もやもや病 moyamoya disease
もやもや病とその疫学
・もやもや病(moyamoya disease)は内頸動脈終末部(眼動脈分岐部より遠位)の慢性進行性狭窄で、Willis動脈輪の動脈閉塞およぼ側副路として脳底槽に発達、形成される”もやもや新生血管”を特徴とする疾患である。
・一般的に動脈造影での特徴的な”もやもや血管”の所見は両側性にみられるが、症状の程度は左右で異なる。
・もやもや病はアジア系人種に特に多く発症すると考えられていた。しかし、現在では欧米の住む方々にも発症することが確認されている。
・好発年齢は5歳前後の小児と40歳代の成人である。もやもや病は小児の脳血管疾患のなかでは最多頻度を占める疾患で、有病率は小児10万人あたり約3人と推定されている。
・男女比はおおむね1:2である。
臨床所見
・もやもや病の症状/徴候は内頸動脈における狭窄による血流変化で生じる。
・つまり、脳虚血による症状と、虚血自体に対する代償機構の結果として生じる症状(例: 側副血行路からの出血によって生じる頭痛など)とに分けられる。
<年齢/地理的なプレゼンテーションの違い>
・アメリカの疫学では成人および小児例の多くで虚血症状を呈する。しかし、成人例では出血合併例が多く、小児の約7倍に至る(20.0% vs 2.8%)。なお、アジア人を対象にした研究では成人での出血例の割合はアメリカにおけるそれよりもさらに高い(42%)。
・小児では自身の症状を適切に伝えることができないことも少なくなく、診断が遅れてしまう可能性がある。
<虚血症状>
・もやもや病における虚血症状は典型的には内頸動脈(ICA)と中大脳動脈(MCA)とが支配する領域に対応して生じる。つまり、主に前頭葉、頭頂葉、側頭葉が該当し、症状としては片麻痺、構音障害、失語症、記憶障害が一般的である。
・たとえば小児では啼泣により虚血症状が生じることがある。これは過呼吸によるPaCO2低下に影響され、脳血管収縮が生じ、一時的に脳還流が低下することで生じる。また、脱水状態も虚血症状を助長させる。
<出血症状>
・内頚動脈の狭窄が進行することで、脆弱な側副血行路(もやもや血管)から出血しやすくなると考えられている。
・頭蓋内出血は成人例でより生じやすいが、小児でも生じることがある。
・出血箇所としては脳室内、脳実質(特に基底核領域に好発)、くも膜下が多い。
<頭痛とのその他の症状>
・頭痛はもやもや病でよくみられる症状で、側副血行路における血管拡張が侵害受容器を刺激することで生じると考えられている。もやもや病における頭痛は典型的には片頭痛様の頭痛で、内科的治療に抵抗性を示す。また、外科的治療が成功した後でも、患者の最大63%で頭痛はみられる。
・小児では舞踏様運動がみられることがある。これは大脳基底核における側副血行路拡張が関与していると考えられている。
<関連する疾患/状況>
・もやもや病の発症には頭部や頸部に対する放射線療法(特に視神経膠腫、頭蓋咽頭腫、下垂体腺腫に対する治療)と強く関連することが知られている。ただし、放射線療法からもやもや病の発症までにどれほどの期間がかかるかなどは不明確であり、想定する範囲には数ヶ月から数十年という幅がある。
・またDown症候群、神経線維腫症1型、鎌状赤血球症との関連性の報告もある。
Natural historyと予後
・もやもや病のnatural historyは様々である。ただし、どのような臨床経過であっても、もやもや病の進行は回避しがたいと考えられている。
・一般的に治療時の神経学的症状の状態が患者の年齢よりも長期予後に関わると考えられる。もやもや病の早期診断と迅速な治療が重要と考えられている。
診断
・虚血症状などがみられる患者、特に小児では一度はもやもや病の可能性を考慮し、アセスメントを行うべきとされている。
・頭部CT撮像では分水嶺領域、基底核、深部白質、脳室周囲に陳旧性梗塞を示唆する低吸収域がみられることがある。CT血管造影(CTA)ではもやもや病に特徴的な血管所見がみられることがある。
・またMRI/MRA撮像は一般的にもやもや病を疑った際に使用されることが多い。もやもや病による大脳皮質における血流低下はFLAIR像で”ivy sign”という脳溝に沿った高信号域として反映されることがある。
・血管造影検査も確定診断に有用で、一般的に内頸動脈遠位部に狭窄所見を伴う。
・ほかに脳波検査(EEG)などもときに診断の補助となる。脳波所見は通常、小児例でのみ確認されうる。
スクリーニング
・もやもや病のスクリーニングは一般的に推奨されない。
・ただし、神経線維腫症1型、Down症候群、鎌状赤血球症などのハイリスク者で、症状を呈するケースではもやもや病の可能性を想定して検査によるアセスメントを進めることを考慮する。
薬物療法
・薬物療法は特に手術によるリスクが高いと考えられるケースや比較的軽症のケースで選択されていたが、短期的あるいは長期的な有効性を示すデータが豊富とはいえない。日本の研究ではもやもや病患者の転帰に関して、内科的治療と外科的治療との間に有意差はなかった。しかし、最近の報告によると当初は内科的治療を行っていたもやもや病患者651人のうち、38%が症状の進行により最終的に外科的治療を受けていたことが報告された。
・抗血小板薬は動脈狭窄部位に形成される微小血栓の予防を目的に使用されてきた。なお、抗凝固薬が使用されることはほとんどない。
・カルシウム拮抗薬はもやもや病でみられる頭痛を改善させるのに有用であり、また虚血症状を減少させることに有効である。ただし、低血圧に注意して使用する必要がある。
外科的治療
・外科的な血行再建術がもやもや病の初期治療として選択される。
・典型的にはもやもや病では外頸動脈はスペアされる一方で、内頸動脈が侵される。
・もやもや病に対する外科的治療としては虚血が生じる領域に血流を供給させるために外頸動脈を利用した血行再建を行うことが一般的である。
・脳卒中発症リスクは術後30日以内で最も高く、30日を過ぎるとリスクはかなり減少する。
・メタアナリシスでは1156例中1003例(87%)で外科的血行再建術により症状の改善が得られたことが示されている。
急性症状に対する治療
・虚血症状を呈している際には酸素投与と脳血流の維持(補液など)とを行うことで脳卒中への進行を減らせる可能性がある。
・過呼吸は回避し、血中の電解質異常および血糖値を補正する。Sizureが生じた場合には適切に薬物治療を行う。
――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Scott RM, Smith ER. Moyamoya disease and moyamoya syndrome. N Engl J Med. 2009 Mar 19;360(12):1226-37. doi: 10.1056/NEJMra0804622. PMID: 19297575.