サルコイドーシス sarcoidosis

サルコイドーシスとその疫学

・サルコイドーシス(sarcoidosis)は原因不明の多臓器疾患で、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を病理学的に特徴とする疾患である。

・肺、リンパ系、皮膚、眼など様々な臓器を侵す。

・サルコイドーシスについての最初の記述は1800年代後半にロンドンで皮膚科開業医をしていたJonathan Hutchinsonによるものとされている。その後、数十年かけて全身症状をきたすことが判明した。しかし、未だにその発症機序などについて未解明な箇所が多い。

・サルコイドーシスの臨床症状は炎症の強さ、罹病期間、侵される臓器などによって異なる。

・サルコイドーシスの有病率や症状は様々で、誘因となる環境抗原が民族、地域などによって異なっている可能性が高い。

・予後も多彩で、自然軽快するものから不可逆的臓器障害に至るケースまで様々である。

・性差としては若干女性に多いとされる。

・あらゆる年齢の方で発症する可能性があるが、発症のピークは男性において30~50歳、女性において50~60歳とされている。

環境要因と遺伝的要因

・サルコイドーシスの発症には遺伝的要因と、何からの抗原曝露や職業的曝露などの環境要因との両者が必要とされる。何らかの環境抗原に対する免疫反応が慢性的な肉芽腫性炎症を惹起することが病態の一部と推定されている。

・カビの生えた環境、殺虫剤への職業関連曝露、農作業、金属加工業、消火作業、粉塵曝露、建築資材の取り扱いなど、複数の環境要因が関連していると報告されている。

・家族歴がある場合、発症リスクは増加し、一親等以内に発症者が1人いるとそのリスクは3.7倍に増加する

・特定の遺伝子変異と喫煙との組み合わせにより、発症リスクが大きく増加する。

臨床経過/臨床症状

・サルコイドーシスの臨床症状は非常に多彩である。

・様々な臓器が侵されるが、通常はが侵され、咳嗽、呼吸困難、胸痛、易疲労感などが典型的な症状である。臨床症状は侵される臓器により異なる

・また非特異的な全身症状を伴うこともしばしばである。これらの症状は単一の臓器に関連するものではなく、炎症性ケミカルメディエーター(TNF-αなど)の放出により誘発されている可能性が高いと思われる。易疲労感とそれに伴う運動制限、認知機能障害、small-fiber neuropathyなどはQOLに大きな影響を及ぼし得る。

Löfgren症候群(レフグレン症候群)結節性紅斑、両側肺門リンパ節腫脹、多関節痛(あるいは多関節炎)を3徴とする症候群で、しばしば発熱も伴う。

・なお、レフグレン症候群を除いたサルコイドーシス患者の50%以上では寛解に至るが、約1/3の患者では慢性経過を辿ることとなる。

心臓症状、神経症状、腎症状、呼吸不全を伴う進行性線維性肺疾患などの合併症がみられる場合には罹患率および死亡率の上昇と関連し、治療を必要とすることもある。

・サルコイドーシスによって死亡するケースは10%未満である。多くの致死的症例は進行した肺疾患によるものであり、心合併症がそれに次ぐ。

・多くのサルコイドーシス患者は無症状か、あるいは急性症状を伴っても自然軽快する。しかし、約1/3では慢性経過をたどり、寛解増悪を繰り返すか、あるは長期経過で病勢が進行する。

診断/合併症

・サルコイドーシスの診断は①矛盾しない臨床症状の存在 ②1箇所以上の組織から非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の存在が証明されること ③他の肉芽腫性疾患の除外 の3つの基準により総合的になされる。

亜急性~慢性経過で呼吸器症状を呈することが最も多く、そういった自覚症状に加えて、胸部X線撮影あるいはCT撮像で両側肺門リンパ節腫脹などの所見が確認されることでサルコイドーシスの可能性が検討されることが多い。

・胸部CT撮像での両側肺門リンパ節腫脹(Bilateral Hilar Lymph Nodes)肺微小結節パターン(Micronodular Pattern)はサルコイドーシスに比較的特異的な所見である。肺あるいは縦隔リンパ節から採取した組織標本は診断に最も有効とされる。胸腔鏡の使用は重要な組織標本を採取できるが、気管支鏡よりも侵襲性が高く、Costも比較的大きいため、気管支鏡を用いた針生検(TBNA)が比較的検討されやすい。

・心サルコイドーシスはサルコイドーシスによる死亡の原因として2番目に多い。新たにサルコイドーシスと診断されたケースでは病歴聴取、身体診察、心電図検査による心サルコイドーシスの可能性の検討を行うことが推奨される。失神などの高リスクな症状、心電図変化(高度房室ブロックなど)がみられるケースでは心臓MRI撮像、心臓PET-CT撮像を検討することとなる。なお、心サルコイドーシスの診断を確定させるためには画像診断で十分なケースもあり、必ずしも心筋生検を必要としない。

レフグレン症候群が想定される場合やLupus pernio(びまん浸潤型皮膚サルコイド)がみられる場合はサルコイドーシスの可能性を強く示唆され、それ以上のさらなる精査の必要性が乏しくなる。しかし、一方で、神経サルコイドーシスでは診断が遅れる場合には神経学的後遺症が出現する場合もあり、頭部MRI撮像、髄液検査などもときに検討される。

・バイオマーカーとしては血清ACEなどが知られる。バイオマーカーは予後を反映するものではなく、疾患活動性の指標となるかもしれない。血清ACEはサルコイドーシス患者の50~60%で上昇するが、診断において特異性が十分でないため、あくまで治療効果判定のいち指標としての利用を原則とする。他にはsIL-2R、CRP、血清アミロイドAなどがバイオマーカーとして知られ、ときに疾患活動性の指標となる。FDG PET-CT撮像は活動的な炎症が存在する臓器の特定と、生検箇所の特定とにおいて有用である。

サルコイドーシスの診断に関するアルゴリズム

マネジメント

・サルコイドーシスの患者を治療対象とするかどうか、治療するとしたらいつ治療するかという検討においては、臓器不全の程度患者のQOLがどの程度損なわれているかとで決定されることが多い。したがって、その決定は単純にはできない。

・多くのサルコイドーシス患者では自然軽快し、全身性の治療を必要としない。しかし、重症例では適切な時期における治療によって症状緩和に繋がり、長期的合併症を予防できるケースもある。

・ExpertによるConsensus statementではステロイドを主な治療薬として推奨されている。

・不可逆的な臓器障害やQOLに影響が大きい症状を伴う場合ではステロイドを導入し、経過をみながら減少させ、維持療法へ移行することも多い。

・ケースによってはステロイドに免疫抑制薬などを併用する場合もあり、メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノール酸などが検討される。また、ヒドロキシクロロキンも代替薬として存在し、特に皮膚病変、高カルシウム血症、神経サルコイドーシスの一部のケースにおいて有効であることが証明されている。また、それでも疾患活動性を抑制できないケースでは生物学的製剤による治療を検討する場合もあり、主に抗TNF-α阻害薬(インフリキシマブ、アダムリマブ)が検討される。

・生活指導として、易疲労感を軽減させ、QOL改善を図るために、定期的な運動習慣の維持は重要とされる。

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<参考文献>

・Drent M, Crouser ED, Grunewald J. Challenges of Sarcoidosis and Its Management. N Engl J Med. 2021 Sep 9;385(11):1018-1032. doi: 10.1056/NEJMra2101555. PMID: 34496176.

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