化膿性脊椎炎 vertebral osteomyelitis
化膿性脊椎炎とその疫学
・化膿性脊椎炎の約60%は男性に発症する。
・化膿性脊椎炎は多くの場合、血行性播種、脊椎手術に伴う合併症、隣接する軟部組織感染からの波及により生じる。特に血行性播種によって発症するケースは比較的多いが、感染巣が特定されるのは約半数とされている。
・起因菌で最多頻度を占めるのは黄色ブドウ球菌(S.aureus)で、大腸菌(E.coli)がそれに次ぐ。なお、CNSとPropionibacterium acnesは脊椎手術に伴う化膿性脊椎炎で起因菌となりやすい。また、菌血症に伴う感染の場合ではしばしばCNSが原因となる。
・253人の患者を対象とした研究では全体の51%で原発感染巣が想定され、尿路、皮膚、軟部組織、心内膜炎、滑液包炎、化膿性関節炎であった。
・血行性感染で発症するケースでは基礎疾患として糖尿病、冠動脈疾患、免疫抑制状態、担癌状態、血液透析患者で多い傾向にある。
・また、周囲への直接波及により硬膜外膿瘍、腸腰筋膿瘍、傍椎体膿瘍などを合併することがある。
臨床症状/身体所見
・背部痛は化膿性脊椎炎における最も一般的な初期における症状で、全体の86%で背部痛を自覚するとされている。
・発熱がみられる頻度は35~60%程度で、解熱鎮痛薬の使用による影響もあるかもしれない。疼痛自覚部位は感染部位によって異なり、腰椎(58%)、胸椎(30%)、頚椎(11%)とされる。
・感覚障害、脱力感、神経根症などの神経学的所見は全体の約1/3で確認される。
・脊椎叩打痛がみられるケースは全体の約1/5以下の頻度に留まるという報告もある。
・激しい背部痛の場合は化膿性脊椎炎よりも硬膜外膿瘍の方が疑わしい。
臨床検査
・WBC増多や好中球分画増多は化膿性脊椎炎において感度が十分とはいえず、特にブドウ球菌による化膿性脊椎炎に限定したケースシリーズではWBC増多の感度は64%、好中球分画増多の感度は39%であった。
・赤沈亢進とCRP上昇とは感度が高く、それぞれ98%、100%とされている。CRPは赤沈よりも治療反応性とよく関連している。
・血液培養は化膿性脊椎炎において重要であるが、全体の58%でしか陽性とならないという報告もある。もしも画像検査、臨床症状などから化膿性脊椎炎が疑われ、血液培養が陰性であるケースでは一般的に骨生検が検討される。なお、硬膜外膿瘍や腸腰筋膿瘍などを合併している場合、CTガイド下膿瘍ドレナージで培養検体が採取されれば、骨生検は不要となる。骨生検を行った場合、好気性培養、嫌気性培養、真菌培養を行い、リスクのあるケースでは抗酸菌培養も行う。
・重症でないケース、つまり敗血症や膿瘍形成などがないケースでは血液培養や膿瘍/骨生検で起因菌が明らかとなった後に、抗菌薬治療を開始するべきである。
画像検査
・画像診断は他の診断を除外しつつ、化膿性脊椎炎の診断と硬膜外膿瘍、椎間板膿瘍などの化膿性合併症を検索するために実施される。
・単純X線撮影は悪性腫瘍の脊椎転移や脊椎骨折などを想定して実施されることがあるが、化膿性脊椎炎に関して感度の高い検査ではない。
・神経障害がみられるケースでは硬膜外膿瘍の有無を検索し、椎間板ヘルニアを除外するためにMRI撮像を行う。なお、化膿性脊椎炎の診断においてMRI撮像は比較的高い感度を有し、90%程度とされている。典型的には椎体終板において骨髄浮腫を反映し、T2WIで高信号を呈する。通常は椎間板と隣接する2つの椎体が侵される。化膿性脊椎炎の診断においてはCTよりもMRI撮像の方が感度は高い。
・99mTc骨シンチグラフィは通常、症状発現し数日以内に陽性となるが、所見は化膿性脊椎炎に特異的なものとはいえない。FDG-PET CTはMRIと同等の診断精度を有しており、体内金属などの存在によりMRI撮像ができないケースで検討される場合がある。
抗菌薬治療
・可能な限り、化膿性脊椎炎の抗菌薬治療は起因菌が同定された後に行われるべきである。
・253人の患者を対象とした研究では全体の90%以上の患者が最低4週間以上の抗菌薬治療を受けていて、その1年後に再発せずに生存している割合は88%だったと報告している。
・心内膜炎を合併した患者28人と、合併しなかった患者63人とのその後の転帰を比較した観察研究では死亡率に関しては両群で同程度(7.1% vs 12.7%)であったが、前者は後者よりも化膿性脊椎炎の再発率がより高かったことが報告された(8% vs 1.9%)。
・サンフォードではグラム陽性菌と陰性菌とをカバーする経験的治療(Empiric therapy)としてVCM+CPFX、VCM+LVFX、VCM+CTRX、VCM+CFPMなどを推奨している。
・グラム陽性球菌に対しては現在でも静注治療が標準的な治療法である。しかし、キノロン系抗菌薬などのBioavailabilityが良好な薬剤を利用して、内服治療に切り替えることもときに可能で、例えばブドウ球菌性の化膿性脊椎炎に対してキノロン系抗菌薬とRFPとの併用を選択する場合がある。
・CLDMは良好なBioavailabilityを有するが、ブドウ球菌に対しては静菌的であり、成人の急性黄色ブドウ球菌性化膿性脊椎炎の治療におけるエビデンスは十分でない。一般的に、β-ラクタム系抗菌薬は化膿性脊椎炎に対して内服治療で選択しがたいかもしれない。
・経験的に推奨される治療期間は4~6週間で、最大3ヶ月とする場合もある。ある研究では治療期間が6週間以下(36人)のケースの再発率、死亡率は、6週間以上(84人)のケースのそれとほぼ同等であった。なお、ドレナージされていない膿瘍が存在するケースや脊椎に人工物が存在するケースではより長期の抗菌薬治療が推奨される。
外科的治療
・急性の血行性播種に伴う化膿性脊椎炎は通常、抗菌薬治療のみで軽快する。手術が必要なのは主に診断目的(生検目的)である。また膿瘍をドレナージして培養検体を得る目的で手術が必要なこともあるが、通常はCTガイド下ドレナージで十分である。なお、脊椎手術後30日以上経過してから発症した化膿性脊椎炎の場合、治療失敗率が高まるため、可能な限り人工物を除去することが推奨される。
治療効果判定
・治療効果を判定するには治療開始4週後の評価が有用で、症状の改善がみられない場合(発熱が続き、疼痛が軽減しないなど)、CRP値が持続的に上昇している場合は治療失敗の予測因子とされる。
・臨床的改善とMRI所見との相関性は乏しいことが知られていて、MRI再検は治療効果判定において有用性は乏しい。あくまで治療開始4週時点で臨床的改善がみられない場合や、硬膜外膿瘍の存在が疑われる場合に限定し、MRI再検を検討する。
・ドレナージされていない大きな膿瘍が存在する場合は抗菌薬治療を中止する前にMRI撮像で膿瘍の消失を確認するべきである。
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<参考文献>
・Zimmerli W. Clinical practice. Vertebral osteomyelitis. N Engl J Med. 2010 Mar 18;362(11):1022-9. doi: 10.1056/NEJMcp0910753. PMID: 20237348.
・Boody BS, Jenkins TJ, Maslak J, Hsu WK, Patel AA. Vertebral Osteomyelitis and Spinal Epidural Abscess: An Evidence-based Review. J Spinal Disord Tech. 2015 Jul;28(6):E316-27. doi: 10.1097/BSD.0000000000000294. PMID: 26079841.