連鎖球菌関連トキシックショックシンドローム STSS: Streptococcal Toxic Shock Syndrome
連鎖球菌関連トキシックショックシンドロームとその疫学
・Toxic shock syndrome(TSS)は黄色ブドウ球菌あるいはA群β溶連菌(GAS)のスーパー抗原毒素による多臓器不全症候群を指す。ほかにもC群溶連菌(GCS)、G群溶連菌(GGS)もTSSの原因になり得る。本ページでは連鎖球菌関連TSS(STSS: Streptococcal TSS)について記載する。
・STSSは1984年にプラハの37歳女性で初めて正式に症例報告された。その後、成人や小児での発症例が報告されて、疾患概念が確立された。
・罹患率は先進国においてはおよそ10万人あたり2~4人と推定される。
・通常、春と冬に多い傾向にあり、秋に少なくなるといわれる。
・どの年齢でも発症し得るが、加齢とともに、発症率は高まり、男性に好発する。
・皮膚バリアの破綻は一般的なリスク因子である。そのほか心疾患、糖尿病、悪性腫瘍などの既往歴は感染リスク増加と関連する。
微生物学的特徴
・GASは病原性が高い。GASの病原性はMタンパクに由来し、このタンパクによりコロニー形成、貪食回避、無菌部位への侵入がより容易になる。
・黄色ブドウ球菌(S.aureus)と同様に、GASはスーパー抗原と称される外毒素を産生する。
・スーパー抗原は抗原提示細胞(樹状細胞、B細胞、マクロファージなど)に作用し、結果として抗原処理などを制限する作用を有す。
臨床症状/臨床経過
・GASは様々な無菌部位へ侵入しやすい特性を有するが、特に軟部組織を侵しやすい。壊死性筋膜炎は稀ながらも、重症な感染症であり、しばしばSTSSを合併する。
・菌血症の合併により、肺炎、骨髄炎、化膿性関節炎、髄膜炎などをさらに併発することがある。
・STSSは発熱と皮疹とを特徴とし、ショックと多臓器不全へと急速に進行する。患者の50%が来院時に低血圧を呈する。
・STSSに典型的な日焼け様紅斑(sunburn rash)は広範囲にみられる。また、発症約2週間後に落屑が生じることが特徴的である。また結膜充血を伴うこともある。
・ショックはスーパー抗原由来のサイトカインストームによって、血管拡張が生じ、治療を行わなければ播種性血管内凝固(DIC)、心不全、腎不全、ARDSを引き起こす。また、血小板減少、肝機能障害も典型的である。
Streptococcal TSSの診断基準
<臨床基準>
・血圧低下
・以下のうち2つ以上:
・腎障害:血清Cre値が基準値上限2倍以上
・凝固異常:血小板<10万/μLまたはDIC
・肝機能障害:血清総ビリルビンまたはトランスアミナーゼ値が基準値上限2倍以上
・ARDS
・びまん性斑状紅皮症で落屑を伴う可能性あり
・軟部組織壊死:壊死性筋膜炎、筋炎、壊疽
<検査基準>
・A群β溶連菌が以下の検体から検出
・無菌検体:血液、髄液、腹腔液、組織生検
・非無菌検体:咽頭、膣、痰
・分類:
・Probable:非無菌検体から検出され、臨床基準を満たす(他の診断を除外)
・Confirmed:無菌検体から検出され、臨床基準を満たす
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・診断は主に上記の1993年に発表されたCriteriaに基づいて行われる。しかし、これらのCriteriaは主に研究目的に作成され、既に発症が確立した状態において特異性が高いが、発症初期においては感度が低いことが示されている。
・つまり、上記のCriteriaを満たさないからといって、STSSの暫定診断や経験的治療の開始が遅れることは望ましくない。
・溶連菌によるTSSでは血液培養陽性率が高い(60~80%)。しかし、黄色ブドウ球菌によるTSSでは陽性率が低い(3%程度)。
マネジメント
・STSSの多くは重症であるため、積極的な支持療法と早期からの抗菌薬治療が特に重要である。
・必要に応じて感染組織のデブリドマン、IVIG、補助的なCLDMの投与、NSAIDsの使用回避などもときに重要である。なお、壊死性筋膜炎においては高圧酸素療法の実施も検討されることがあるが、その有用性は証明されていない。
<支持療法>
・TSSはスーパー抗原による血管拡張で、重篤な低血圧を来す。したがって、積極的な輸液が重要で、ときに強心薬を要するケースもある。また、腎機能障害が低血圧に先行することもある。
・ARDSを合併した場合には気管挿管、人工呼吸管理を要することもある。
<抗菌薬>
・ペニシリン系抗菌薬はGAS感染症における第一選択薬となる。またMRSAの関与が想定される場合にはVCMの併用を行うことがある。
・CLDMはSTSSや壊死性筋膜炎において有用かつ重要な補助的な抗菌薬である。CLDMは50Sリボソームに作用して蛋白合成を阻害する。このことでMタンパクが産生されにくいくなると考えられている。
・ペニシリン系抗菌薬とは異なり、CLDMはイーグル効果(Eagle effect)を受けにくいことも知られている。主にβラクタム系抗菌薬は病巣に大量の細菌が存在している場合、細菌に対して大量のβラクタム抗菌薬を投与するとかえって効果が落ちることが知られていて、このことをイーグル効果という。このメカニズムは正確には解明されていないが、βラクタム系抗菌薬とは異なり、CLDMにはイーグル効果を有さないため、有効性が発揮されやすいと考えられている。また、CLDMは毒素産生に対する抑制的な効果、貪食能を増強する効果、優れた組織移行性なども知られている。
・CLDMはβラクタム系抗菌薬に加えて早期から投与をするべきである。また、CLDMは特に高齢者においては重症のC.difficile感染症の発症と関連すると考えられているが、STSSや壊死性筋膜炎に対して投与するメリットが上回ると考えられている。
<感染組織のデブリドマン>
・重症GAS感染症ではソースコントロールが重要であり、例えば壊死性筋膜炎では外科的デブリドマンが重要である。
・タンポン使用などに関連したTSSは通常、黄色ブドウ球菌が起因菌となりやすい。留置されたタンポンの除去も重要である。
<IVIG>
・IVIGは補助的に使用されることがある。
・しかしIVIGはSTSSおよびGAS性壊死性筋膜炎患者の死亡率を改善させる可能性はあるが、決定的なエビデンスを欠いているとされており、明確に使用は推奨されているわけではない。
<NSAIDsの回避>
・重症GAS感染症ではNSAIDsの使用を回避することを推奨するExpertもいる。
・多くの症例報告や症例対照研究でNSAIDsの使用と、壊死性筋膜炎あるいはSTSSの発症との関連性が指摘されている。これはNSAIDsにより発熱などがマスクされ、発症を認識することが遅れることに起因している可能性はある。しかし、NSAIDsが好中球機能を抑制するというメカニズムなども提唱されている。
・実際、STSSに関わらず、原因不明の発熱を呈しているケースではNSAIDsの使用を回避することを推奨するExpertはいる。
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<参考文献>
・Steer AC, Lamagni T, Curtis N, Carapetis JR. Invasive group a streptococcal disease: epidemiology, pathogenesis and management. Drugs. 2012 Jun 18;72(9):1213-27. doi: 10.2165/11634180-000000000-00000. PMID: 22686614; PMCID: PMC7100837.
・Defining the group A streptococcal toxic shock syndrome. Rationale and consensus definition. The Working Group on Severe Streptococcal Infections. JAMA. 1993 Jan 20;269(3):390-1. PMID: 8418347.