ランゲルハンス細胞組織球症 Langerhans cell histiocytosis

ランゲルハンス細胞組織球症とその疫学/病因

・ランゲルハンス細胞組織球症(以下LCH: Langerhans cell histiocytosis)はCD1a/CD207陽性細胞の増殖によって生じる疾患であり、様々な臓器障害の原因となる。

・臓器障害のない患者の予後は良好であるが、臓器障害を伴う患者の予後は比較的不良で死亡率30~40%という報告もある。

・症例の約2/3BRAF遺伝子変異が二次的に生じていると考えられている。

・LCHの年間発症率は15歳未満の小児100万人あたり8.9例である。

・診断時の年齢の中央値は3歳であるが、成人発症例も存在する。

・家族歴がみられるケースもあり、一部は遺伝的要因もあると考えられる。

・LCHの発症率は人種や民族により異なり、特にヒスパニック系の人種では発症率が高く、黒人では低いことが報告される。

病理学的所見

・LCHの診断は主に病変組織のCD1aあるいはCD207に対する染色陽性によって行われる。

・そのほかの詳細は割愛する。

従来の臨床的分類と現在の考え方

・以前異なる病態と考えられていた、好酸球性肉芽腫性、Hand-Schuller-Christian病、Abt-Letterer-Siwe病の3つは現在ではLCHの同じスペクトラム内に存在するものと考えられている。

好酸球性肉芽腫症は主に学童期以降の小児および若年成人に好発し、発症のピークは5~10歳にある。好酸球性肉芽腫症はLCHの最も一般的な病型で、診断の60~80%程度を占める。

Hand-Schuller-Christian病は従来、溶骨性病変、眼球突出、尿崩症を三徴とする疾患と考えられる。典型的には生後4~7歳で発症し、LCHの診断の15~40%程度を占める。

Abt-Letterer-Siwe病はより稀であるが、最も重症な病型とされる。患者は通常、2歳未満で、脂漏性発疹、耳漏、血球減少、呼吸不全、肝脾腫などを伴う。

・現在では障害臓器の数(単一あるいは多発)、リスクとなる臓器障害があるかどうか(造血系、肝臓、脾臓)に基づく分類が利用される。

臨床症状

 <骨病変>

・骨は最も侵される部位として知られ、LCH患者の約80%で骨病変がみられる。

・病変部位としては頭蓋骨(27%)、大腿骨(13%)、下顎骨(13%)、骨盤(10%)と知られる。

・X線撮影で通常、溶骨性変化がみられ、特に頭蓋骨ではPunched-out lesionsがみられる。

限局的な骨痛もLCHでは一般的な症状である。頭蓋骨病変では通常、触ると柔らかい感触があり、圧痛を伴うことがある。なお、頭蓋内への進展は稀である。

・そのほか椎体への浸潤も一般的で、扁平椎(vertebra plana)がみられることも多い。

 <皮膚病変>

・乳幼児においては脂漏性湿疹がみられることが典型的である。

・孤立性の皮膚病変は通常予後良好で、約60%の頻度で寛解する。ただし、約40%では再発や多臓器への進展がみられるため、慎重な経過観察が重要。

 <神経病変>

・通常、治療後に約25%の頻度で尿崩症を合併する。

・LCHは原因不明の尿崩症患者で想起する必要がある。

成長ホルモン(GH)欠乏を伴う前葉機能低下もしばしばみられる。

・灰白質または白質病変は多いとはいえず、1%程度でみられる。

 <呼吸器病変>

・肺病変は単臓器型でなく、多臓器型のLCHでみられやすく、通常は小児で侵される。

・症状としては頻呼吸、呼吸困難、咳嗽などがみられ、画像検査では網状影結節影パターンを呈することがある。

・成人発症例では喫煙が関与することがほとんどである。

 <骨髄病変>

血球減少予後不良因子である。

・造血能低下は多臓器型のLCHで合併しやすく、特に小児発症例でみられる。

・病態としては骨髄への直接的な浸潤の影響や、脾臓への浸潤を背景にした脾腫による影響など複合的と考えられている。

 <肝胆道系病変>

・肝臓病変の合併も予後不良で、多臓器型LCHで、かつ乳幼児にみられやすい。

・低アルブミン血症、浮腫、肝腫大、高ビリルビン血症などがみられる。

・ときに肝移植を要する。

治療

・患者は低リスク群高リスク群とに区別される。

・低リスク群は複数の骨病変があるケース、あるいはリスク臓器(造血系、脾臓、肝臓)の障害がないケースを指す。こちらでは再発は約1/3でみられるが、通常は治療反応性が悪くない。なお、治療レジメンとしてはメルカトプリン、メトトレキサート、インドメタシン、ビスホスホネート薬、BRAF阻害薬、シタラビンなどが報告されている。

・高リスク群はリスク臓器(造血系、脾臓、肝臓)の障害があるケース、あるいは治療反応性が不良なケースを指す。死亡率は高いが、クラドリビンと高用量シタラビンによるレジメンが有効という報告もある。この群では同種造血幹細胞移植も提案される。またBRAF阻害薬の投与も検討される。

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<参考文献>

・Monsereenusorn C, Rodriguez-Galindo C. Clinical Characteristics and Treatment of Langerhans Cell Histiocytosis. Hematol Oncol Clin North Am. 2015 Oct;29(5):853-73. doi: 10.1016/j.hoc.2015.06.005. Epub 2015 Aug 18. PMID: 26461147.

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