全身性強皮症 SSc: systemic sclerosis

全身性強皮症とその疫学

・全身性強皮症(SSc: systemic sclerosis)には約60%を占める限局皮膚型全身性強皮症(lcSSc: limited cutaneous SSc)約40%を占めるびまん皮膚型全身性強皮症(dcSSc: diffuse cutaneous SSc)に分けられる。

・皮膚硬化所見が肘関節あるいは膝関節よりも遠位に限局している場合にはlcSScと診断される。

CREST症候群はlcSScの亜型で、Calcium deposits(皮膚や全身のカルシウム沈着)、Raynaud syndrome(レイノー症候群)、Esophageal dysfunction(食道機能障害)、Sclerodactyly(強指症)、Telangiectasia(毛細血管拡張症)を特徴とする。

30~50歳代に好発し、男女比は1:12という報告もある。

限局皮膚型全身性強皮症(lcSSc)の臨床的特徴

・皮膚硬化所見が肘関節あるいは膝関節よりも遠位に限局する

・肺病変としては肺動脈性肺高血圧症(PAH)を合併しやすい。

・内臓病変としては重症な胃食道逆流症(GERD)、レイノー現象を伴いやすい。

・身体所見としてはCREST症候群の所見を伴うことがある。

びまん皮膚型全身性強皮症(dcSSc)の臨床的特徴

・皮膚硬化所見が肘関節あるいは膝関節の遠位近位を問わずみられ、ときに顔面を侵す

・肺病変としては間質性肺疾患を合併しやすい。

・内臓病変としては強皮症腎クリーゼを伴いやすい。

・身体所見としては腱摩擦音(Tendon friction rubs)皮膚色素変化がみられることがある。腱摩擦音とは関節を動かした際に感じる組織がこすれ合うような感覚のことである。手関節や手指関節に手掌を当て、患者に関節を動かしてもらった際に皮下で組織が擦れ合う感触が確認できる。

自己抗体とその臨床的特徴

・強皮症では主に抗核抗体(ANA)、抗セントロメア抗体、抗Scl-70抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体が陽性となり得る。

・抗核抗体は患者の約95%で陽性となる。病勢を反映するとは考えられていない。

抗セントロメア抗体lcSScの60~80%で、dcSScの2~5%でそれぞれ陽性となる。臓器病変としては間質性肺疾患、肺高血圧症、指尖潰瘍などと関連することがある。

抗Scl-70抗体dcSScの20~40%で陽性となる。臓器病変としては急速進行性の皮膚肥厚、強皮症腎クリーゼ、肺線維化などと関連することがある。

抗RNAポリメラーゼ抗体dsSScで陽性となることがあり、腎、皮膚病変、癌との関連性が示唆されている。

臨床症状/臨床経過

・SScの臨床症状は多岐にわたる。

 <レイノー現象>

・寒冷曝露によるレイノー現象の出現はSScの一般的な症状で、95%以上でみられる。レイノー現象では通常、白色(血管攣縮)から青色(虚血)、そして赤色(充血)へと変化する病歴が聴取される。特発性/原発性レイノー現象は通常、若年女性に好発し、組織の虚血性合併症がみられない。しかし、SScをはじめとする何らかの疾患を背景にした二次性レイノー現象ではより高い年齢で好発し、爪上皮出血点(nail fold bleeding)や指の虚血性変化(指尖潰瘍など)を伴うことがある。

 <皮膚症状>

・皮膚肥厚の程度は罹病期間などにより様々である。発症初期には手指のびまん性腫脹が皮膚肥厚に先行して、分類不能な関節炎として捉えられることもある。

・ほかに発症初期にみられる所見として光沢のある皮膚、皮膚色素変化が挙げられる。病期が進行し、皮膚肥厚所見、皮膚硬化所見が明らかとなるとSScの可能性が想定されやすくなる。

・ときに顔面の肥厚を伴うこともあり、その場合では開口がしづらくなることがある。

・そのほかの皮膚症状としては脱毛、毛細血管拡張所見、皮膚石灰沈着などがみられる。病期が進行すると、手指や手関節、肘関節の屈曲拘縮に至ることもある。

 <筋骨格系症状>

・筋骨格系の症状は初期のSScではよくみられ、受診の契機となることも多い。関節痛筋肉痛のような症状で自覚される場合もある。

・手関節、膝関節、足関節において腱摩擦音を確認できる。腱摩擦音はdcSScとの関連性が強く、ときに早期診断に有用なこともある。

 <消化器症状>

胃食道逆流症(GERD)、嚥下障害、蠕動機能障害などはときに初期のSScでみられやすい。

・葉酸欠乏、ビタミンB12欠乏などを伴うSIBOが生じることもある。

・貧血がみられる場合には胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)を合併している可能性を想定する。GAVEは内視鏡で胃粘膜に直線上に走る拡張した静脈が確認でき、スイカに似た模様を呈する(watermelon stomach)。胃前庭部に好発する。なお、GAVEでは血清ビタミンB12や葉酸値は基準値内にあることが多いという報告もある。

合併症

・臓器合併症はSScでしばしばみられるが、病期が進行するまでは症状が出ることは比較的少ない。

 <肺>

・肺合併症はSScの合併症として一般的で、主要な死因とされる。

・SScでは肺実質の障害(間質性肺疾患)肺血管の障害(肺動脈性肺高血圧症(PAH))とを起こし得る。したがって、SScと診断された場合には原則として全てのケースで呼吸機能検査心エコー検査によるスクリーニングを行うこととなる。

・間質性肺疾患はdcSScでより合併しやすい。呼吸機能検査では拘束性換気障害パターンが示される。FVC<50%の重度の拘束性換気障害を伴うケースでの10年死亡率は42%とされる。なお、FVC/DLco比<1.6となる場合には肺動脈性肺高血圧症よりも間質性肺疾患がより示唆される。CT撮像をすると、肺底部に網状影やすりガラス影がみられることが一般的である。蜂巣化(Honeycombing)や牽引性気管支拡張などの所見は通常、ある程度進行してからみられる。

・lcSScの患者では肺動脈性肺高血圧症の合併リスクが比較的高い。重症肺動脈性肺高血圧症のリスク因子としては皮膚硬化所見が限局していること、高齢発症、初回評価時の肺動脈圧が高値などが挙げられる。なお、肺動脈性肺高血圧症と考えるためには心臓弁膜症、肺塞栓症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの他の原因を除外することが必要である。そのうえで、右心カテーテル検査で平均肺動脈圧が25mmHgであることの確認をもって、肺動脈性肺高血圧症と診断する。

 <腎>

・強皮症腎クリーゼはSSc患者の3~10%で、急速進行性のdcSSc患者の10~20%でそれぞれ合併し、最もリスクが高いとされるのは発症3年以内である。

・強皮症腎クリーゼのそのほかのリスク因子としてはコルチコステロイドの使用(PSL 15mg/日以上)、腱摩擦音の存在、無症候性心嚢液貯留、新規に出現した貧血、高齢、妊娠などが挙げられる。

・強皮症腎クリーゼは急激に出現する重度の高血圧症が特徴的で、しばしば蛋白尿、微小血管障害性溶血性貧血、顕微鏡的血尿を伴う進行性の腎不全の経過を辿る。強皮症腎クリーゼのケースの10~15%は血圧が正常範囲にあるが、ベースラインと比較すると高いはずである。したがって、強皮症腎クリーゼを早期に認識するためにも血圧を定期的にチェックすることは重要である。

・強皮症腎クリーゼが疑われる場合にはACE阻害薬による治療を行う。

 <心臓>

・SScに合併する心臓疾患としては心筋障害、伝導系障害、不整脈、心膜疾患が挙げられる。

・また強皮症腎クリーゼや肺合併症も心機能障害を誘発し得る。

SScの早期診断(VEDOSS)

VEDOSS(very early diagnosis of systemic sclerosis)はSScの早期診断が意識されて形成された概念である。

<VEDOSS基準>

 <主要項目>

・レイノー現象

・SSc特異抗体陽性

・爪周囲血管拡張

 <付加項目>

・石灰化

・手指腫脹

・指趾潰瘍

・食道括約筋機能障害

・毛細血管拡張

・肺すりガラス影(HRCT所見)

主要3項目、または主要2項目と付加項目1つ以上でVEDOSSと診断可能。

ACR/EULAR SSc分類基準 2013

  1. 両手指のMCP関節より近位の皮膚硬化(9点)
  2. 手指の皮膚硬化:手指腫脹(2点), PIPからMCPまでの皮膚硬化(4点)
  3. 指尖部病変:指尖部潰瘍(2点), 指尖部陥凹瘢痕(3点)
  4. 毛細血管拡張症(2点)
  5. 爪周囲毛細血管異常(2点)
  6. 肺動脈性肺高血圧症 and/or 間質性肺疾患
  7. レイノー現象
  8. 抗セントロメア抗体, 抗トポイソメラーゼⅠ(Scl70)抗体, 抗RNAポリメラーゼⅢ抗体のいずれかが陽性(3点)

・合計9点以上でSScと分類する。

・上記の②, ③についてはそれぞれ点数の高い方をカウントする。

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<参考文献>

・Hinchcliff M, Varga J. Systemic sclerosis/scleroderma: a treatable multisystem disease. Am Fam Physician. 2008 Oct 15;78(8):961-8. PMID: 18953973.

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・難病情報センター

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