唾石症 salivary stones
唾石症とその疫学
・唾石症(salivary stones)は主に顎下腺(84%)、耳下腺(13%)に生じる。舌下腺および小唾液腺における唾石症は稀で、全症例の0.4~7%を占めると報告されている。
・顎下腺における唾石症の大部分はWharton管に存在する(90%)。耳下腺における唾石症の23%は腺実質に存在し、64%はStensen管内に存在する。
・唾石症は唾液腺疾患の約1/3を占める。
・顎下腺あるいは耳下腺における唾石症は主に30~40歳代で発症する。なお、顎下腺における唾石症は耳下腺におけるそれよりも発症平均年齢が多少低い。
・発症率について性差はほとんどないと考えられている。
・唾石症の患者の70~80%では単一の結石が存在し、20%では2個の結石が、5%では3個以上の結石がみられる。
・唾石症の正確な病因は明らかにされていないが、唾液のうっ滞や唾液流量の減少が影響していると考えられている。
・痛風、利尿薬の使用、唾液量の減少は唾石症のリスクを高めると考えられている。また、統計学的有意差があることは示されなかったが、喫煙者は一般集団よりも唾石症の発症頻度が高い傾向にあった。
・唾石症の再発は稀で、1~10%とされている。
感染性唾液腺炎の起因菌
・多くは連鎖球菌やPeptosterptococcus属のような口腔内常在菌が起因菌と考えられる。
唾液腺の解剖
・Wharton管とStensen管は解剖学的に特徴が異なる。
・両者の管の直径はほぼ同等であるが、Wharton管の方がより長く、垂直方向に近く、弓状に伸びている。結果として顎下腺からつながるWharton管における唾液の流れは重力に抗する流れとなり、唾液のうっ滞が生じやすくなっている可能性がある。
・また顎下腺からの唾液は耳下腺からのそれよりもムチン濃度が高く、それゆえに粘稠性が高い。また、顎下腺からの唾液はよりpHが高く、耳下腺からの唾液に比して約2倍のカルシウムを含む。
臨床症状/臨床経過
・典型的には食事時の顎下あるいは耳下腺部における疼痛や腫脹がみられ、その症状は数時間続くこともある。その後、数週間から数ヶ月の寛解期がみられることもある。
・顎下腺における唾石症で最も一般的な症状は腫脹であり、疼痛がそれに次ぐ。また、患者の3%では無症状である。
・耳下腺における唾石症でも最も一般的な症状は腫脹である。なお、疼痛は約半数のケースでみられる。また、患者の1%では無症状である。
・疼痛は結石が腺の内部にある場合よりも、唾液腺管の内部にある場合でより顕著である。疼痛や腫脹は唾液の生理的な流れが障害されることで生じ、唾液貯留とそれに伴う腺管内圧の上昇によって生じる。
・唾石症患者の90%では唾液腺の感染を伴い、12~18%では膿性分泌物がみられる。
身体診察/診断
・身体診察では顎下腺について口腔底を前方に向かって両手で触診し、耳下腺についてはStensen管周囲を口腔内で触診する。触診で唾液腺が硬く、かつ圧痛を認めることがある。
・身体診察に加えて画像検査も有用である。主に超音波検査、X線撮影、CT撮像が検討される。
・顎下腺における唾石の80~95%と、耳下腺における唾石の43~60%とがそれぞれX線不透過性を示す。総合すると唾石症の約80%のケースでX線撮影は有効であり、所見がなくても唾石症の否定には至らない。
・CT撮像は唾石症の検出に有用であるが、放射線被曝量の問題がある。
・超音波検査では直径2mm以上の結石であれば検出が可能とされている。
治療
・唾石症に対する保存的加療の方法として唾液腺マッサージなどが基本となる。これらの治療は主に結石が比較的小さく、かつ唾液腺管内に存在する場合に成功率が高い。
・感染が疑われる場合には抗菌薬を使用する。
・ほぼ全ての顎下腺および耳下腺における結石は局所麻酔下の口腔内アプローチで摘出できる場合がある。外科的治療の詳細は割愛する。
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<参考文献>
・Kraaij S, Karagozoglu KH, Forouzanfar T, Veerman EC, Brand HS. Salivary stones: symptoms, aetiology, biochemical composition and treatment. Br Dent J. 2014 Dec 5;217(11):E23. doi: 10.1038/sj.bdj.2014.1054. PMID: 25476659.