
・再発率は通常、原発性自然気胸よりも高い傾向にある。また嚢胞性線維症が原疾患である場合は再発率が約80%程度とされる。
続発性自然気胸のマネジメント
・初発時には脱気を迅速に行うこととなる。また、その後に再発予防策を講じることとなる。
・また続発性自然気胸のケースでは原則として全例で入院とする。呼吸不全に至る割合も小さくない。
・小さな気胸で、かつ50歳未満の患者では胸腔穿刺/脱気(simple aspiration)による対処も可能なことがあるが、多くの文献では直ちに胸腔チューブ(外傷性気胸でなければ12~14Frを選択することも)を挿入することが推奨されている。
・再発予防策としては胸腔鏡下手術が推奨され、胸膜癒着術が検討される。なお、嚢胞性線維症や一部のCOPDを原疾患とするケースでは肺移植も選択肢となる。
月経随伴性気胸
・月経随伴性気胸(Catamenial pneumothorax)では月経開始後24~72時間以内に発症することが典型的である。
・しばしば再発することも知られ、ほとんどのケースで子宮内膜症に関連していることが知られる。
・再発率は高いため、初回発症後は再発予防策が検討される。実際はホルモン抑制を目的とした薬物療法が追加されることが多い。
外傷性気胸
・胸部外傷患者の約50%で合併するという報告もある。
・通常は胸腔チューブを挿入することとなる。しかし、実際に胸腔チューブを必要とするケースはもっと少ない可能性があることも報告されている。ただし、陽圧換気が必要となることが予想されるケースなどでは胸腔チューブの留置を要する。そのようなケースや血胸を伴うケースではより太い28~36Fr程度のチューブの留置を行うことも推奨される。
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<参考文献>
・Noppen M, De Keukeleire T. Pneumothorax. Respiration. 2008;76(2):121-7. doi: 10.1159/000135932. Epub 2008 Jun 26. PMID: 18708734.