高安動脈炎 takayasu arthritis
高安動脈炎とその疫学
・高安動脈炎(Takayasu arthritis)は大動脈とその主要分枝、肺動脈、冠動脈に炎症性壁肥厚をきたし、結果として炎症性に狭窄、閉塞、拡張病変を合併する大型血管炎である。
・高安病とも呼ばれる。また、以前は橈骨動脈の脈拍触知が不良となることから”脈なし病”とも呼ばれた。
・1908年に金沢大学眼科の高安右人医師によって報告がなされた。
・男女比はおおむね1:8とされている。20歳前後の若年女性に好発する。ただし、10~20%程度で40歳以降で発症するとされていて、若年者以外においても鑑別疾患に含まれる。
・大型血管炎には高安動脈炎と巨細胞性動脈炎とが含まれるが、前者が若年で発症するのに対して、後者は高齢者で発症しやすい。
・大血管は通常生検ができないため、鑑別疾患の除外を行ったうえで、臨床的に疑わしいと考えられた場合には治療を開始することがある。
臨床症状/臨床経過/合併症
・臨床症状としては発熱、易疲労感、体重減少、頭痛、失神、両側上肢の血圧左右差などがみられる。
・特に頸部痛(carothidynia)、上肢の冷感、上肢の跛行症状(シャンプーなどで上肢を挙上している際に上肢に倦怠感や疼痛が生じるなど)、下肢の間欠性跛行などは局所の血管炎症状を反映している可能性がある。
・大動脈の主要分枝に炎症が生じると侵された血管において狭窄や閉塞が生じ、それに伴う症状や合併症が生じる。主な合併症としては大動脈弁閉鎖不全症、肺血栓症、聴力障害、視力低下/失明などが挙げられる。また、高安動脈炎の約6%で潰瘍性大腸炎を合併するとされていて、遺伝的類似性が示唆されている。
・若年発症の高血圧症、若年発症の脳梗塞などでも高安動脈炎は鑑別に挙げられる。
臨床検査
・CRP高値や赤沈(ESR)亢進がみられる。また、これらの炎症マーカーは経過観察にも有用であることが多い。ただし、一部CRPやESRの変化を伴わず、血管炎病勢の悪化が生じるケースもある。
・通常、自己抗体は陰性である。
・高安動脈炎の診断に有用な特異的マーカーは存在しない。
画像検査
・高安病において画像検査は診断および経過観察に有用。
・大動脈および主要分枝における狭窄や閉塞を確認する方法のゴールドスタンダードは血管造影検査である。造影CT撮像、造影MRI撮像も動脈病変を検出するのに有用である。
・またPET-CT撮像も動脈の炎症の局在を反映することがあり、有用である。ただし、動脈硬化は同様の信号変化を呈することに留意して評価を行う必要がある。
・特に頸部痛(carothidynia)を伴うケースでは頸動脈エコーが有用な場合がある。
分類基準
米国リウマチ学会(ACR)から1990年に以下の分類基準が提示されている。
6項目中3項目以上を満たすことが求められている。
<高安動脈炎分類基準>
- 40歳以下での発症
- 四肢での跛行(特に労作により増悪する上肢の筋症状)
- 上腕動脈拍動の左右差
- 収縮期血圧の左右差が10mmHg以上
- 鎖骨下動脈もしくは大動脈上でのBruitを聴取する
- 血管造影による閉塞もしくは途絶の所見がある
治療
・まずはステロイド全身投与による治療が選択される。免疫抑制薬を併用する場合もある。
・本邦ではPSL 0.3~0.5mg/kg/日の投与にほとんど反応するが、ステロイド漸減中に再燃することも稀ではない。
・免疫抑制薬としてはメトトレキサート、シクロスポリンA、シクロホスファミド、ミコフェノール酸、タクロリムスなどが選択され得る。
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<参考文献>
・Hellmich B, Agueda A, Monti S, Buttgereit F, de Boysson H, Brouwer E, Cassie R, Cid MC, Dasgupta B, Dejaco C, Hatemi G, Hollinger N, Mahr A, Mollan SP, Mukhtyar C, Ponte C, Salvarani C, Sivakumar R, Tian X, Tomasson G, Turesson C, Schmidt W, Villiger PM, Watts R, Young C, Luqmani RA. 2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Ann Rheum Dis. 2020 Jan;79(1):19-30. doi: 10.1136/annrheumdis-2019-215672. Epub 2019 Jul 3. PMID: 31270110.
・Terao C, Yoshifuji H, Mimori T. Recent advances in Takayasu arteritis. Int J Rheum Dis. 2014 Mar;17(3):238-47. doi: 10.1111/1756-185X.12309. Epub 2014 Feb 18. PMID: 24548718.