血栓性微小血管症 thrombotic microangiography

血栓性微小血管症(TMA)とその疫学

・血栓性微小血管症(TMA: thrombotic microangiography)は①微小血栓性溶血性貧血(MAHA: macroangiopathic hemolytic anemia) ②血小板減少 ③血栓性の臓器障害を3徴とする疾患である。

・先天性の病型のほか、後天性の病型もある。

一次性TMAとしては血小板減少性紫斑病(TTP)、感染症に合併するTMA(志賀毒素由来など)、補体関連TMA(aHUS: atypical HUS)、凝固関連TMA(主に遺伝子異常による)、代謝関連TMA(Vit.B12代謝異常による)が挙げられる。

二次性TMAとしては自己免疫性、悪性腫瘍、全身性感染症、妊娠、移植関連、薬剤性などが挙げられる。

臨床検査的な特徴

・血液検査では微小血栓性溶血性貧血(MAHA)を示唆する所見として、間接ビリルビン高値、LDH高値、Hb低値、ハプトグロビン低値、網状赤血球高値(例: >2.5%)などがみられ、末梢血スメアでは破砕赤血球がみられることがある。

・また血栓形成を反映して、血小板低値などがみられることがある。

・TTPを鑑別に挙げる場合にはADAMTS13活性の測定を行う。

・STEC-HUSを想定する場合には便培養、ベロ毒素の提出を行う。

・ときにTMAは播種性血管内凝固(DIC)との鑑別が困難であるが、凝固障害(Dダイマー高値、FDP高値、PT-INR高値、APTT延長)が目立つ場合にはTMAよりはDICの方がより考えやすい。TMAではPT-INRは基準値内で、FDPやDダイマーは軽度高値に留まることが比較的多い。

・また特にSLEや強皮症などの自己免疫疾患の関与については病歴や身体所見での見積もりも重要であるが、血清学的な評価として抗核抗体、抗リン脂質抗体、特異的抗体(強皮症やSLEなど)、ANCAなども提出する場合がある。

・代謝関連TMAの評価に関連してビタミンB12、葉酸、ホモシスチンなどの提出を検討する。

TTP(血小板減少性紫斑病)

 <バックグラウンド>

・1924年にMoschcowitzにより16歳女性に関する症例が報告され、解剖の結果、腎臓を含む様々な臓器の細動脈および毛細血管に血栓が確認された。この症例報告がADAMTS13欠損を背景にしたTMA、つまりTTP(血小板減少性紫斑病)の1例目の報告であったと考えられている。

 <原因>

・1982年に再発性の経過を辿るTTPの患者において、von Willebrand因子の異常に大きい多量体(mulitimer)が確認され、この発見を契機にvon willebrand因子切断酵素とされるプロテアーゼの解明に至り、後にADAMTS13と呼ばれるようになった。

・ADAMTS13欠損症ではvon Willebrand因子多量体が異常に大きくなり、細動脈、毛細血管において血小板血栓が形成されるリスクが高まる。

・遺伝性TTP(別名: Upshaw-Schulman症候群)はホモ接合体などにおけるADAMTS13変異により生じる。

・後天性TTPはADAMTS13に対する自己抗体の存在により発症し、遺伝性TTPとは厳密には異なる。後天性TTPの発症率は小児(年間100万人あたり0.1例)よりも成人(年間100万人あたり2.9例)の方が多い。

 <臨床経過と診断>

・一次性TMAに相当する疾患群のなかでもTTPはときに重篤な急性腎障害を合併しやすいことが特徴的。そのほかTTPでは意識障害、発熱がみられやすいことも特徴である。

・遺伝性TTPの臨床的特徴としては再発性の微小血栓性溶血性貧血(MAHA: macroangiopathic hemolytic anemia)、血小板減少を伴いやすい点で、神経学的症状、臓器障害に至りやすい。遺伝性TTPの診断にはADAMTS13欠損の証明と、ADAMTS13に対する自己抗体が存在しないことの確認が重要で、確定診断はADAMTS13遺伝子変異の確認によりなされる。

・後天性TTPの病像、重症度はより幅広い。脱力感、消化器症状、紫斑、一過性の局所神経学的脱落所見はしばしばみられる。しかし、全体の1/3では神経学的脱落所見は認められない。多くのケースでは血清Cre値は基準値内か、一過性の軽度上昇に留まる。診断はMAHA、血小板減少の確認がなされ、かつ他に明らかな原因がないことによる。ADAMTS13活性が正常の10%未満であれば、後天性TTPの臨床診断は可能である。ただし、この基準は全てのTTP患者を同定するのに十分な感度を有さないことが指摘されている。

 <治療>

・遺伝性TTPの治療はADAMTS13血漿製剤の投与である。重篤な血清反応を示す患者ではADAMTS13を含む第Ⅷ因子濃縮製剤の投与で対処する場合もある。

・後天性TTPの生存率は血漿交換療法が可能になったことで明らかな改善を遂げた。

・グルココルチコイド投与は標準治療の範疇である。ときにリツキシマブやその他の免疫抑制薬が使用されることもある。

補体介在性TMA(aHUS)

 <バックグラウンド>

・1981年にTMAを発症した2人の兄弟において補体制御因子であるH因子を欠損していることが判明した。その後、1998年にTMAとH因子をコードする遺伝子の突然変異との間の関連性が確認された。

 <原因>

・補体介在性TMAは補体経路の異常な活性化により生じる。

・また特定の遺伝子異常に加えて、H因子に対する抗体により発症することがある。

・抗H因子抗体は補体介在性TMAの約10%を占める。

 <臨床経過と診断>

・補体介在性TMAでは急性腎障害と異常な高血圧とが特に目立つ。補体介在性TMAはaHUS(atypical HUS)とも称され、治療薬としてエクリズマブ(C5aおよびC5bに対するヒトモノクローナル抗体製剤)が承認された。

・なお、C3、C4、H因子、B因子、I因子の血中濃度が基準値内であっても、補体介在性TMAの除外はできない。

 <治療>

・エクリズマブが現在使用可能な治療薬である。ただし、C5遺伝子変異を有する患者ではその臨床的効果は限定的かもしれない。

・抗H因子抗体を有する患者において、免疫抑制薬を併用する場合もある。

・エクリズマブ治療の副作用として髄膜炎菌感染リスクに留意する必要がある。

志賀毒素産生病原性大腸菌によるHUS(STEC-HUS)

 <バックグラウンド>

・1955年に溶血性尿毒症症候群(HUS)という病名が初めて提唱された。

・小児でのSTEC-HUSはよく知られるが、成人発症例も存在する。なお、成人発症例はより重篤で、死亡率が高い傾向にある。

 <原因>

・志賀毒素産生大腸菌は牛の一般的な腸内細菌で、ときに汚染された水、牛肉、野菜などから伝播される。

・志賀毒素は炎症促進作用があり、von Willebrand因子への作用により血栓形成を促進する。

 <臨床経過と診断>

・感染曝露が生じて数日後に腹痛や下痢(ときに血便)がみられる。その後、消化器症状が寛解する頃に血小板減少や腎機能障害が生じることが典型的な経過である。

・臨床検査ではベロ毒素、便培養の提出が参考になり、腸炎を発症している段階では検出しやすいが、STEC-HUSの発症に至った段階では検出されない場合もある。

 <治療>

・原則として支持療法が主となる。積極的な水分補給が腎保護において重要である。

・血漿交換療法や抗補体治療の有益性は不明。

薬剤介在性TMA(immune reaction)

 <バックグラウンド>

・薬剤による有害事象は①用量に関連しない免疫学的反応(immunologic reactions)によるもの ②用量や用法に依存する毒性作用(toxic effect)によるもの によって生じ得る。またいずれのタイプもTMA発症に関与し得る。

 <臨床経過と診断>

・薬剤性TMAでは薬剤曝露後数時間以内に、無尿を伴う急性腎障害、全身症状が発現する場合がある。

・なお、過去に曝露歴のある薬剤でも生じることがある。

 <治療>

・原則として支持療法と被疑薬の回避とが主になる。

薬剤介在性TMA(toxic dose-related reaction)

 <バックグラウンド>

・免疫抑制薬、化学療法薬、VEGF阻害薬などの多くの薬剤により用量依存性、時間依存性に毒性を発揮してTMAを発症するに至ることが報告されている。ただし、因果関係を裏付けるエビデンスは十分ではない。

 <臨床経過と診断>

・典型的には高血圧症を伴い、腎機能障害が進行する。

 <治療>

・原則として支持療法と被疑薬の回避とが主になる。なお、カルシニューリン阻害薬など一部の薬剤では減量のみで対処できる場合もあるとされている。

代謝関連TMA

 <バックグラウンド>

・主にビタミンB12代謝に関わる遺伝性疾患で、乳児においてTMAや多臓器不全を起こす場合がある。なお、成人発症例が1例存在する。

 <原因>

・ビタミンB12代謝異常はメチルマロン酸尿症およびホモシスチン尿症タイプC蛋白(MMACHC)をコードする遺伝子の変異により生じる。

・結果としてメチルコバラミンが欠乏し、高ホモシスチン血症、低メチオニン血症、メチルマロン酸尿症に至る。

・検査としてはビタミンB12、葉酸、ホモシスチンなどの提出を検討する。

 <臨床経過と診断>

・乳児において多様な発育異常を伴うことがある。

 <治療>

・乳児においてはビタミンB12の非経口投与が主な治療法である。

凝固関連TMA

 <原因>

・凝固関連TMAではDGKE、THBD遺伝子異常が関連していることが判明している。

 <臨床経過と診断>

・DGKE遺伝子変異を有する患者は急性腎障害を呈する。これまでの研究では患者の多くは1歳未満であった。

 <治療>

・血漿交換療法、免疫抑制薬の効果が明確に示されているわけではない。

――――――――――――――――――――――――――――

<参考文献>

・George JN, Nester CM. Syndromes of thrombotic microangiopathy. N Engl J Med. 2014 Aug 14;371(7):654-66. doi: 10.1056/NEJMra1312353. PMID: 25119611.

・Scully M, Hunt BJ, Benjamin S, Liesner R, Rose P, Peyvandi F, Cheung B, Machin SJ; British Committee for Standards in Haematology. Guidelines on the diagnosis and management of thrombotic thrombocytopenic purpura and other thrombotic microangiopathies. Br J Haematol. 2012 Aug;158(3):323-35. doi: 10.1111/j.1365-2141.2012.09167.x. Epub 2012 May 25. PMID: 22624596.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です