膵嚢胞 pancreatic cysts

膵嚢胞とその疫学

・膵嚢胞の一部が前癌病変として注意を要するものと認識されつつある。

・膵嚢胞の有病率は2~15%と報告されている。

・年齢とともに有病率は増加する。

・膵嚢胞全体での悪性腫瘍発症リスクは0.5~1.5%と低く、年間進行リスクは0.5%とされている。なお、膵癌の15%は粘液性嚢胞から発生すると推定されている。したがって、進行リスクのある膵嚢胞を同定することは重要であり、唯一の根治療法は外科的切除である。

診断

・膵嚢胞は細かく分けると20種類以上のタイプに分けられるが、一般的なものでは6種類の組織学的分類に大別できる。

・最も一般的な2つの良性病型仮性嚢胞(pseudocysts)漿液性嚢胞腺腫(serous cystadenomas)とであり、全膵嚢胞の15~25%に相当する。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)粘液性嚢胞性腫瘍(MCN)との2病型のときに前癌病変とされる。

仮性嚢胞は膵炎発症後に出現し、単胞性あるいは多胞性の嚢胞として出現する。仮性嚢胞は膵管と交通していることが多いが、その確認は容易でない。先行する膵炎の発症がないケースでは解釈に注意が必要で、その仮性嚢胞は膵炎の結果として生じたものとは限らず、仮性嚢胞の結果として膵炎が発症した可能性も考えなければならない。多くの仮性嚢胞は良性であり、あくまで有症候性のもののみに介入が検討される。

漿液性嚢胞腺腫は良性病変で、緩徐に進行し、主に50~70歳代女性に好発する。これらの嚢胞は通常、微小嚢胞(honeycomb様)の外観を呈する。多くは無症状であるが、ときに大きな漿液性嚢胞腺腫は膵炎、胆道閉塞などを来す場合がある。

粘液性嚢胞性腫瘍(MCN)40~60歳代女性に好発し、一般的に膵尾部に生じやすい。単発性で、厚い壁を有する嚢胞が特徴的であり、膵管と交通していない。稀な所見ではあるが、卵殻状石灰化(eggshell calcifications)は有力な所見である。悪性リスクは比較的高く、10~34%とされている。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は粘液性嚢疱性病変の最も一般的な病型であり、発症率において性差はほとんどなく、50~70歳代の方に好発する。しばしば多胞性で、膵臓全体で生じ得る。膵管への浸潤の有無により、主膵管型、分枝型、混合型に分類される。主膵管型IPMNはそのほかのタイプよりも頻度は低く、主膵管のびまん性あるいは分節性の拡張所見(ムチン産生を反映)を特徴とする。内視鏡検査ではムチンが排出される所見(fish-mouth papilla)が主膵管型IPMNの特徴的所見である。分枝型IPMNではしばしばブドウの房状の外観を呈する。分枝型IPMNの21~40%は多房性で、膵臓全体で生じ得る。混合型IPMNでは主膵管と分枝との両者が侵され、通常は無症状であるが、稀に粘液性閉塞により膵炎などを合併することがある。

・あまり一般的でない病型としてsolid pseudopapillary neoplasmscystic pancreatic endocrine neoplasmsとが存在し、10~20歳代の女性に好発する。病変は膵全体に生じ得て、固形あるいは嚢胞成分を含み、ときに石灰化を伴う。cystic pancreatic endocrine neoplasmsは膵内分泌細胞から発生し、しばしば厚い嚢胞壁を有する。これらの腫瘍の殆どは非機能性であるが、最大10%は多発神経内分泌腫瘍(MEN)1型に発生する。予後不良因子としては組織学的悪性所見がみられること、直径>2cm、有症候性、Ki-67 proliferation index≧3%、リンパ管浸潤があることなどが挙げられる。

・診断が不明確な場合、超音波内視鏡検査が有用である。

悪性リスクの見積もり

・漿液性嚢胞腺腫や仮性嚢胞など、画像診断で明らかに良性と思われる場合はその後の悪性転化リスクをさらに評価する必要性は乏しい。

・将来的な悪性転化リスクが比較的低いものには分枝型IPMNが挙げられる。またリスクが高いもののほとんどは粘液性嚢胞に相当する病変、つまり主膵管型IMPNMCNに相当する。

・悪性転化リスクの評価の一環として、まずは画像所見の評価を行い、その次に関連する臨床症状、臨床検査所見の評価を行うこととなる。

・画像所見では高リスク所見として、胆道閉塞、10mmを超える主膵管拡張、5mmを超える壁在結節を伴う充実性腫瘤の存在が挙げられる。これらの画像所見がみられない場合は悪性転化リスクが低いといえるかもしれない。

・臨床症状としては胆道閉塞に起因する黄疸所見は高リスク所見といえる。また、ムチンによる膵管閉塞を原因とした膵炎、腹痛の出現は中リスク所見とされる。

・臨床検査では血清CA19-9の上昇は悪性転化リスク上昇と関連している。また、糖尿病の新規発症は悪性転化リスク増加と関連している。

内視鏡的評価

CT撮像、MRI撮像を行ったうえで、必要に応じて超音波内視鏡検査が検討される。

・超音波内視鏡の主な目的は中リスク患者のリスク層別化を行うことにある。また、良性嚢胞、あるいは低リスクの嚢胞性病変であることを確認することにも有用である。また、高リスクの嚢胞性病変が疑われるケースで、癌の存在が疑われる場合においても実施が検討される。

・MRI撮像と比較すると、超音波内視鏡検査は病変の主膵管との交通の有無を同定する精度がより高く、また小さな壁在結節の検出感度が高い

・ときに穿刺して得られる嚢胞液の分析なども利用されるが、詳細の記載は割愛する。

粘液性嚢胞のマネジメント

・粘液性嚢胞の確定診断あるいは推定診断がなされた場合、外科的治療、経過観察、それ以上の介入を控えるという選択肢がある。ここの方針決定においては悪性転化リスクの見積もり、患者の全身状態、膵癌の他のリスク因子(家族歴など)など、様々な要素を考慮して決定することとなる。

・多くのガイドラインでは高リスクの嚢胞性病変を有し、手術に忍容性がある場合にはそれ以上の評価を行わずに外科的切除を行うことを推奨されている。

・IPMNについて外科的切除を行ったあとには癌の存在が明らかでない場合でも、継続的なモニタリングの必要性が高い。

・多くの低リスクの嚢胞性病変ではベースラインのリスクに応じてサーベイランスを行うこととなる。最初の1年間は約6ヶ月ごと、その後は約1年ごとの経過観察が推奨され、経過次第ではさらにサーベイランス間隔を長くすることも検討される。サーベイランスでは可能であればMRI撮像、それが困難であれば造影CT撮像で行う。また、より大きな嚢胞性病変や注意を要すると思われる嚢胞性病変の場合ではときにMRI撮像と超音波内視鏡検査とを交互に行うこともある。また、血清CA19-9値、糖尿病の発症などに関するサーベイランスも補助的に行われる。

・現時点でのエビデンスではサーベイランスの中止の指標は明確に挙げられない。ただし、何年もサーベイランスをしたうえで安定した病変で、かつ低リスクな病変であれば、サーベイランスの中止は検討される。

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<参考文献>

N Engl J Med 2024;391:832-843.

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