薬物乱用性頭痛 MOH: medication overuse headache
薬物乱用性頭痛とその疫学
・薬物乱用性頭痛(以下MOH: medication overuse headache)とは主に鎮静薬や片頭痛治療薬の頻用が原因で生じる頭痛のことである。
・一般人口における1年間有病率は1~2%と推定される。
・女性が約70%を占める。
・MOH発症のリスク因子としては女性、うつ病、不安症、その他の慢性疼痛の併存、ストレス、肥満、運動不足、低所得、喫煙者などが知られる。
・薬物乱用性頭痛による経済的あるいは社会的コストは片頭痛の約3倍に相当し、体調不良による休暇、生産性低下などの原因となっていると考えられている。
・ヨーロッパからの報告では原因薬剤として最多頻度を占めたのはトリプタン(61%)であった。
診断基準
- 頭痛が1ヶ月に15日以上存在する
- 以下のように急性期/対症的治療薬を3ヶ月を超えて定期的に使用している
- ・3ヶ月を超えてエルゴタミン、トリプタン、オピオイド等の薬物を1ヶ月に10日以上乱用している
- ・単一成分の鎮静薬、あるいは単一では乱用に該当しないエルゴタミン、トリプタン、鎮静薬、オピオイドのいずれかの組み合わせで合計月に15日以上の頻度で3ヶ月を超えて使用している
- 頭痛は薬物乱用により発現したか、著明に悪化している
原因薬剤の中止と予防的治療
・MOHでは予防薬を開始し、原因薬剤の使用を制限することで、持続性の頭痛から発作性の頭痛に戻ることがある。ただし、改善に乏しいケースも存在する。
・頭痛抑制を目的にした予防薬としては海外の研究ではトピラマート、アミトリプチリン(トリプタノール®)などが有効であったと報告されている。本邦で使用する場合にはアミトリプチリン、ロメリジン、プロプラノロールなどが候補になるかもしれない。
離脱症状に対する治療
・ブリッジング治療(Bridging therapy)の有用性についてはコンセンサスが得られていない。また、原因薬剤を中止する際に、どのブリッジングが最も有効かということも明らかにされていない。
・原因薬剤を離脱中に予防薬を服用することで、どれだけの離脱症状の予防や軽減の効果が期待できるかどうかも不明瞭。
・97例のMOHの患者をセレコキシブあるいはプレドニゾロンをそれぞれ10日間投与する群に分けたRCTがあり、原因薬剤中止3週間以内の頭痛の強度に関してはセレコキシブ投与群の方がより低かったことが示された。その点ではセレコキシブへのブリッジングは一つの選択肢かもしれない。ただし、頭痛の頻度やレスキュー薬の必要量については両者に差がなかった。
・心理カウンセリング、認知行動療法を併用するアプローチも提案されている。
再発予防
・原因薬剤の中止あるいは減薬によりMOHによる頭痛の頻度が減ったとしても、根本的に存在する一次性頭痛の治療にはならない。実際、患者の25~35%はMOHを再発し、原因薬剤を再び頻用することが知られている。
・再発率は片頭痛よりも慢性緊張型頭痛でより高いと報告されている。再発のリスク因子としてはオピオイドあるいはトリプタンの過剰使用、精神疾患の併存が挙げられていて、特にうつ病は重要な再発予測因子として知られる。
・特に再発リスクが高いと考えられるケースでは定期的なフォローアップ機会を設けることで、再発リスクを軽減できる可能性が示唆されている。
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<参考文献>
・Diener HC, Dodick D, Evers S, Holle D, Jensen RH, Lipton RB, Porreca F, Silberstein S, Schwedt T. Pathophysiology, prevention, and treatment of medication overuse headache. Lancet Neurol. 2019 Sep;18(9):891-902. doi: 10.1016/S1474-4422(19)30146-2. Epub 2019 Jun 4. PMID: 31174999.