巨細胞性動脈炎 giant cell arteritis

巨細胞性動脈炎とその疫学

・巨細胞性動脈炎(以下GCA: giant cell arteritis)は大動脈とその主要分枝における血管炎を特徴とする疾患で、大型血管炎の一つである。

・GCAは1890年に”arteritis of the aged”という名称で初めて報告された。

以前は側頭動脈炎(arteritis temporalis)という名称も利用されていたが、GCAでは側頭動脈を侵さないケースも存在することから、Chapel Hillコンセンサス会議(CHCC 1994)でこの名称は廃止となった。なお、側頭動脈は多発血管炎性肉芽腫症でも侵される場合がある。

・主に50歳以上で好発し、ドイツでは年間10万人あたり3.5人程度の発症率とされている。

女性に好発し、男性の2~6倍に至るとされている。また、家族内集積もみられる。

病因/病態生理

・GCAの病因は明らかとはいえない。

・組織学的には血管壁におけるリンパ球、マクロファージ、巨細胞の浸潤を伴う肉芽腫性炎症により特徴づけられる。

・血管壁の炎症性浮腫/肥厚は画像検査で確認されることがあり、診断の一助となる。

臨床症状

・臨床症状は主に「①頭蓋内血管に起因する症状」、「②大血管(大動脈とその分枝)に起因する症状」、「③全身性炎症に起因する症状」、「④PMRに関連する症状」に大別できる。

・①には頭痛、顎跛行、頭皮の圧痛、視力障害/失明、側頭動脈の圧痛/肥厚/脈拍消失が含まれる。

・②には上肢の跛行症状が含まれる。特にシャンプーなどで上肢を挙上した際に生じる重だるさなどが聴取されることがある。

・③には発熱、夜間の盗汗、体重減少が含まれる。

・④にはPMRらしい症状、たとえば近位筋の疼痛などが含まれる。

頭蓋内血管に起因する症状

鎮痛薬に抵抗性のある頭痛約3/4でみられる。多くの患者で側頭部の持続痛を自覚する。断続的な疼痛よりも持続的な疼痛を訴えることが典型的である。

・咀嚼筋を栄養する血管の虚血により、咀嚼に伴う疼痛を自覚するケースもある。同様の機序で、嚥下時痛舌痛を自覚することもある。

頭皮の圧痛や、浅側頭動脈の圧痛/肥厚/拍動減弱および消失がみられることがある。ただし、頭皮の壊死は稀である。また、椎骨動脈、頸動脈における炎症に由来する虚血性合併症を伴うこともあり、頻度としては3~4%とされる。

大血管に起因する症状

・PET-CTではGCA患者の最大83%において、大動脈における異常集積がみられる。

胸部大動脈瘤はGCA患者では同年代の一般人口よりも17倍多いことが知られ、腹部大動脈瘤2.4倍多い。通常、大動脈瘤はGCAの診断から中央値で5.8年後に確認される。

・一方で、鎖骨下動脈脳血管の狭窄に由来する跛行症状、盗血症候群などはより短い期間(中央値1年)で発症することが知られる。

・また虚血性合併症は冠動脈腸間膜動脈においても生じることがある。

全身性炎症に起因する症状

・前述のように易疲労感、発熱、夜間の盗汗、体重減少などの全身性炎症を反映する症状がみられる。虚血症状を伴わないケースではこれらの非特異的な全身症状と炎症反応だけが限られた所見として確認されることもある。

・したがって、原因不明の発熱、体重減少や、原因不明の炎症反応高値ではGCAは常に鑑別診断に含まれることとなる。

PMRに関連する症状

・GCA患者の40~60%でPMRを合併する。

・PMRとGCAとは症状が類似していて、どちらもステロイド治療に反応性を見せる。

眼症状

・患者の約70%で片眼あるいは両眼が侵される。無治療の場合、最大60%で数日以内に失明に至ることもある。

・GCAでみられやすい眼症状としては後毛様動脈の炎症性閉塞に起因する前部虚血性視神経症(AION: anterior ischemic optic neuropathy)が挙げられる。閉塞に至ると突発的に無痛性の視力低下あるいは視野欠損が生じる。障害を受けた視神経は眼底検査で綿花状白斑がみられる。なお、視力障害は不可逆的である。また、視神経障害がある場合、Marcus-Gunn pupil(マーカス・ガン瞳孔)が確認されることがある。

外眼筋麻痺を合併することがあり、通常複視も伴う。治療開始により複視は改善する。

身体所見

浅側頭動脈の触診や、鎖骨下動脈や腋窩動脈における聴診血圧の左右差の確認などが挙げられる。

臨床検査

・GCAではCRP高値、ESR亢進がみられ、いずれも感度が高い。ESRの平均値は90mm/hr前後とされる。

・CRP値はステロイド治療開始1週間以内に基準値内に復帰することが典型的とされる。

・CRPやESRは免疫抑制剤が併用されているケースでは、再発時に上昇しにくいという点に留意する。

・そのほか炎症を反映して貧血、血小板増多、白血球増多などがみられる。

カラードプラ超音波検査/MRI撮像/PET-CT

・カラードプラ超音波検査では側頭動脈、頸動脈、鎖骨下動脈などの動脈の炎症の評価に有用である。血管壁の炎症性浮腫は低エコー域で表現されるHalo signとして確認される。そのほか狭窄部位では血流速度が亢進していることが捉えられる。検者の技量にも影響を受けるが、カラードプラ超音波検査での感度85%、特異度90%超という報告もある。

・カラードプラ超音波検査で陽性所見が得られば、GCAの可能性は高まる。しかし、仮に所見が得られなくても疾患の除外には至らない点に留意する。

・MRI撮像でも側頭動脈や大動脈とその主要分枝における動脈の広がりを非侵襲的に評価できる場合がある。

・PET-CTでも炎症の局在を評価でき、特に大動脈炎の評価においては感度が高いことが知られる。

生検

・側頭動脈生検は現在でもGCAの診断のゴールドスタンダードとされている。カラードプラ超音波検査、MRI撮像などは生検箇所の決定に有用である。

・炎症は非連続的に出現することがあるため、生検は可能であれば2cm以上の長さで行うことが推奨されている。

・前述のように、組織学的には血管壁におけるリンパ球、マクロファージ、巨細胞の浸潤を伴う肉芽腫性炎症により特徴づけられる。なお、多核巨細胞は約50%程度で認められるに過ぎない。通常、炎症は外膜から中膜への移行部において認められる。ただし外膜のみに限局することもある。

・生検で陽性であればGCAが強く支持されるが、仮に所見がなくてもGCAは否定できないことに留意する。実際、GCAの10~25%では生検結果が偽陰性となることが知られている。なお、ステロイドによる治療を先行させた場合、遅くとも治療開始14日以内であれば生検に影響は小さいと考えられている。もちろんなるべく早い方がよいと考えられる。

診断

・GCAは臨床症状、身体所見、検査所見、画像診断によって総合的になされる。

・米国リウマチ学会(ACR)により発表された分類基準が存在し、参考になる。しかし、研究目的に他の血管炎と区別するために作成された経緯があり、臨床診断基準と混同しないようにする。

<巨細胞性動脈炎分類基準(1990年 ACR基準)>

・ACRによる以下の分類基準では以下の5項目中3項目以上を満たすことが必要とされる。

  1. 発症年齢50歳以上
  2. 新規の限局した頭痛
  3. 側頭動脈の圧痛、動脈硬化とは無関係の拍動微弱
  4. ESR≧50mm/hr
  5. 側頭動脈生検の異常:単核球主体の細胞浸潤や肉芽腫性炎症で、通常多核巨細胞を含む

・治療開始が遅れることで失明などの重大な合併症が生じるリスクが高まる。したがって、全例で生検を必要とするとは限らず、臨床検査や画像検査(超音波検査やMRI撮像など)なども加味したうえで治療を開始する場合もある。

治療

・視力障害をきたす前にステロイド治療を開始することが重要。

・EULARはPSL 1mg/kg/日(Max 60mg/日)を初回投与量とすることを推奨している。また、生検や画像診断による診断確定を待つことで治療開始が遅れてはならないとしている。

・治療開始から1~2週間後、患者の治療反応性に応じてPSLの用量を1~2週間ごとに10mgずつ漸減が可能とされる。

・メトトレキサート、生物学的製剤(抗TNF-α抗体製剤、抗CD-20抗体、IL-6阻害薬など)、アスピリンなどを使用する場合もある。

・ほかの詳細は割愛する。

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<参考文献>

・Ness T, Bley TA, Schmidt WA, Lamprecht P. The diagnosis and treatment of giant cell arteritis. Dtsch Arztebl Int. 2013 May;110(21):376-85; quiz 386. doi: 10.3238/arztebl.2013.0376. Epub 2013 May 24. PMID: 23795218; PMCID: PMC3679627.

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