レミエール症候群 Lemierre's syndrome

レミエール症候群とその疫学

・レミエール症候群(Lemierre’s syndrome)は内頸静脈の感染性血栓性静脈炎を指す。

・1936年にAndre’ LemierreはFusobacterium necrophorumを起因菌とする本症候群を初めて報告した。

・レミエール症候群は若年成人に好発する。デンマークで行われた前向きコホート研究では1998年から2001年までにおける100万人あたりの年間発症率3~6例で、14~24歳における100万人あたりの年間発症率は約14例と比較的高いと報告された。

・男女比は2:1とする報告もある。

病態生理/合併症

咽頭炎が先行し、その後にレミエール症候群を発症するケースが典型的で、約90%弱を占める。そのほか歯性感染症(1.8%)乳様突起炎(2.7%)、耳下腺炎、副鼻腔炎などから波及して発症することもある。なお、乳様突起炎からレミエール症候群を発症しているケースの多くでは脳静脈洞血栓症を合併していたという報告もあり、疑われれば頭部MRI撮像なども検討する。

・感染が内頚静脈に達すると、他の部位への血行性伝播が生じ、治療が遅れると敗血症性ショックに至ることもある。

肺病変(胸水貯留など)、骨髄炎、脳膿瘍、硬膜外膿瘍などを合併することもある。

・遠隔病変の頻度としては肺、大関節の順に多く、全ての遠隔病変のうち肺病変が約80%を占めるという報告もある。肺の画像所見としては胸水貯留、浸潤影、空洞性病変、結節性病変など多岐にわたる。

・遠隔病変として大関節が侵されるケースでは、特に股関節、肩関節、膝関節において頻度が高い。そのほか、肝膿瘍脾膿瘍の合併例の報告もあるが、全ての遠隔病変のうちの約3%と頻度は比較的少ない。

・39例を対象としたReviewでは51%に無菌性胸水が存在し、41%で肺化膿症がみられたと報告されている。また、ARDSを合併し、人工呼吸を要するケースもある。

臨床症状

・レミエール症候群の初期には持続的な高熱、内頚静脈に沿った頸部の圧痛、前頸部の腫脹が臨床的に疑う手がかりとなる。ただし、こういった症状が揃わないこともある。

・若年者のケースでは通常、先行する咽頭炎のエピソードが聴取されやすい。

・高齢者のケースでは膿瘍形成などの遠隔病変を伴うこともある。

起因菌

・起因菌としてはFusobacterium necrophorumが最多頻度を占める。そのほか、腸内細菌、その他の嫌気性菌(Eikenella corrodens、Bacteroides属など)、溶連菌(S.pyogenesなど)などが起因菌となる。

・稀にMRSAを含むS.aureusも起因菌となる。

・Fusobacteriumは嫌気性グラム陰性菌であり、培養に6~8日間程度を要することもあることに留意する。

臨床検査

・レミエール症候群を疑った場合には抗菌薬投与前に血液培養の提出を行うことが重要である。

・診断には造影CT撮像、MRI撮像、超音波検査などが利用され得る。

・最も安価な超音波検査では拡張した内頚静脈内に低エコー域が確認されることがあるが、検者の技術にも影響される場合がある。

造影CT撮像ではドレナージが必要な膿瘍の存在などを確認するのに適している。また、周囲の軟部組織の腫脹などもわかり、感染や炎症の波及の程度が推察できる場合がある。

治療

・治療は外科的ドレナージ抗菌薬治療との併用が原則となる。

・ケースにもよるが、多くの場合は3~6週間の治療期間を要することが多い。

・Fusobacteriumのβラクタマーゼ産生株が報告されているため、原則としてβラクタマーゼ阻害薬を必要とする

・またFusobacteriumはマクロライド系、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系抗菌薬にそれぞれ耐性を有する点にも留意する。またペニシリナーゼを賛成するため、PCGにも耐性を示す。

・推奨される経験的治療(empiric therapy)としてはMNZ+CTRX、PIPC/TAZ、ABPC/SBTなどが挙げられる。

・脳膿瘍などの遠隔病変がみられるケースでは組織移行性も考慮した抗菌薬選択が重要となる。たとえば、MNZは殺菌性の抗菌薬で、脳脊髄液を含めた各組織への良好な移行性を有する。

・レミエール症候群における抗凝固療法の有用性については議論の余地がある。レミエール症候群において抗凝固療法の有用性を評価した症例対照研究はない。

・前述の治療で管理ができないケースでは外科的手術(内頚静脈結紮など)が検討されるが、そこまで至るケースは少ないとされている。

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<参考文献>

・Lee WS, Jean SS, Chen FL, Hsieh SM, Hsueh PR. Lemierre's syndrome: A forgotten and re-emerging infection. J Microbiol Immunol Infect. 2020 Aug;53(4):513-517. doi: 10.1016/j.jmii.2020.03.027. Epub 2020 Apr 4. PMID: 32303484.

・Chirinos JA, Lichtstein DM, Garcia J, Tamariz LJ. The evolution of Lemierre syndrome: report of 2 cases and review of the literature. Medicine (Baltimore). 2002 Nov;81(6):458-65. doi: 10.1097/00005792-200211000-00006. PMID: 12441902.

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