常染色体優性多発性嚢胞腎 ADPKD

常染色体優性多発性嚢胞腎とその疫学/遺伝学的特徴

・常染色体優性多発性嚢胞腎(以下ADPKD)とは遺伝性腎疾患の一つで、腎腫大と増大する嚢胞と種々の合併症を特徴とする疾患である。

高血圧症、肝嚢胞、脳動脈瘤、心臓弁膜症などの腎臓以外の臓器における複数の合併症がみられ、全身性疾患と解釈される。

・有病率は10,000人~2,500人に1人程度とされている。

・腎機能低下は数十年単位で進行し、末期腎不全に至ることもある。

高血圧症を併存する割合が高く、心血管リスクは比較的高い。

・通常、PKD1遺伝子あるいはPKD2遺伝子の突然変異によって引き起こされる。

家族歴が明らかでないケースはADPKDの10~25%でみられる。

・腎摘出術は死亡率上昇に関連するという報告もあり、一般的には可能な限り回避することとなる。ただし、合併症によっては摘出術を検討する場合はある。

診断

超音波検査は非侵襲的かつ低コストであるため、初期の検査として実施されることが多い。検者の技量にもよるが、2~3mmの小さな嚢胞も検出可能である。

造影CT撮像または造影MRI撮像(T2WI)でも2~3mmの小嚢胞を検出可能。40歳未満で、リスクを有する患者ではMRIで10個以上の腎嚢胞が確認されれば感度、特異度いずれも100%でADPKDと診断できる。また、嚢胞が5個未満であれば通常除外される。

・家族歴が明らかでないケース(全体の10~25%)では画像検査による診断では不十分な可能性がある。家族歴が明らかでなく、かつ画像的に嚢胞が少数しかみられない状況でADPDKを想定する場合には遺伝子検査を検討することとなる。

フルサイズ画像: 'Autosomal dominant polycystic kidney disease'

合併症

・主な腎外合併症としては多発肝嚢胞、脳動脈瘤などが知られる。

 <多発肝嚢胞>

・35歳以上のADPKD患者の90%以上において肝嚢胞が確認される。多発肝嚢胞のリスク因子としては女性、外因性エストロゲンへの曝露、多胎妊娠が挙げられる。重度の多発肝嚢胞を有する女性患者ではエストロゲン製剤の利用を回避することが推奨される。

・重度の多発肝嚢胞を有する女性患者では48歳以降に肝容量が減少傾向に転じることが知られている。

症候性の多発肝嚢胞はADPKD患者の約20%でみられる。症状としては疼痛、早期腹満感、胃食道逆流症が主である。また、さらに頻度は低いが重症例では腹水や胸水の貯留を伴うような門脈圧亢進症に至っていることもある。

・肝合成能低下に至ることは稀である。

 <脳動脈瘤>

・ADPKD患者における脳動脈瘤の発生率は一般人口の約4倍で、9~12%と推定される。

・脳動脈瘤の家族歴を有する場合はそうでない場合よりもさらに発生率が高くなる。

・ADPDK患者で、脳動脈瘤の家族歴があるケースなどではMRI撮像によるスクリーニングが推奨される。

 <その他の合併症>

・その他の腎外合併症としては他臓器(膵臓、卵巣など)における嚢胞形成、心疾患、尿管結石などが挙げられる。ただし、これらのスクリーニングを実施することが推奨されるとはされていない。

予後評価

・末期腎不全への進行リスクなどを含めた予後についてはケースごとにばらつきが大きい。

・遺伝子検査と腎臓の容積評価との2点で予後評価がなされることがある。

・遺伝子検査および腎容積と、予後との関連性についての記載は割愛する。

・ADPKDでは経時的に腎容積が増加することが知られる。むしろ容積が増加している状況で、糸球体濾過量が緩徐に低下することがADPKDの典型的な病像ともいえる。

治療

・治療の目的は腎嚢胞の増大を可能な限り抑制し、腎機能低下を遅らせることにある。

・生活指導としては食事などにおける規則的なライフサイクルの維持、適正体重の維持、定期的な有酸素運動、筋炎、NSAIDsの使用制限などが挙げられる。特に初期のADPKDでは過体重がeGFR低下および腎容積増加に関連することが示されている。

高血圧症の治療もADPKDのマネジメントにおいて重要。高血圧症はADPKDの初期から併存することが多く、心血管疾患のリスク増大や腎機能低下を助長させる。特にアンジオテンシンを遮断することによる血圧管理は重要。HALT-PKD trialの結果を受けて、eGFR>60mL/minで、重大な心血管系疾患の併存がない50歳未満のケースでは家庭血圧 110/75mmHg未満とすることが推奨されている。

・V2受容体拮抗薬(トルバプタン)がADPKDの嚢胞増大や腎容積増加の有用であることが示されている。トルバプタンによる副作用としては高ナトリウム血症、口渇、多尿、夜間頻尿、多飲、肝障害が示されている。REPRISE trialではトルバプタン投与開始後にeGFR低下が確認されることがあったが、通常は可逆的な変化であり、トルバプタンの中止により改善することが示されている。末期腎不全に進行しているケースでは透析を開始する前にトルバプタンを中止することで、eGFRは僅かながら上昇し、腎代替療法の先延ばしができる可能性が示されている。

・そのほかスタチン製剤などの治療についての詳細は割愛する。

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<参考文献>

・Cornec-Le Gall E, Alam A, Perrone RD. Autosomal dominant polycystic kidney disease. Lancet. 2019 Mar 2;393(10174):919-935. doi: 10.1016/S0140-6736(18)32782-X. Epub 2019 Feb 25. PMID: 30819518.

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