過敏性肺炎 hypersensitivity pneumonitis

過敏性肺炎とその疫学

・過敏性肺炎(hypersensitivity pneumonitis)はⅣ型アレルギーによる肺胞、終末細気管支などを含む呼吸器疾患で、1713年にイタリアの研究者により報告された。

・主に動物性あるいは植物性の抗原に曝露することで生じ、稀に化学性物質による曝露でも生じる。通常は肺胞に達せられる大きさの粒子(<5μm)に対して繰り返し曝露されることで発症する。

・最もリスクが高いと考えられる職業は主に農家ブリーダーなどであるが、そのほかの環境要因、職業要因でも発症し得る。

・多くの場合で抗原を特定し、それを回避することで寛解に至る。

・有病率は明らかでないが、ヨーロッパでは間質性肺疾患全体の4~15%を過敏性肺炎が占めるという報告もある。また抗原に曝露した人の全例で発症するわけでもないことから、一部は遺伝的要因の関与も示唆されている。

原因物質

・過敏性肺炎は微生物、動物性、化学物質など、職場や家庭内に存在する様々な物質により誘発される恐れがある。なお、一般的には抗原への繰り返しの曝露により発症すると考えられているが、単回の曝露でも発症することがある。

臨床経過

・過敏性肺炎は急性型、慢性型に分けられる。

 <急性過敏性肺炎>

・症状としては咳嗽、呼吸困難が主であり、ときにインフルエンザ様症状がみられる。

・症状は抗原曝露の6~24時間以内にピークに達し、抗原への曝露が終了しても数時間から数日間持続することがある。

発熱を伴うことが比較的多い。

・抗原に再び曝露することで症状は再燃し、ときに重篤な症状に変わることがある。

・呼吸機能検査で異常がみられることもあり、DLcoも低下する。

 <慢性過敏性肺炎>

・症状としては進行性の咳嗽/呼吸困難/体重減少がみられ、ときに発作的に症状が生じることもある。

・身体所見ではinspiratory crackles、チアノーゼなどがみられる場合がある。

・慢性過敏性肺炎では抗原曝露が続いた結果、炎症が慢性化し、不可逆的な肺線維化に至ることがある。慢性型は急性型よりも、より緩徐に発症し、数ヶ月から数年ほどかけて呼吸困難が悪化する

・呼吸機能検査では拘束性換気障害のパターンを呈し、ときに閉塞性換気障害のパターンも伴うことがある。また、DLcoは非常に低い。慢性型では抗原曝露を回避し、ステロイド治療を行っても、不可逆的かつ進行性に悪化することがある

診断

・過敏性肺炎は一般集団における発症率が比較的低いため、疾患認知がなされず、他の疾患と誤認されることも多い。また、臨床症状も比較的多彩であるため、過小診断の危険性がある。呼吸器症状が主症状であるケースもあれば、食欲不振や体重減少のような全身症状が前景に立つケースもある

・過敏性肺炎を適切に診断するためにはまず鑑別疾患に挙げられることと、関連する環境や職業に関する情報を得るための注意深い病歴聴取が重要である。

・病歴聴取においては疑わしい抗原を特定することも重要であるが、それとともに抗原曝露と臨床症状の出現との時間的関係性を明らかにすることが大切。

・血液検査などは有効性について限界がある。総IgGはしばしば上昇し、RFも陽性となることがある。血中好酸球数やIgEは正常範囲であることが一般的である。

・なお、特異的抗体感度が十分でないことなどから有用性に限界がある。また、同じ抗原に曝露した無症状の人の40~50%で、特異的IgG抗体がみられるという報告もある。

・2003年に行われた過敏性肺炎に関する研究では過敏性肺炎の診断において、6つの重要な予測因子の存在が指摘され、それは①抗原曝露の存在 ②疑われる抗原に関する特異的抗体の存在 ③再発性の呼吸器症状および全身症状の存在 ④身体診察でinspiratory cracklesが聴取されること ⑤抗原曝露4~8時間で症状が出現すること ⑥体重減少 であった。

・急性過敏性肺炎では呼吸機能検査が正常なこともあるが、慢性過敏性肺炎では一般的に肺容積が小さく、DLcoが低下する、いわゆる拘束性換気障害のパターンを呈する。なお、胸部X線撮影では過敏性肺炎の存在は否定できず、HRCTが診断において重要とされる。慢性過敏性肺炎で一般的にみられるCT所見としては牽引性気管支拡張、小葉間隔壁肥厚、小葉内の網状影などが挙げられ、主に陰影は気管支血管周囲に分布する。

・そのほか過敏性肺炎の診断には気管支肺胞洗浄液(BAL)肺生検などの方法も有用である。BAL中のリンパ球数が25%以上であればサルコイドーシスや過敏性肺炎などの肉芽腫性疾患が示唆され、リンパ球数が50%以上でかつ好中球数が3%以上であれば特に過敏性肺炎が示唆される。外科的肺生検は経気管支肺生検よりも感度が高い。

・結論として、現在までに過敏性肺炎の診断においてゴールドスタンダードとされる方法はない。抗原暴露の病歴と、曝露に伴う症状の出現、inspiratory crackles、特異的抗体の存在、体重減少などの症状と合わせて、総合的に判断されることとなる。

治療

・過敏性肺炎の治療として、まずは抗原回避が原則となる。抗原の特定が困難であったり、抗原の回避が現実的に困難であったりする場合もあり、必ずしも回避が選択可能とはいえないこともある。

・いくつかの研究では過敏性肺炎では環境を変更するなどしなかったとしても、必ずしも進行性の転帰を辿らないことも示唆されている。

・抗原回避が不可能であったり、あるいは症状の完全な軽減が得られなかったりする場合にはステロイド治療の適応と成る。ステロイド治療は症状緩和に有効であるが、長期的な転帰に影響は与えない。急性過敏性肺炎では数日間から2週間程度、慢性過敏性肺炎では4~8週間程度、それぞれPSL 40~60mg/日での投与を行う。その後、漸減してPSL 10mg/日程度で維持量にするか、臨床経過がよければステロイド治療を中止することも検討可能。しかし、12週間におよぶステロイド治療は4週間のステロイド治療よりも優れていることが示されなかった点には留意するべきである。

・また症例ごとの個別性に応じて、酸素飽和度が日常的に90%以上の維持が困難であれば酸素投与、気管支拡張薬の使用を検討したり、呼吸困難や咳嗽が顕著であればオピオイドの使用を検討したりすることとなる。

予後

・死亡率に関する報告は乏しいが、イングランドとウェールズでは1968年から2008年までに過敏性肺炎が原因で878人が死亡した。死亡率は女性よりも男性の方が高かった

・デンマークのコホート研究では過敏性肺炎の5年生存率は93%と報告された。

・原因の抗原にもよるが、いくつかの研究では鳥型過敏性肺炎は農夫肺よりも予後不良である可能性が示唆されている。

・過敏性肺炎の予後不良因子としては抗原曝露期間が長いこと、高齢であること、組織学的パターンがNSIPあるいはUIPパターンであること、ばち指の存在、強い抗原曝露歴があることなどが挙げられている。

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<参考文献>

・Riario Sforza GG, Marinou A. Hypersensitivity pneumonitis: a complex lung disease. Clin Mol Allergy. 2017 Mar 7;15:6. doi: 10.1186/s12948-017-0062-7. PMID: 28286422; PMCID: PMC5339989.

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