COPD増悪 (COPD exacerbations)
COPD増悪とその疫学/病因
・COPD増悪(COPD exacerbations)とは呼吸困難、喀痰、咳嗽などの症状が日常の生理的な変化を超えてCOPDが急激に悪化し、安定期の治療内容の変更が必要となる状態を指す。
・気道感染症と汚染された空気への曝露(タバコ、職業暴露など)がCOPD増悪の最も一般的な原因である。なお、全体の約1/3では増悪の原因を同定できない。
・心不全の悪化、肺以外における急性感染症、肺塞栓症、気胸、心筋梗塞などの問題もCOPD増悪の原因となり得る。
・COPD増悪の症例の約50%は医師に認識されないと考えられていて、多くの症例は軽症であることが示唆される。
・自覚症状として呼吸困難があるケースでは酸素投与が必要なる可能性が高く、入院加療を検討する。
初期評価
・平時と比べてどの程度のADL低下がみられるのかといった病歴聴取も重要。
・可能であれば以前のベースラインの胸部X線所見、動脈血液ガス分析結果などの結果と比較して、増悪に至っているかどうかの判断の一助とする。
・COPD増悪では錯乱などを含めた意識障害を伴う場合があり、精神状態の評価も行う。
・胸部X線撮影では心不全、肺炎、胸水貯留などの評価に有用である。
・動脈血液ガス分析ではCO2貯留の有無、呼吸不全の評価に有用である。
・血液検査ではBNPや心筋逸脱酵素によって心不全や虚血性心疾患の可能性について評価する。
・歩行が困難なケースでは深部静脈血栓症(DVT)の予防の必要性を考慮する。
酸素投与
・酸素飽和度90%を最低でも維持できるように酸素投与を行うことが原則である。
・高流量酸素投与で十分な酸素化が保てない場合には非侵襲的陽圧換気(NIPPV)の適応となる。NIPPVに忍容性がない場合やNIPPVを使用していても低酸素血症が続いたり、アシドーシス、CO2貯留状態が続いたりするなどの状態にある場合には侵襲的人工換気の必要性を検討する。
・十分な酸素化が維持できないときには肺塞栓症の可能性も一度は考慮する。
・中等症~重症のケースではCO2貯留が比較的生じやすく、酸素投与を開始し30~60分後程度のタイミングで動脈血液ガス分析を再検査する場合もある。PaCO2高値、アシドーシスの悪化は呼吸不全の前兆である可能性がある。
治療
・治療はABCアプローチとも呼ばれ、抗菌薬(Antibiotics)、気管支拡張薬(Bronchodilators)、ステロイド全身投与(Corticosteroids)が選択される。
・COPD増悪の約50%で下気道から微生物が検出され、特に肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラ・カタラリス、肺炎マイコプラズマ、ウイルスなどが検出されやすいことが知られる。
・中等症~重症のCOPD増悪に関して抗菌薬投与を行うことで治療失敗例や死亡リスクが軽減される。なお、軽症症例にも有効である。
・SABAの使用は呼吸困難の軽減と運動耐容能の改善につながる。
・ステロイド全身投与を短期間行うことは治療失敗率を低下させ、入院期間の短縮、低酸素血症およびFEV1.0の改善に寄与する。
・増悪初期にステロイドの内服治療を行うことで、入院に至るケースが減少する可能性が示唆される。治療失敗率は長期投与群(8週間)、短期投与群(2週間)で違いがなかったことを示すRCTが存在し、長期投与の利点は乏しいと思われる。ただし、実際的には2週間よりも短い期間の投与とすることが多い。
・ステロイド投与は高用量レジメン(mPSL 125mg 6時間ごと投与)と低用量レジメン(PSL 30mg/日 連日内服)とではいずれもプラセボ薬と比較して入院期間を短縮することが知られる。また、PSL内服とPSL静注とを同用量(60mg/日)で比較したRCTでは入院期間や治療失敗率において差がみられなかった。ステロイドの経口製剤は静注製剤よりもBioavailabilityが良好で、より安価であり、優先的に使用することが検討される。ただし、安全に内服できないケースや腸管吸収不良などのケースでは静注製剤の利用を検討することとなる。なお、吸入ステロイドは急性増悪の治療において有用性はない。
・通常、PSL 40mg/日 5日間の投与が推奨される。
・その他の治療法についてであるが、テオフィリン製剤はCOPD増悪の治療に推奨されない。
増悪予防
・禁煙、ワクチン接種(肺炎球菌、インフルエンザ、新型コロナウイルスなど)、肺リハビリテーションなどにより呼吸機能が改善し、その後のCOPD増悪頻度を減少させる可能性が示されている。
・カルボシステインなどの去痰薬は増悪予防効果があるかもしれない。
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<参考文献>
・Evensen AE. Management of COPD exacerbations. Am Fam Physician. 2010 Mar 1;81(5):607-13. Erratum in: Am Fam Physician. 2010 Aug 1;82(3):230. PMID: 20187597.
・Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD). Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease.