腹部結核 abdominal tuberclosis
腹部結核とその疫学
・結核は腹膜、消化管、肝胆道系など様々な消化器系臓器を侵し得る。
・25~45歳で好発する。
・肺外結核における約5%を腹部結核が占める。また、腹部結核患者の15~25%で肺結核を合併していると報告されている。
・消化器系への感染様式には肺結核からの血行性播種、粟粒結核、結核性リンパ節炎からのリンパ管を介した伝播、隣接臓器からの直接波及など様々である。
・腹部結核で最も侵される頻度が高い部位は回盲部であり、しばしば肉芽腫形成、潰瘍形成などが生じる。
・AIDS患者において発症した場合は重症化しやすい。
臨床症状
・腹部結核の臨床経過は急性経過であることもあれば、慢性経過であることもあり、様々である。
・主な症状としては発熱(40~70%)、体重減少(70~90%)、腹痛(80~95%)、腹部膨満感、下痢(11~20%)、便秘、疲労感、倦怠感、食欲不振などがみられる。
・食道結核の場合は嚥下障害や嚥下時痛がみられる。
・胃結核は消化性潰瘍や胃癌と誤認されるケースがある。
・回盲部結核では腹痛、悪心/嘔吐、吸収不良の症状がみられる。通常、腸結核の病変部位は限局的で、腹痛が主症状となる。また、発熱、食欲不振、体重減少などもしばしばみられる。
・肛門結核や直腸結核の約1/3で血便がみられ、特に肛門結核では瘻孔を形成する場合がある。
・肝結核は粟粒結核でしばしば合併し、肝腫大と肝不全を呈する。なお、稀ながら肝結核では結核性肝膿瘍を伴うことがある。一般的な症状としては右上腹部痛、発熱、食欲不振、体重減少が挙げられる。また、トランスアミナーゼの上昇は約2/3の症例でみられ、貧血、赤沈亢進がしばしばみられる。CT所見としては肝臓に単発あるいは複数の結節を示す低吸収域がみられたり、石灰化がみられたりすることがある。生検では肉芽腫がみられることがある。
・膵臓結核では急性膵炎や慢性膵炎様の病像を呈することがある。症状としては腹痛(75%)、食欲不振と体重減少(69%)、倦怠感と脱力感(64%)、発熱と寝汗(50%)、背部痛(38%)、黄疸(31%)である。超音波検査では16例中12例で膵頭部の腫大がみられたという報告がある。CTでは全例で低吸収域を伴う膵腫瘤がみられる。診断は生検で肉芽腫の存在を証明したり、組織のPCR検査を確認したりすることで行う。
血液検査
・正球性貧血、血小板増多、低アルブミン血症がみられることがある。
・WBCは基準値内であることも多く、ときにリンパ球減少もみられる。
・赤沈はほぼ全ての患者で亢進する。ただし、全体の50%以上のケースは60mm/hr以下とされている。
画像検査
・腹部X線撮影、胸部X線撮影、CT撮像、腹部エコーなどの実施を検討される。
・腹部結核の評価においてはCTでは腹膜の肥厚所見、腹水、リンパ節腫大、腸管壁肥厚などを確認することはときに有用である。
・上部消化管内視鏡検査、下部消化管内視鏡検査は検討される。内視鏡検査では潰瘍(60%)、潰瘍性肥厚(30%)、肥大(10%)といった腸管所見がみられる。そのほか、バウヒン弁変形、瘻孔などがみられることがある。バウヒン弁の変形の存在は病因として結核性を示唆する。
・Alvaresらによる報告では下部消化管内視鏡検査で最も病変がみられた箇所は回盲部と上行結腸であったとしている。なお、これらの患者の約半数で複数箇所に病変があったと報告されている。なお、病理学的には肉芽腫の約2/3に乾酪壊死が認められた。
結核性腹膜炎
・結核性腹膜炎は先進国では稀であるが、結核の有病率が高い国では稀ではない。
・40歳未満でみられ、女性に好発する。
・リスク因子として糖尿病、肝硬変、HIV感染者、担癌状態、腹膜透析が挙げられる。
・通常は血行性伝播、感染した骨盤あるいは腸管からの直接波及によって発症する。
・臓側腹膜と壁側腹膜との両者が侵され、多発性の結核性結節、腹水がみられる。
・症状としては腹水貯留、腹痛が挙げられ、そのほか緩徐に進行する腹部膨満がある。また、癒着により小腸閉塞に至るケースがある。
・身体所見では腹部の圧痛、腹部膨隆、肝腫大、腹水貯留がみられる。
・症状や身体所見が非特異的で、診断が遅れることも多い。
・腹水検査では多くの場合でリンパ球優位の上昇がみられ、SAAG<1.1g/dLとなる。結核性腹水でのADA活性の感度は様々であるが、肝硬変でない患者において腹水中のADA活性>33U/Lの場合では結核性腹膜炎に対して感度97%、特異度100%とも報告されている。腹水検体の抗酸菌塗抹、抗酸菌培養は感度が十分でないため、検査が陰性でそれでも疑わしい場合は腹膜生検を検討する場合もある。HIV感染者における結核性腹膜炎のADA活性は低くなりやすい可能性が示唆されている。
・乾酪壊死の有無に関わらず、結核菌の存在が確認されるか、あるいは組織学的に肉芽腫が確認されれば診断は確定する。基礎疾患として肝硬変、HIV感染、悪性腫瘍などがある場合は死亡率が比較的高い。
治療
・消化管結核、肝結核、膵結核に対しては従来の抗結核治療を最低6ヶ月間行うことが推奨されている。
・腹部結核の合併症は病変部位によって異なり、ときに潰瘍、穿孔、癒着、閉塞、出血、瘻孔形成、狭窄などを伴う。ときに外科的治療を要する。
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