ルートヴィッヒ アンギーナ Ludwig's angina
Ludwig’s anginaとその疫学
・Ludwig’s anginaは口腔底蜂窩織炎のことで、顎下間隙(submandibular space)が感染の中心となりやすい。
・ときに致命的な疾患で、可能な限り早期に診断することが望ましい。
・典型的には歯科感染症が発症の誘因となり、急速に両側の口腔底の蜂巣炎が広がり、舌の挙上/後方偏倚を伴う状況となる。
・1836年にLudwigにより初めて報告され、Ludwig’s anginaという名称がついたとされる。Anginaという言葉はラテン語の「頸部が狭まる(angere)」やギリシャ語の「頸部が狭まる(ankhone)」という言葉に由来する。
・疫学は報告により様々であるが、通常は20~60歳で、男性に好発する。小児で発症することは頻度としては稀である。
・ペニシリン系抗菌薬がフレミングにより開発されるまでは死亡率が50%を超えていたが、抗菌薬の普及と外科的処置の技術向上などにより現在の死亡率は8%程度に改善しているという報告がある。
・糖尿病、AIDS、低栄養、アルコール使用障害などが併存するケースではLudwig’s anginaの発症リスクは相対的に高いと考えられている。また、喫煙や口腔内衛生環境不良はLudwig’s anginaの発症と相関関係があることが示されている。
・治療が遅れることにより、骨髄炎や降下性壊死性縦隔炎、敗血症などを合併することがある。
病態生理/起因菌
・全体の70%は歯科感染症が原因となる。特に下顎第2臼歯、第3臼歯における感染症が関連することが多い。下顎第2臼歯、第3臼歯の歯根部が顎舌骨筋線よりも下方に位置するため、Ludwig’s angina発症に関連しやすいと考えられている。
・その他の原因としては下顎骨の骨折、舌のピアスなどが挙げられる。また、悪性腫瘍や唾石症も解剖学的構造異常には相当するため、発症に寄与するかもしれないという見方もある。
・複数菌による感染(polymicrobial)であることが多く、頻度としてはA群溶連菌の関与が多い。そのほかにはS.aureus、Fusobacterium、Bacteroidesが関与することも典型的である。免疫不全者ではP.aeruginosa、E.coli、Candida、Clostridiumなどが関与することもある。
臨床症状
・臨床症状は感染症の重症度などにより様々である。
・発熱、全身倦怠感、易疲労感などの全身症状がみられることも多い。
・炎症により頸部、顎下部、舌下部における軟部組織の腫脹がみられることがあり、腫脹が著明な場合には気道閉塞をきたすこともある。
・特に舌を動かした際の疼痛はLudwig’s anginaでよくみられる症状である。
・そのほか、耳痛、構音障害、くぐもった声(hot potato voice)などがみられることもある。
・呼吸困難、頻呼吸、吸気性喘鳴、流涎などは気道閉塞のリスクが高い状況を示唆する。
・また舌の腫脹により口が閉じられなくなる(閉口障害)ことがある。
臨床検査/診断/マネジメント
・通常、臨床診断がなされ、CT撮像、MRI撮像などの画像検査は感染の範囲や部位の参考になる。ただし、臥位になることで気道閉塞が助長されるリスクに留意して状況に応じて判断がなされる。
・気道閉塞に至るケースもあり、慎重な観察が必要であり、状況によっては気管挿管、それが困難であれば輪状甲状靱帯切開/穿刺も検討される。
・抗菌薬治療は可及的速やかに開始される。
・ステロイドの有用性については議論の余地がある。しかし、炎症性の浮腫を軽減する目的で、ステロイド投与を併用することもある。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Costain N, Marrie TJ. Ludwig's Angina. Am J Med. 2011 Feb;124(2):115-7. doi: 10.1016/j.amjmed.2010.08.004. Epub 2010 Oct 19. PMID: 20961522.