アナフィラキシー anaphylaxis
アナフィラキシーとその疫学
・アナフィラキシー(Anaphylaxis)とは重篤な全身性の過敏反応であり、通常は急速に発現し、死に至ることもある疾患である。主に気道、呼吸、循環器症状によって特徴づけられるが、典型的な皮膚症状や循環性ショックを伴わない場合もある。
・全ての誘因を含め、アナフィラキシーの生涯有病率は0.05~2%と推定されている。
・アナフィラキシーは初発のケース、曝露因子が認識しにくいケース、症状が一過性あるいは軽度なケースでは過小診断される可能性が高い。
・皮膚症状(掻痒、蕁麻疹など)がみられる場合にはアナフィラキシーを疑いやすい。しかし、アナフィラキシーの10~20%では皮膚および粘膜症状がみられないため、想起されにくい。
・乳幼児のアナフィラキシーでは低血圧を伴いにくい。また、小児期で頻度が高い誘因は食物である。また、思春期から青年期にかけては食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の頻度が高い。
・致死的な転帰を辿るアナフィラキシーの初期症状では循環症状よりも呼吸器症状の方がより一般的である。
・誘因などが明らかとならない場合などの一部では特発性アナフィラキシーと判断されることがある。通常は、皮膚テストで所見が得られず、一般的なアレルゲンに対する特異的IgE抗体が検出されないことをもって診断する。また、そのほか肥満細胞症などの可能性について評価する必要がある。
診断基準
・以下の2つの基準のいずれかを満たす場合、アナフィラキシーである可能性が高いとされている。
- 皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、掻痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分〜数時間で)発症した場合。
- 典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性がきわめて高いものに曝露された後、血圧低下・または気管支攣縮または喉頭症状が急速に(数分〜数時間で)発症した場合。
日本におけるアナフィラキシーの誘因
・食物では牛乳、鶏卵、小麦、落花生、クルミ、魚、果物、蕎麦の順に多い。
・薬剤では診断用薬剤(造影剤など)、抗菌薬、NSAIDs、抗がん剤、血液製剤の順に多い。
・なお、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の誘因としては果物、小麦、牛乳、鶏卵の順に多い。なお、FDEIAはIgE依存性の即時型アレルギーで、食物摂取から2時間以内の運動で発症することが多い。
・昆虫刺傷ではアシナガバチ、スズメバチ、ミツバチの順に多い。
アナフィラキシーの重症度に関与する要因
・β遮断薬やACE阻害薬などの薬剤はアナフィラキシーの重症度を高め、特にβ遮断薬を使用しているケースではアドレナリン反応性が乏しい場合がある。
・運動、急性感染症、精神的ストレス、月経前なども重症化リスクとして挙げられている。
・アドレナリン投与が遅れることで二相性反応が重症化する可能性が示唆されている。
症状/臨床検査
・皮膚症状は80~90%、呼吸器症状は最大70%、消化器症状および循環症状は最大45%、中枢神経症状は最大15%でみられる。
・アナフィラキシーは臨床診断であるが、血液検査で血清ヒスタミン値およびトリプターゼ値の上昇がみられることがある。しかし実臨床ではこれらの項目の検査が容易にできる医療機関は多くないと思われる。
・多くの二相性反応は発症から8時間以内に生じる。また、通常、二相性反応は比較的軽症に留まることが多い。
治療
・アナフィラキシーを疑う場合には原則として仰臥位として、対処し、必要に応じて回復体位をとる。なお、呼吸困難を伴う場合は座位とする場合もある。
・誘因が除去できていないケースではその除去を行う。
・アナフィラキシーと判断した場合あるいはアナフィラキシーが強く疑われる場合にはアドレナリン0.01mg/kgを直ちに大腿中央の前外側に筋注する。投与量は成人では最大0.5mg、小児では最大0.3mgとする。なお、必要に応じて5~15分ごとに再投与するが、繰り返しのアドレナリン筋注でも改善しない場合にはグルカゴン1~5mg(小児の場合は20~30μg/kg(最大1mg))を5分以上かけて緩徐な静注を試みることを検討する。なお、アナフィラキシーにおいてアドレナリンの静注が優先的に選択されることはなく、致死的不整脈を誘発するリスクなどを伴う。静注での投与はあくまで心停止もしくは心停止に近い状態に限定される。
・アドレナリン血中濃度は筋注後10分以内にピークに達し、40分程度で半減すると考えられている。また、アドレナリンの薬理学的作用は主に3つあり、α1受容体刺激(血管収縮/血圧上昇/気道粘膜における浮腫の抑制)、β1受容体刺激(心収縮力増大/心拍数増加)、β2受容体刺激(ケミカルメディエーター放出の抑制/気管支拡張促進)が相当する。つまり、血圧を上昇させる作用のみならず、上気道閉塞の軽減、下気道拡張作用、蕁麻疹の軽減などの作用も期待できる。
・特に循環状態に異常がある場合には細胞外液1~2Lの急速静注を検討する。
・H1RAおよびH2RAは皮膚症状を軽減させる可能性がある。しかし、皮膚症状以外の症状に対する有効性はなく、アドレナリン筋注に代替できる薬剤ではないことに留意する。
・エビデンスが十分とまではいえないが、ステロイド投与(mPSLやPSLなど)は二相性反応に対して有用性を示唆されている。ただし、こちらも即効性はなく、アドレナリン筋注に代替できる薬剤ではない。
・治療反応性など、個別に応じての判断となるが、経過観察を十分に行うことも検討する。なお、食物誘発性のアナフィラキシーの場合はより長い経過観察を要する場合もある。
予防
・アナフィラキシーを経験した患者では再発を防ぐために誘因を回避することが重要である。したがって、誘因の特定は重要。
・誘因の特定には詳細な問診が何より重要である。それに加えて補助的に血清アレルゲン特異的IgE抗体検査や皮膚テストが行われる場合がある。それでも特定が困難なケースではときに食物経口負荷試験などが行われる場合もある。
・アナフィラキシーのリスクがある患者では常にエピペンを携帯するように指導する。
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<参考文献>
・Simons FE. Anaphylaxis. J Allergy Clin Immunol. 2010 Feb;125(2 Suppl 2):S161-81. doi: 10.1016/j.jaci.2009.12.981. Erratum in: J Allergy Clin Immunol. 2010 Oct;126(4):885. PMID: 20176258.
・Campbell RL, Li JT, Nicklas RA, Sadosty AT; Members of the Joint Task Force; Practice Parameter Workgroup. Emergency department diagnosis and treatment of anaphylaxis: a practice parameter. Ann Allergy Asthma Immunol. 2014 Dec;113(6):599-608. doi: 10.1016/j.anai.2014.10.007. PMID: 25466802.
・アナフィラキシーガイドライン2022(一般社団法人 日本アレルギー学会).