降下性壊死性縦隔炎 descending necrotizing mediastinitis

降下性壊死性縦隔炎とその疫学

・降下性壊死性縦隔炎(descending necrotizing mediastinitis)は歯性膿瘍、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍など、口腔内あるいは深頸部感染症に併発し、膿瘍が筋膜間隙に沿って縦隔へ下降する病態である。

・平均発症年齢は46歳という報告もあるが、特定の年齢に限らず発症し得る

・男女比はおおむね3:1とされている。

・報告により異なるが、死亡率は約12%と報告される。

解剖/病態生理

・特に下顎第2臼歯、第3臼歯における歯性感染症は舌下および顎下腔に広がることがある。これらの部位からの感染は傍咽頭間隙(parapharyngeal space)に広がり、その後に咽頭後間隙(retropharyngeal space)を侵すことがある。咽頭後間隙に達した炎症は翼状筋膜と椎前筋膜との間の疎な結合組織で構築される危険間隙(danger space)を介して、容易に縦隔に炎症が到達し、降下性壊死性縦隔炎の発症に至る。危険間隙は脊椎のC6高位から始まり、Th1高位まで続く

・なお、傍咽頭間隙(parapharyngeal space)の外側には内側翼突筋が存在するが、ここに炎症が波及すると開口障害をきたしやすくなる。

・前述のように歯性感染症は降下性壊死性縦隔炎の発症の原因としてよく知られていて、原因別では65%程度を占めるという報告もある。それ以外にも扁桃、耳下腺における炎症、乳様突起炎、喉頭蓋炎などの他の感染源から生じることもある。

起因菌

血液培養の提出が重要である。

複数菌による感染(polymicrobial)が生じることが多い。

・主な起因菌としてはStreptococcus属(特にS.viridansが多い)、嫌気性菌(Peptostreptococcus属、Fusobacterium属、Prevotella族、Actinomyces属)が挙げられる。

小児例ではS.aureusが関与しやすい。

・また、頻度は低いが、MRSA、P.aeruginosaを含むGNRが関与することもある。特に後者は違法薬物使用者、糖尿病、好中球減少などでリスクが高い。

診断/治療

造影CT撮像などによる原疾患の同定と感染波及の範囲の確認は有用である。

・また画像検査では軟部組織肥厚やガス像がみられることもある。

・早期の外科的ドレナージ抗菌薬治療との併用が原則である。

・降下性壊死性縦隔炎は敗血症性ショックに早期に移行することも多い。

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<参考文献>

・Palma DM, Giuliano S, Cracchiolo AN, Falcone M, Ceccarelli G, Tetamo R, Venditti M. Clinical features and outcome of patients with descending necrotizing mediastinitis: prospective analysis of 34 cases. Infection. 2016 Feb;44(1):77-84. doi: 10.1007/s15010-015-0838-y. Epub 2015 Sep 3. PMID: 26335892.

・Suehara AB, Gonçalves AJ, Alcadipani FA, Kavabata NK, Menezes MB. Deep neck infection: analysis of 80 cases. Braz J Otorhinolaryngol. 2008 Mar-Apr;74(2):253-9. doi: 10.1016/s1808-8694(15)31097-1. PMID: 18568205; PMCID: PMC9442126.

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