Guillain-Barré syndrome ギラン・バレー症候群
ギラン・バレー症候群とその疫学
・ギラン・バレー症候群(GBS: Guillain-Barré syndrome)の原著は多くの場合、発症前4週以内に先行感染を伴う両側弛緩性運動麻痺で、腱反射消失と比較的軽度の感覚障害がみられ、脳脊髄液の蛋白細胞解離を伴う、急性発症の免疫介在性多発根神経炎である。
・本邦の統計では人口10万人に対して1.15人と推定され、男女比は3:2と男性に多い。平均発症年齢は39.1±20.0歳とされた。加齢により発症率は高まるが、全年齢で発症し得る。
・典型的には下肢の筋力低下と比較的軽度の感覚障害とが出現し、その後に上肢へと症状が移動する。しかし、症状はときに非典型的で、病像は様々である。GBSと臨床像が類似する疾患を除外することも重要で、神経伝導検査なども参考となる。神経伝導検査によりAIDP(acute inflammatory demyelinating polyneuropathy)、AMAN(acute motor axonal neuropathy)、AMSAN(acute motor and sensory axonal neuropathy)の区別に役立つことがある。
・疾患の進行は急速で、ほとんどのGBSでは2~4週間以内に症状がピークに達する。
・GBS患者の約20%で呼吸筋障害による呼吸不全を呈し、人工呼吸を伴うケースもある。呼吸不全リスクのある患者の同定の補助としてErasmus GBS Respiratory Insufficiency Score(EGRIS)を利用することもでき、患者が初期評価された後1週以内に人工呼吸を必要とする状況になる可能性を見積もることができる。
・自律神経障害により不整脈や不安定な血圧がみられることもある。
・GBS患者の約60~80%では発症から6ヶ月後時点で自力歩行が可能となる。
・通常は症状がピークに達したあとに軽快する単相性の経過を辿る。しかし、GBS患者の一部では治療により一時的に改善した後に悪化する経過を辿ることがある。これはTreatment-related fluctuation(TRF)と呼ばれる現象である。なお、GBSの再発は約2~5%でみられる。
・GBSは先行感染やワクチン接種とそれに伴う免疫反応により、末梢神経が障害されると考えられている。しかし、その病態が完全に解明されているわけではない。ガングリオシド抗体は陽性となることもあるが、感度が十分とはいえない。通常、GBS(軸索型)では抗GM1抗体が陽性となり、Miller Fisher症候群(MFS)では抗GQ1b抗体が陽性となりやすい。
先行感染エピソード
・GBSを発症した患者の約2/3で発症前6週以内に先行感染がみられたという報告がある。
・症例対照研究でGBSと関連性が示唆されている病原体として、カンピロバクター・ジェジュニ、サイトメガロウイルス、E型肝炎ウイルス、肺炎マイコプラズマ、EBウイルス、ジカウイルスが挙げられている。他の病原体が関与している可能性も否定されない。
・なお、ワクチン接種なども原因となることが示唆されていて、先行感染がなくてもGBSの可能性は除外できないことに留意する必要がある。
・ある研究では100万回のワクチン接種で約1例のGBS症例が生じることが示唆されている。
・そのほか、免疫抑制薬(TNF-α抗体製剤、免疫チェックポイント阻害薬など)とGBS発症との関連性も報告されている。
臨床経過/臨床症状
<典型的な経過>
・GBSでは中枢神経系病変や他の明らかな原因が存在しないにも関わらず、急速に進行する両下肢and/or両上肢の脱力感/筋力低下を呈する患者において、その可能性を考慮するべきである。
・古典的なGBSでは下肢の筋力低下と比較的軽度の感覚障害とが出現し、その後に上肢へと症状が移動する。また、頸部筋や呼吸筋を侵す場合もある。腱反射はほとんどのケースで減弱あるいは消失する(ただし約10%では腱反射は正常あるいは亢進する)。また、自律神経障害は一般的で、血圧や心拍数の不安定化、瞳孔径の異常、膀胱直腸障害の出現などとして顕在化する。
・なお、疼痛もしばしば伴い、神経性などの病因が想定される。
・発症は急性経過で、患者は通常2~4週間以内に症状がピークに達する。発症24時間以内に、あるいは発症4週間以降に症状がピークに達するようなケースでは別の診断の可能性を一度は考慮する。
<非典型的な経過>
・GBSはときに非典型的な病像を呈することがある。
・古典的には筋力低下および感覚障害は両側性であるが、非対称性に症状がみられるケースがあったり、遠位筋でなく近位筋優位に症状がみられたり、また上肢から症状がみられたり、四肢にほぼ同時に症状が出現したりするケースもある。
・特に年少児(6歳未満)では限局性の疼痛、髄膜炎、歩行不安定性など、非典型的な症状を呈することがある。
・特に運動症状のみがみられ、神経伝導検査でAMANタイプを示唆する所見がみられるケースの一部では経過を通して腱反射が正常あるいは増強することがある。
<Variants>
・GBSには複数のVariantが報告されている。
・咽頭頸部上腕型(PCB variant)では下肢の筋力低下は目立たず、咽頭/頸部/上腕における筋力低下と上肢の腱反射減弱を特徴とする。
・対麻痺型では上肢の筋力低下は伴わず、両下肢の筋力低下と腱反射減弱がみられることを特徴とする。
・四肢遠位の錯感覚を伴う両側顔面神経麻痺では顔面神経麻痺に加えて両側の腱反射減弱が認められる。
・Miller Fisher症候群(MFS)では四肢の筋力低下は目立たないが、外眼筋麻痺、失調、腱反射減弱がみられる。眼瞼下垂が急性経過で出現することもある。
・Bickerstaff型脳幹脳炎(BBE)では四肢の筋力低下は目立たないが、意識障害、外眼筋麻痺、失調がみられる。
臨床検査
・血液検査は電解質異常や代謝異常などの除外も目的に行われる。類似する病像を呈する可能性のある疾患群についてはPMID: 31541214のBOX 2部分にまとめられている。
・先行感染に関する検査を行うことは通常診断に寄与しない。
・抗ガングリオシド抗体が陽性であれば、検査後確率は上昇する。しかし、感度が十分とはいえないため、陰性であってもGBSの可能性は否定できない。なお、抗GQ1b抗体はMFS患者の最大90%で陽性となることが知られていて、MFSが疑われるケースでは診断的価値が高いとされる。なお、総合的にGBSの可能性が高いと考えられるケースでは抗体検査の結果を待たずに治療を開始する必要性が高いこともある。
脳脊髄液検査(CSF)
・髄液検査はGBSに関する初期評価時に実施することを検討する。GBSにおいては蛋白細胞乖離がみられることが典型的である。しかし、発症後1週以内では30~50%、2週以内では10~30%でそれぞれ髄液中蛋白レベルは基準値であり、あくまで参考所見に留める。
・著明な好中球増多(>50個/μL)では髄膜癌腫症(leptomeningeal malignancy)、脊髄または神経根における感染性/炎症性病態などを示唆する。軽度の好中球増多(10~50個/μL)はGBSに少なくとも矛盾しないが、感染性の多発根神経炎などの他疾患が原因である可能性は保留しておくべきである。
電気生理学検査(神経伝導検査)
・GBSの診断において電気生理学検査は必須ではない。しかし、特に非典型的な病像を呈するケースでの診断に有用で、可能な限り実施することが推奨される。
・神経伝導検査は発症後1週間以内では正常と判定される場合がある。検査が正常でもGBSの可能性が想定される場合にはその2~3週後の再検査を検討する。なお、MFSでは神経伝導検査は正常か、活動電位の振幅が低下している程度に過ぎない。
・神経伝導検査は古典的な3つの亜型(AIDP、AMAN、AMSAN)を鑑別するのに有用なことがある。
・神経伝導検査の結果の解釈についてはここでは割愛する。
画像検査
・MRI撮像は特に脳幹脳炎、脳卒中、脊髄あるいは前角細胞における炎症、神経根の圧迫、髄膜癌腫症の除外をするのに有用である。
・Gd造影MRI撮像による神経根の信号増強所見は非特異的ながらもGBSでもみられる所見である。
診断
・GBSは通常、病歴と臨床所見、身体所見などにより診断される。脳脊髄液検査、神経伝導検査、ガングリオシド抗体などの補助検査は他疾患の除外、診断の確認のために有用とされている。
・診断基準としてはNational Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke(NINCDS)によるものが知られるが、これは4人のExpert opinionにより1978年に作成されたものである。
治療
・10mほどの距離が自力歩行できないような場合には治療を開始するべきと考えられる。
・自力歩行が可能な患者における治療効果に関するエビデンスは限定的であるが、それでも急速進行性の筋力低下/脱力、自律神経障害、呼吸不全などの重篤な症状を伴うケースでは治療開始を考慮する。
・臨床試験では免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)は筋力低下出現から2週以内に開始した場合に、血漿交換療法は4週以内に開始した場合にそれぞれ治療効果が証明されている。
・IVIGと血漿交換療法とはGBSに対して同等に有効な治療法と考えられ、有害事象のリスクに関しても大差はないと考えられている。
・GBSに対する副腎皮質ステロイド投与の有効性に関する8つのRCTでは有意な有効性が示されなかった。
・IVIGあるいは血漿交換療法で治療された患者の約40%は治療開始後4週以内で症状が改善しないことが報告されている。しかし、治療をもしも開始しなかった場合には症状がさらに悪化していた可能性が残るため、症状が改善していないことは必ずしも治療が無効であったという風に解釈できない。
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
・CIDPは8週間以上かけて緩徐に進行する四肢における筋力低下と感覚障害を特徴とする脱髄性末梢神経障害である。
・急性期のCIDPとGBSとの区別は容易でない。実際、GBS患者の最大5%では寛解と再発を繰り返すことからacute-onset CIDPと診断が変更される。通常、治療後再燃が3回以上みられるか、発症から9週が経過しても生じる場合にはCIDPの可能性が高い。
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<参考文献>
・Leonhard SE, Mandarakas MR, Gondim FAA, Bateman K, Ferreira MLB, Cornblath DR, van Doorn PA, Dourado ME, Hughes RAC, Islam B, Kusunoki S, Pardo CA, Reisin R, Sejvar JJ, Shahrizaila N, Soares C, Umapathi T, Wang Y, Yiu EM, Willison HJ, Jacobs BC. Diagnosis and management of Guillain-Barré syndrome in ten steps. Nat Rev Neurol. 2019 Nov;15(11):671-683. doi: 10.1038/s41582-019-0250-9. Epub 2019 Sep 20. PMID: 31541214; PMCID: PMC6821638.
・Wakerley BR, Yuki N. Mimics and chameleons in Guillain-Barré and Miller Fisher syndromes. Pract Neurol. 2015 Apr;15(2):90-9. doi: 10.1136/practneurol-2014-000937. Epub 2014 Sep 19. PMID: 25239628.
・Wakerley BR, Uncini A, Yuki N; GBS Classification Group; GBS Classification Group. Guillain-Barré and Miller Fisher syndromes--new diagnostic classification. Nat Rev Neurol. 2014 Sep;10(9):537-44. doi: 10.1038/nrneurol.2014.138. Epub 2014 Jul 29. Erratum in: Nat Rev Neurol. 2014 Nov;10(11):612. PMID: 25072194.
・ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013(日本神経学会)
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