椎体骨折 vertebral fractures

椎体骨折とその疫学

・椎体骨折(Vertebral fractures)は画像検査で認識され、通常は腰背部痛を自覚する。

・X線撮影で確認できる椎体骨折のうち、臨床で診断されるのは約1/4から1/3程度という報告もある。

・骨折に関連する合併症の発生頻度は胸椎骨折よりも腰椎骨折においてより多い。

・高齢者の椎体骨折は死亡リスクの上昇と関連するが、このリスク上昇は椎体骨折と死亡との両者に関連する基礎疾患(フレイルなど)による影響が大きいという見方がある。

・脊椎の圧迫骨折は外傷性、骨粗鬆症性、腫瘍性、感染性などによって生じる。

・女性の初発の椎体骨折は通常、閉経直後でなく、閉経からある程度の時間が経過してから生じる。

・椎体骨折の有病率および発症率は年齢とともに増加する。有病率は黒人女性、アジア系女性、男性の順に低くなる。

・椎体骨折のリスク因子としては加齢、1回以上の転倒歴、運動習慣の不足、喫煙、ステロイド全身投与歴(累積投与量が増加するほどリスクは高まる)、特定の慢性疾患(COPD、関節リウマチ、Crohn病など)、低BMIなどが挙げられる。

身長減少(例:25歳時点の身長から4cm以上の減少)は椎体骨折の存在に関して、感度31~56%、陽性的中率14~26%程度に過ぎないが、陰性的中率が高く、86%以上とされる。

骨密度検査

・DEXA法で確認される骨密度が低値であることは椎体骨折の有病率および発症リスク増加と関連する。実際、脊椎または股関節における骨密度が1SD減少するごとのOdds ratioは1.5~2.0とされる。

診断/画像所見

・病歴などから椎体骨折の可能性は想定できることもあるが、確定診断はあくまで画像検査によってなされる。診断には胸椎および腰椎の側面X線撮影が標準的な方法である。

・別の目的で撮影された胸部X線撮影(側面撮影)で偶発的に椎体骨折が写ることもあるが、そのような偶発的な所見は臨床医による評価/認識を欠いてしまうことも多い。

・急性期骨折は主にMRI撮像でSTIR像での高信号、T1WIでの低信号が確認されることで認識される。

・骨粗鬆症性の圧迫骨折は胸腰椎移行部で好発し、椎体前上方の終板に生じやすい。

・外傷性では破裂骨折との鑑別が重要である。一般的に圧迫骨折では後方成分の骨折などを伴わない安定型の骨折に相当する。一方で、破裂骨折では椎体後縁にも骨折が生じていて、骨片が脊柱管内に移行することで下肢の麻痺を伴うこともある。なお、多発性骨髄腫を原因とする椎体骨折では良性の骨粗鬆症性のパターンの骨折を伴うことがあるため注意が必要とされる。

疼痛管理

・椎体骨折ではしばしば激しい腰背部痛が出現する。

・急性期椎体骨折に対する鎮痛薬の有効性を評価したRCTは十分とはいえないが、臨床的にはNSAIDs、アセトアミノフェン、オピオイド、リドカインテープ、神経障害性疼痛治療薬(SNRIなど)が一般的に使用される。オピオイドはベッド上安静を回避するために有用な場合がある。

・小規模RCTではカルシトニン(筋肉注射など)が急性期椎体骨折による疼痛を僅かに軽減する可能性が示唆されている。特に米国製外科学会(AAOS)は急性期圧迫骨折で、神経学的異常所見がない場合に、カルシトニンによる4週間の治療を考慮することができると示している。特に4週時点での疼痛軽減に関連することが示されている。

テリパラチドおよびビスホスホネート薬は新規の椎体骨折を予防することで腰背部痛を軽減する可能性がある。しかし、急性期椎体骨折による疼痛の軽減に関する有効性はRCTで検証されていない。

リハビリテーション

・椎体骨折患者を対象とした小規模RCTから得られた限定的なエビデンスでは、運動プログラムによって疼痛軽減、筋力、バランス能力、QOLの改善に寄与することが示唆されているが、研究によっては一貫した結果となっていない

ベッド上安静は、推奨はされていない。監視下あるいは非監視化の運動プログラムは推奨も否定もされていない

背筋や腹筋の伸展運動、等尺性運動は予後を改善し、二次性の骨折を予防する可能性が示唆されている。

・骨粗鬆性圧迫骨折に対する8週間の軟性あるいは硬性コルセットの着用は予後を改善しない可能性が示されている。

外科手術

・椎体骨折の手術法としては経皮的椎体形成術、椎体固定術などがある。

・詳細は割愛する。

カルシウム/ビタミンD

・骨粗鬆症の管理に関するガイドラインではカルシウム(1000mg/日以上)、ビタミンD(600IU/日以上)の十分な摂取を推奨している。

・しかし、カルシウム単独、ビタミンD単独、あるいはカルシウムとビタミンDの併用での摂取により、椎体骨折の発症リスクが低下することを示したRCTはない

薬物療法

・薬物療法は随伴症状や骨密度などに関係なく、椎体骨折をきたした患者のその後の骨折リスクを減少するために適応となる。

・閉経後骨粗鬆症の女性(特に骨密度低値あるいは椎体骨折の既往がある者が対象)を対象に実施された大規模RCTでは椎体骨折発症リスクを減少させることが示された薬物が存在する。特に対象となった薬剤は経口ビスホスホネート(アレンドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸)、静注ビスホスホネート(ゾレドロン酸)、SERM(バゼドキシフェン、ラロキシフェン)、副甲状腺ホルモン製剤(テリパラチド)、デノスマブ、カルシトニンなどである。ただし、カルシトニンの有効性についてが疑問視される見方もある。ビスホスホネート(イバンドロン酸を除く)、デノスマブ、テリパラチド非椎体骨折のリスク減少効果が示されている。アレンドロン酸、リセドロン酸、デノスマブ股関節骨折のリスク減少効果が示されている。アレンドロン酸股関節骨折を含む非椎体骨折および椎体骨折のリスク減少効果があり、相対的なコストが小さいことなどから、第一に選択されることも少なくない。

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<参考文献>

・Ensrud KE, Schousboe JT. Clinical practice. Vertebral fractures. N Engl J Med. 2011 Apr 28;364(17):1634-42. doi: 10.1056/NEJMcp1009697. PMID: 21524214.

・Papa JA. Conservative management of a lumbar compression fracture in an osteoporotic patient: a case report. J Can Chiropr Assoc. 2012 Mar;56(1):29-39. PMID: 22457539; PMCID: PMC3280116.

・Kim HJ, Yi JM, Cho HG, Chang BS, Lee CK, Kim JH, Yeom JS. Comparative study of the treatment outcomes of osteoporotic compression fractures without neurologic injury using a rigid brace, a soft brace, and no brace: a prospective randomized controlled non-inferiority trial. J Bone Joint Surg Am. 2014 Dec 3;96(23):1959-66. doi: 10.2106/JBJS.N.00187. PMID: 25471910.

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