神経原性肺水腫 neurogenic pulmonary edema

神経原性肺水腫とその疫学

・神経原性肺水腫(neurogenic pulmonary edema)は重大な中枢神経系障害の後に急性経過で肺水腫を合併する症候群を指す。

・神経原性肺水腫の発症率などは明らかでない。

・脊髄損傷を含む、あらゆる急性中枢神経系の障害が肺水腫を誘発する可能性があり、例えばくも膜下出血での神経原性肺水腫の合併率は2~42.9%とされている。なお、神経原性肺水腫を合併したくも膜下出血のケースにおける死亡率は高く、約10%に及ぶことも知られている。

病態生理

頭蓋内圧(ICP)の急激な上昇を起こすような病態は神経原性肺水腫の発症と関連すると考えられている。

・神経細胞の圧迫や虚血などによる頭蓋内圧の急激な上昇により、交感神経系の著明な活性化とカテコラミン放出を伴い、結果として肺水腫が生じると考えられている。なお、褐色細胞腫の患者でも肺水腫を合併することがあり、同様の病態生理に基づくと考えられる。

臨床経過/臨床症状

・神経原性肺水腫では2つの臨床経過が存在すると考えられている。

・1つ目の病型では中枢神経系の損傷が生じ、数分から数時間以内に症状が出現するのが特徴で、こちらがより一般的な経過と考えられる。

・2つ目の病型では中枢神経系の損傷が生じ、12~24時間後に発症するケースで、1つ目の病型よりも遅発性に生じるのが特徴である。

・臨床症状としては呼吸困難、頻呼吸、酸素飽和度低下がみられ、ピンク色の泡沫状喀痰がみられることも一般的である。胸部聴診では両側性にCracklesが聴取される。また、前述の病態生理のように、交感神経系の賦活が関与しているため、発熱、頻脈、高血圧を呈することが典型である。

・なお、症状は通常、24~48時間以内に自然軽快するが、脳損傷が進行し、頭蓋内圧亢進を伴うケースでは神経原性肺水腫が持続することも多い。

画像所見

・胸部X線撮影では急性呼吸促迫症候群(ARDS)と同様に両側性の透過性低下がみられる。

鑑別診断

・原則として神経原性肺水腫は除外診断である。

・特に中枢神経系が障害されたケースでは誤嚥性肺炎などの発症も一般的であり、ときに鑑別は容易でない。また、大量補液による肺うっ血の影響もあるかもしれない。

治療

・本病態に対する特異的な治療法は明らかでない。

・原則として神経原性肺水腫を誘発した原疾患の治療が優先される。

・また、病態によって介入法は様々であるが、ときに頭蓋内圧の補正、血栓除去、浸透圧利尿、抗てんかん薬なども有効なことがある。

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<参考文献>

・Davison DL, Terek M, Chawla LS. Neurogenic pulmonary edema. Crit Care. 2012 Dec 12;16(2):212. doi: 10.1186/cc11226. PMID: 22429697; PMCID: PMC3681357.

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