女性の下腹部痛/骨盤痛 acute pelvic pain

女性の急性下腹部痛とその疫学

・女性の急性下腹部痛(acute pelvic pain)の有病率に関する研究は十分でないが、約7人に1人が経験すると推定されている。

・鑑別疾患の中には異所性妊娠破裂など、診断が遅れた場合に致命的な経過を辿るものもある。また、未治療の性行為感染症や骨盤内炎症性疾患(PID)はときに不妊症や慢性疼痛につながってしまうこともある。

・女性の下腹部痛では特に除外の必要性が高い疾患として卵巣嚢腫茎捻転、異所性妊娠、卵巣出血が挙げられる。比較的頻度の高い疾患として骨盤内炎症性疾患(PID)、性行為感染症(STD)が挙げられ、比較的稀ながら治療を要する疾患として子宮筋腫変性(筋腫の一部が出血や壊死を伴う状況)、子宮筋腫捻転、卵管卵巣膿瘍、子宮内膜症、子宮留膿症が挙げられる。

女性の下腹部痛診療に関するKey recommendations

  1. 子宮頸部の圧痛がみられる場合には骨盤内炎症性疾患(PID)の可能性が高いと考えられる(Evidence rating: C)。
  2. 経膣超音波検査でドプラ血流に異常所見がなかったとしても、必ずしも卵巣嚢腫茎捻転が否定されない。つまり、卵巣嚢腫茎捻転に関して陽性的中率が高いものの、偽陽性率も高い傾向にある検査であることに留意する必要がある(Evidence rating: C)。
  3. 経膣超音波検査は急性下腹部痛を呈する妊婦でまず行うべき検査である(Evidence rating: C)。
  4. 妊婦の急性下腹部痛の評価の一環として経膣超音波検査が実施できないものの、追加の画像検査が必要なケースではCT撮像でなく、MRI撮像をより優先して使用するべきである(Evidence rating: C)。

非妊婦で、かつ妊娠可能年齢の女性のケース

・急性下腹部痛を自覚する、非妊婦で、かつ妊娠可能年齢の女性での典型的な鑑別診断としては特発性骨盤痛(idiopathic pelvic pain)、骨盤内炎症性疾患(PID)、急性虫垂炎、卵巣嚢腫破裂、子宮内膜症などが挙げられる。

妊婦あるいは妊娠を希望している女性のケース

・妊婦、あるいは不妊治療中で妊娠を希望している女性でにおいてはまた鑑別疾患が異なる。

・妊婦の場合は病歴から可能性のある疾患を想起することが重要であるが、異所性妊娠妊娠後期の胎盤剥離などの重篤な疾患を見逃さないことが重要である。ほか、妊婦であっても虫垂炎などの婦人科以外の疾患も鑑別に挙げられる。

不妊治療の内容によっては卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、卵巣嚢腫茎捻転、異所性妊娠といったリスクを伴う。

閉経後女性のケース

・閉経後女性において急性下腹部痛を呈するケースでは悪性腫瘍の可能性を第一に考える必要がある。

・そのほかの可能性としては閉経後の子宮内膜症、摘除しそびれた子宮内避妊具の影響などが挙げられる。

病歴

病歴は鑑別疾患を想起するうえで重要。

・患者がSexually activeな状態か、具体的な症状(疼痛、帯下、血尿、悪心など)、子宮内避妊具挿入歴や骨盤内手術/放射線照射歴などを必要に応じて確認する。

・なお、稀ながら性交渉の経験がない女性で骨盤内炎症性疾患(PID)を発症した報告もなされている。

最終月経開始日からの日数も鑑別疾患の想起に有用な場合がある。月経最終開始日から2~3日目の腹痛では月経困難症が、月経中から終了直後における腹痛/発熱では骨盤内炎症性疾患(PID)が、最終月経開始日から2週間前後での腹痛では排卵時痛が、最終月経開始日から3~4週間の時期(黄体期)での腹痛では卵巣出血が、それぞれ想起しやすい。

身体所見

バイタルサイン、腹部診察、内診、腟鏡などが検討される。

血圧低下、頻脈、腹膜刺激徴候所見がみられる場合には異所性妊娠破裂、卵巣嚢腫茎捻転、虫垂破裂などの緊急性の高い疾患の可能性が想定され、精査、治療を急ぐこととなる。

・バイタルサインに異常がなく、急性腹症らしい所見に乏しい場合には次に帯下の性状などが重要。帯下の性状変化がみられたり、発熱やWBC増多がみられたりする場合には骨盤内炎症性疾患(PID)が示唆される。また子宮頸部移動時痛も伴う場合にはさらにPIDの可能性が高まる。しかし、子宮頸部の圧痛のみではPIDに特異的な所見とはいえず、虫垂炎の25%、異所性妊娠の50%でもみられることに留意が必要。

・圧痛が片側性であったり、付属器の腫瘤が触知したりする場合には疼痛の原因は卵巣嚢腫やその捻転、異所性妊娠などが想定される。しかし、付属器腫瘤の触知は感度15~36%に過ぎず、触知しないからといって、これらの疾患の否定には至らない。

・なお、前述のとおり、たとえ妊婦であっても虫垂炎を発症する場合はあり、適切に鑑別疾患に挙げられることが重要。直腸診右側に限局する圧痛がみられるケースがあるが、虫垂炎に対する感度は49%、特異度は61%と有用性に乏しく、患者の羞恥心や不快感などを鑑みれば実施は控えるべきかもしれない。

・筋骨格系疾患による骨盤痛/下腹部痛を伴うこともあるが、通常は他の疾患を除外したうえで判断することが望ましい。腹腔外に疼痛の原因があることを確かめる一つの指標としてCarnett徴候はときに有用で、感度は78%、特異度は88%とされている。

妊娠が除外されたケースでの診療フロー

・前述の病歴および身体所見は重要で、そのうえで臨床検査も補助的に使用することとなる。

・通常は尿妊娠反応検査を行い、陽性ならば異所性妊娠切迫流産の可能性が高まる。

・妊娠反応検査が陰性ならば、経腹超音波検査およびFASTを行う。FAST陽性であれば、卵巣出血や異所性妊娠破裂などが特に疑われる。FAST陰性で腫瘤が触れるならば卵巣嚢腫茎捻転、子宮筋腫変性、子宮筋腫捻転などが疑われる。

・妊娠反応検査が陰性で、発熱やCRP上昇などを伴うならば、骨盤内炎症性疾患(PID)性感染症(STD)、子宮筋腫変性、卵巣卵管膿瘍などが疑われる。

・なお、American family physicianからは以下のような診療フローも提案されている。

臨床検査

・妊娠に関連する疾患が下腹部痛の原因かどうかを判断するためには、妊娠可能年齢の女性では尿妊娠反応検査を実施するべきである。

・その他の一般的な検査項目として血液検査、尿検査、子宮頸管粘液を利用した淋菌およびクラミジア菌のPCR検査が挙げられる。

・なお、CRPも骨盤内炎症性疾患(PID)をはじめとする疾患を想起するうえで一つの指標となる。しかし、発症初期には偽陰性となる恐れもあるため、慎重に解釈する。

・なお妊娠の除外目的に尿妊娠反応検査を行うが、陽性の場合は子宮内妊娠異所性妊娠との区別を行うことが重要で、内診経膣超音波検査とを検討するため、産婦人科コンサルトを行うこととなる。一般的には血中hCG 1,000~2,000IU/Lで経膣超音波検査で胎嚢が確認できるようになり、妊娠6週になっても胎嚢が確認できない場合には異所性妊娠の疑いが強まる。

画像検査

・超音波検査あるいはCT撮像が診断に有用な場合がある。

・特に経腹超音波検査と経膣超音波検査とを併用することは放射線被曝が回避でき、感度も比較的高いため、有用である。まず実施されるべき検査といえる。

卵巣嚢腫茎捻転が疑われるケースでは超音波検査でドプラ血流を確認するべきである。卵巣における静脈血流が確認できないことは卵巣嚢腫茎捻転に関して陽性的中率 94%とされる。しかし、この検査は偽陰性率、つまり実際は捻転が生じているにも関わらず血流が保たれていると判定される率が比較的高いことには注意が必要である。これは卵巣動脈と子宮-卵巣静脈との二重の血流が存在するため、誤って血流があると判断されやすいことに起因すると考えられている。したがって、仮にドプラ血流が保たれているように評価されたとしても、腹膜刺激徴候を伴ったり、悪心/嘔吐、付属器腫瘤の触知、5cm以上の卵巣嚢腫が確認されたりする場合などでは卵巣嚢腫茎捻転の可能性を残しておくべきである。

・また超音波検査は婦人科疾患以外の疾患の評価においても有用で、例えば虫垂炎の評価にも有用である。ある研究では虫垂炎の診断に関して腹部超音波検査は感度94%、特異度84%と報告されている。ただし、虫垂の位置に関しては個人差があり、ときに描出が困難であり、必要に応じてCT撮像を検討する。

・異所性妊娠などが否定され、診断が不確実な場合にはMRI撮像で、骨盤内臓器をさらに詳細に評価できる場合がある。ときに付属器腫瘤、出血性卵胞嚢胞、子宮筋腫などの評価に有用である。

・何らかの理由で超音波検査やMRI撮像が選択できず、CT撮像を検討する場合もある。1度の骨盤内CT撮像により被爆した胎児の生涯の白血病発症リスク1.5~2倍に上昇すると考えられている。しかし、そもそも小児白血病の発症率が低く3,000人に1人とされているため、1回のCT撮像で実際的にリスクが増加するのは3,000人に1.5~2人とも考えられている。したがって、状況によっては被曝リスクよりも撮像による有益性が上回ると考えられるケースもある。

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<参考文献>

・Bhavsar AK, Gelner EJ, Shorma T. Common Questions About the Evaluation of Acute Pelvic Pain. Am Fam Physician. 2016 Jan 1;93(1):41-8. PMID: 26760839.

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