原発性シェーグレン症候群 primary sjögren syndrome

シェーグレン症候群とその疫学

・シェーグレン症候群は外分泌機能障害を主とする全身性自己免疫性疾患で、主に目、口、咽頭、膣などにおける乾燥症状を呈する。

・原因は不明確な部分もあるが、遺伝的要因と環境的要因とが関与していると考えられる。

・発症年齢のピークは40~60歳代とされていて、女性に好発する。

SLE、RA、SScなどといった他の自己免疫疾患と関連する病型もあり、その場合は二次性シェーグレン症候群(secondary Sjogren syndrome)と称されることがある。

・プライマリケアの現場における発症率のデータは乏しいが、年間1,000人あたり2人程度という推定も存在する。

乾燥症状

・乾燥症状のうち、特にドライアイ、ドライマウスが重要な症状であり、患者の95%以上でみられる。

・そのほかの口腔症状としては食物の口腔内粘膜への付着、嚥下困難などが挙げられる。また、唾液量減少に伴い、齲歯歯肉炎などを伴いやすい。そのほか口腔症状としては舌炎、口角炎も挙げられる。

・眼症状としてはドライアイのほかに、眼の瘙痒感、結膜充血、眼痛、眼精疲労などがみられることもある。涙の量が減少すると角結膜炎を合併しやすくなる。

・そのほか乾燥症状としては嗄声、乾性咳嗽、皮膚の乾燥、性交時痛などがみられることがある。また、患者の約30%唾液腺(主に耳下腺、顎下腺)の発作性の腫脹がみられる。

全身症状

・患者の約70~80%易疲労感を伴い、ときに就労や勤務継続に支障が生じる

・易疲労感に関連した影響か、睡眠障害(15%)、不安(20%)、うつ病(40%)を合併する場合もある。

多関節痛、筋肉痛を伴うことも多く、患者の50%以上でこれらの症状がみられる。

・なお、更年期障害、甲状腺機能低下症、悪性腫瘍、うつ病、線維筋痛症などでも類似した病像を呈することがあり、慎重に鑑別を行う必要がある。

臓器別症状

 <皮膚>

・ときにクリオグロブリン血症に関連する紫斑(10~15%)

・環状紅斑(5~10%)

 <関節>

・対称性関節炎(15~30%)

 <肺>

・気管支拡張症(8%)

・間質性肺疾患(5%)

 <心血管>

・レイノー現象(18~37%)

・心膜炎(<5%)

 <肝臓>

・原発性胆汁性胆管炎(3~8%)

・自己免疫性肝炎(<5%)

 <膵臓>

・再発性の膵炎(<5%)

 <腎泌尿器>

・尿細管性アシドーシス(11%)

・糸球体腎炎(<5%)

・間質性膀胱炎(<5%)

・尿管結石による繰り返す疝痛(<5%)

 <末梢神経>

・ポリニューロパチー(5~10%)

・pure sensory neuropathy(5%)

・多発単神経炎(5%)

・small fiber neuropathy(<5%)

 <中枢神経>

・白質病変(MS様)(<5%)

・脳神経障害(第Ⅴ,Ⅶ,Ⅷ脳神経)(7%)

・脊髄炎(<5%)

 <甲状腺>

・自己免疫性甲状腺炎(14~33%)

 <血液>

・自己免疫性溶血性貧血(<5%)

・重症な血小板減少(<5%)

・B細胞性リンパ腫(5~10%)

シェーグレン症候群 改訂診断基準(厚生労働省研究班 1999年)

  1. 生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること.
    • A) 口唇腺生検でリンパ球浸潤が1/4mm2あたり1focus以上.
    • B) 涙腺組織でリンパ球浸潤が1/4mm2あたり1focus以上.
  2. 口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること.
    • A) 唾液腺造影でstageⅠ(直径1mm以下の小点状陰影)以上の異常所見.
    • B) 唾液分泌量低下(ガムテスト10分間で10mL以下, またはサクソンテスト2分間2g以下)があり, かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見.
  3. 眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること.
    • A) シルマー試験で5mm/5分以下で, かつローズベンガルテストで陽性.
    • B) シルマー試験で5mm/5分以下で, かつフルオロセイン試験で陽性.
  4. 血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること.
    • A) 抗SS-A抗体陽性
    • B) 抗SS-B抗体陽性

【診断】以上1, 2, 3, 4のいずれか2項目が陽性であればシェーグレン症候群と診断する.

アセスメント

・まずはドライアイを来す他の原因(アレルギー性結膜炎など)や、ドライマウスを来す他の原因(糖尿病、脱水、唾液腺への放射線照射歴、薬剤性など)を除外することを心がける。

なお、乾燥症状を副作用として有する薬剤としては抗コリン薬(アトロピン、スコポラミン)、交感神経作動薬(エフェドリン)、ベンゾジアゼピン系薬剤、SSRI、三環系抗うつ薬(TCA)、抗ヒスタミン薬、ニコチン、オピオイド、α1遮断薬、α2遮断薬(クロニジン)、β遮断薬、利尿薬などが知られる。

・ガムテストやシルマーテストなどにより、唾液量と涙液量とを評価することは重要で、検査が陽性で、全身症状も伴う場合にはよりシェーグレン症候群の疑いは強まる。

・眼科においてはシルマー試験、ローズベンガル/フルオレセインによる角膜染色などが行われる。

・口腔病変についてはガムテストなどによる唾液流量の評価と、ときに耳下腺シンチグラフィによって評価が可能。唾液流量の評価はシェーグレン症候群の診断に関して感度56%、特異度81%である。耳下腺シンチグラフィは感度80%、特異度86%と比較的高い。

・患者の25%では赤沈(ESR) 50mm/1hrを超える。また、患者の30%では血球減少(正球性貧血、リンパ球減少、好中球減少、血小板減少のいずれか)を伴う。

・ほかにガンマグロブリン高値、リウマチ因子(RF)陽性、抗核抗体陽性なども所見としてみられることがあるが、いずれも感度は十分でない(約40~70%)。ただし、特異度や陽性的中率は高い。

・血液検査では抗SS-A抗体、抗SS-B抗体の測定が検討される。抗SS-A抗体は患者の70~90%で検出され、抗SS-B抗体は30~40%で陽性となる。そのほか、補体価、血清蛋白電気泳動、クリオグロブリンなどの提出も検討する。なお、低補体価、モノクローナルガンモパチー、混合型クリオグロブリン血症の存在は悪性リンパ腫の発症リスク増加と関連している。

・なお、小唾液腺生検は侵襲的であるが、シェーグレン症候群の診断に特異性が高く、感度82%、特異度86%である。この検査は主に特異的抗体が陰性で、シェーグレン症候群が疑わしい場合に適応となる。

専門医への紹介

・シェーグレン症候群が疑われる、あるいは確定診断となったケースでは専門医へ紹介することを検討する。

・各種合併症の出現には注意が必要である。なお、高熱や寝汗が続くケース、原因不明の体重減少を伴うケースなどでは血液腫瘍、特に悪性リンパ腫の合併も想定し、必要に応じて血液内科医へ紹介することとなる。血液腫瘍はシェーグレン症候群の主な合併症dえあり、特に悪性リンパ腫の発症リスクは健常者の10~50倍高いことが知られる。また原発性シェーグレン症候群患者の2~9%が悪性リンパ腫を発症するという報告もある。

治療

喫煙と飲酒は回避するべきで、口腔内衛生を保つことが重要である。また、風、エアコン、低湿度環境などは眼症状を悪化させやすいため、注意する。

・ドライアイの治療は点眼薬などから開始することとなる。難治性の重症患者ではシクロスポリン点眼の利用も検討可能で、RCTでも支持されている。

・ドライマウスに対しては頻回な水分補給、無糖ガムなどの利用を検討する。唾液腺機能が保たれているケースではピロカルピンあるいはセビメリンの内服が選択でき、こちらもRCTで支持されている。

・全身症状についてはその重症度と症状をきたしている部位/臓器とによって適宜検討となる。なお、ヒドロキシクロロキンは観察研究において易疲労感、関節痛、筋肉痛を改善させることが示唆されている。いくつかの小規模な後方視研究や症例報告によると、これらの症状に対してグルココルチコイドや免疫抑制薬は使用するべきとはいえず、あくまで重篤な全身性症状に対して使用するべきとされている。

フォローアップ

・その都度、皮膚病変、寝汗、体重減少などの確認を行うべきで、悪性リンパ腫の発症に注意しながら経過観察を行う。

・身体診察では口腔内、眼の評価、リンパ節腫脹の有無、耳下腺および顎下腺/肝臓などの腫大の有無などについて特に観察を徹底する。

・抗SS-A抗体を保有する妊娠可能年齢の女性においては胎児の先天性完全房室ブロックのリスクに留意する。頻度としては5%未満であるが、ときに胎児の死亡に至るケースもある。

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<参考文献>

・Ramos-Casals M, Brito-Zerón P, Sisó-Almirall A, Bosch X. Primary Sjogren syndrome. BMJ. 2012 Jun 14;344:e3821. doi: 10.1136/bmj.e3821. PMID: 22700787.

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