延髄外側症候群/ワレンベルグ症候群(lateral medullary syndrome/Wallenberg syndrome)
延髄外側症候群とその疫学
・130人の延髄外側症候群の患者を対象とした報告では発症のリスク因子としては高血圧症(64%)、糖尿病(25%)、喫煙(25%)、心房細動(5%)、冠動脈疾患の既往(5%)が挙げられた。なお、130人のうち、15人(12%)の患者は上記のリスク因子を有していなかった。
・1895年にWallenberg症候群が初めて報告された。
臨床所見
・発症様式として、突発完成例は75%、非突発完成例が25%であった。
・非突発完成例では初発症状は頭痛、めまい(前庭症状)、失調性歩行であり、感覚症状、嚥下障害、嗄声、吃逆などは後から遅れて出現する傾向にあった。
・全体の頻度で考えれば、最も高い頻度でみられる症状としては感覚症状、失調性歩行、めまい、Horner徴候(主に上眼瞼下垂、患側の縮瞳など)が挙げられる。次いで高い頻度でみられる症状として嚥下障害、嗄声,、めまい(前庭症状)、眼振、四肢の運動失調、悪心/嘔吐、頭痛が挙げられる。また、高頻度ではないものの、ときにみられる症状として複視、構音障害、顔面神経麻痺が挙げられる。
・なかでも感覚症状は特に頻度が高く、全体の96%でみられたという報告がある。パターンは様々であるが、典型的には交代性表在感覚障害(同側顔面+対側顔面以下)が最もみられやすい(26%)。そのほか、対側顔面+対側顔面以下(25%)、両側顔面+対側顔面以下(14%)のパターンもときにみられる。また、顔面以下の感覚障害のみを伴うケースや、顔面のみの感覚障害のみを伴うケースなどもときにみられる。
・眼振は水平回旋性で、方向交代性眼振であることが典型。
・頭痛は他の症状よりも先行してみられるケースもあり、通常は同側の後頭部に自覚される。次いで前頭部に自覚されやすい。
MRI撮像所見と臨床症状
・延髄外側症候群は通常、頭部MRI撮像で診断される。
・延髄を頭側、中間、尾側に分けると、頭側病変では嚥下障害、構音障害、顔面神経麻痺が生じやすい傾向にあることが示唆される。一方で、重度の失調性歩行、頭痛、感覚障害、は尾側病変よりも有意に少なかった。
・比較的大型の病変であれば、嚥下障害、嗄声、構音障害、両側顔面の感覚障害が生じやすい傾向にあったが、延髄の外側局所に留まる病変の場合ではこれらの症状が全て揃うようなことは稀であった。
・Horner徴候は延髄の背側病変では稀である。
血管造影所見
・血管造影検査が行われた123人の患者に関する報告では77%で異常所見が確認された。
・椎骨動脈(VA)に病変がみられるケースは67%、PICAのみに病変がみられるケースは10%であった。
・椎骨動脈病変のケースのうち、33人(49%)が遠位部に所見があり(閉塞:23人、狭窄:21人)、34人(51%)が全体に所見があり(閉塞:24人、狭窄:10人)、5人(7%)は近位部に所見があった。
・PICAのみに病変がみられるケースのうち、5人は閉塞、7人は狭窄がみられた。
・推定される発症機序としては大血管梗塞(50%)、動脈解離(15%)、小血管梗塞(13%)、心原性塞栓(5%)、もやもや病が1例、機序不明(15%)であった。
・PICA病変を有するケースは延髄外側症候群の典型的な梗塞をきたしやすいことが示されている。
・血管造影検査で異常所見を指摘できないケースでは背側病変がみられる傾向にあった。
・動脈解離が発症機序として想定されたケースでは尾側病変の頻度が高く、背側病変の頻度が低かった。
・心原性塞栓機序が想定されるケースでは背側病変の頻度が高かった。
・PICA病変のみを有するケースでは心原性塞栓機序を伴うことが多く、動脈解離はみられにくかった。
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<参考文献>
・Kim JS. Pure lateral medullary infarction: clinical-radiological correlation of 130 acute, consecutive patients. Brain. 2003 Aug;126(Pt 8):1864-72. doi: 10.1093/brain/awg169. Epub 2003 May 21. PMID: 12805095.