横紋筋融解症 rhabdomyolysis

横紋筋融解症とその疫学

・横紋筋融解症(rhabdomyolysis)は外傷などの種々の要因により筋細胞が破壊され、様々な検査異常、症状を伴い得る疾患である。

・重症度が低い場合や慢性的あるいは断続的な筋細胞破壊が生じている場合では通常、ほとんど症状を呈さず、腎不全にも至らない。しかし、重症度が高い場合では腎不全に至るケースもあり、その場合の予後は不良である。

・横紋筋融解症の原因は後述のとおり、多岐にわたる。横紋筋融解症を再発する場合では筋代謝における根本的な異常が存在していることが多い。

・急性の横紋筋融解症の診断が疑われる場合では筋生検によって確定診断に至ることがある。生検は発症早期に行うと十分な所見が得られないこともあり、可能であれば発症から数週間から数カ月後に生検を行うことが望ましいという見方がある。

・横紋筋融解症の発症には直接的な筋細胞障害(外傷など)または筋細胞内におけるATP枯渇とが関係していて、ひいては細胞内カルシウムの増加に繋がり得る。筋細胞内カルシウム濃度が上昇すると、カルシウム依存性プロテアーゼ、ホスホリパーゼが活性化され、最終的には筋原線維、筋細胞骨格などが破壊されることとなる。

・なお、外傷による横紋筋融解症の場合で組織の虚血筋肉に浸潤した好中球とによって、筋細胞におけるさらなる傷害を伴うこととなる。

横紋筋融解症の主な原因

 <外傷(trauma)>

 ・Crush syndrome

 <曝露(exertion)>

 ・過剰な運動負荷、痙攣(seizures)、アルコール離脱症候群(AWS)

 <筋における低酸素状態(muscle hypoxia)>

 ・意識障害などの理由で、体動困難な状況が続いたことによる四肢の圧迫

 ・主要血管の閉塞

 <遺伝的要因(genetic defects)>

 ・解糖系や糖分解の障害(糖原病Ⅴ/Ⅶ/Ⅷ/Ⅸ/Ⅹ/Ⅺ型)

 ・脂質代謝の障害(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅡ欠損症など)

 ・ミトコンドリア障害(コハク酸デヒドロゲナーゼ/シトクロムcオキシダーゼ/コエンザイムQ10)

 ・ペントースリン酸回路の障害(グルコース6リン酸脱水酵素欠乏症など)

 ・プリンヌクレオチド回路の障害(AMPデアミナーぜ欠損症など)

 <感染性(infection)>

 ・インフルエンザウイルスA/B、EBV、HIV

 ・レジオネラ属、S.pyogenes、S.aureus、Clostridium

 <体温変化(body-temperature changes)>

 ・熱中症、悪性高熱症、低体温

 <代謝性/電解質異常(metabolic and electrolyte disorders)> 

 ・低カリウム血症、低リン血症、低カルシウム血症

 ・非ケトン性高浸透圧状態、糖尿病性ケトアシドーシス、甲状腺機能低下症、高アルドステロン症

 <薬剤性/中毒性(drugs and toxins)>

 ・フィブラート系、スタチン系

 ・アルコール、ヘロイン、コカイン

 <特発性(idiopathic)>

 ・ときに再発性の経過をたどることが知られる

ミオグロビン尿と急性腎障害

ミオグロビン尿を伴う急性腎障害(AKI)は最も重篤な合併症である。横紋筋融解症の合併症としての急性腎障害は少なくなく、アメリカにおいては全症例の7~10%程度を占める。またそれよりも頻度としては多いという報告もある。

・どのような原因による横紋筋融解症であっても急性腎障害を合併することはある。しかし、特に違法薬物使用者、アルコール使用障害の患者、外傷性の横紋筋融解症のケースで合併率は高い傾向にあり、また複数の要因を有するケースでも合併率が高いと報告されている。

・横紋筋融解症の予後は腎不全に至らなければ良好である。

・あるICU入室した横紋筋融解症の患者に関する研究では急性腎障害を合併した場合の死亡率は59%、合併しない場合の死亡率は22%と報告された。

ミオグロビンによる急性腎障害の病態生理

・ミオグロビンは暗赤色の蛋白で通常糸球体で自由に濾過される。その後、エンドサイトーシスによる尿細管上皮細胞に入り、代謝される。

・しかし、ミオグロビンは一つの閾値として0.5~1.5mg/dLを超過した際には尿中にミオグロビンが確認され始め、血清ミオグロビン濃度 100mg/dLに達すると肉眼的血尿として認識される。

・横紋筋融解症により糸球体濾過量が低下する機序は全て明らかになっている状況ではない。しかし、これまでの研究からは腎臓内血管の収縮、直接的な尿細管障害、尿細管閉塞のいずれも関与していることが示唆されている。尿細管閉塞は主に近位尿細管で生じると考えられている。

横紋筋融解症に伴う腎障害の徴候

・横紋筋融解症の患者は通常、赤褐色の尿、血清CK高値などがみられる。血清CK高値の閾値はないが、一定のレベルを超えると急性腎障害のリスクが著しく増加することが示唆されている。なお、血清CKのピーク値と血清Creのピーク値との相関性は非常に弱いことが示されている。

・横紋筋融解症における急性腎障害のリスクは入院時の血清CK値が15,000U/L未満であれば、通常低いと考えられ、およそ15,000U/L以上のケースで急性腎不全のリスクが高いと考えられる。なお、血清CK値5,000U/Lという比較的低値でも急性腎障害を合併するケースもあるが、この場合は通常、敗血症、細胞外脱水、アシドーシスなどの他の併存病態が存在しているために生じている可能性が高い。たとえば筋ジストロフィーや炎症性ミオパチーなどのケースでは新規の何らかの誘因がない限り、急性腎障害を合併することはほとんどない。

・ミオグロビン尿は尿沈渣で赤血球が確認されないにも関わらず、尿定性検査で潜血陽性となる場合に想定される。つまり、尿潜血定性検査ではミオグロビンとヘモグロビンとを区別できないために、このような結果が生じる。

・血清ミオグロビン値は血清CK値が上昇する以前にピークに達していることが典型であり、血清ミオグロビン値のフォローは困難。また横紋筋融解症の診断に関しても感度が低く、有用でない。

・横紋筋融解症に伴う急性腎障害では他の原因による急性腎障害よりも血清Cre値の上昇速度が早いことが多い。しかし、この所見は筋肉からのクレアチンの放出による影響よりも、若く筋肉質の男性が患者として多いことも影響しているのかもしれない。また、横紋筋融解症の患者では血中BUN/Cre比が低いことがしばしば確認される。

・横紋筋融解症に伴う急性腎障害が他の原因によって生じる尿細管壊死のケースと異なる他の特徴として、尿中Na排泄率(FeNa)が低いこと(<1%)が挙げられ、しばしば認められる所見である。

・電解質異常は急性腎障害の発症に先行するケースがある。したがって、横紋筋融解症を診断した場合には迅速に電解質異常の有無を確認するべきである。横紋筋融解症でみられやすい電解質異常/酸塩基平衡異常としては高カリウム血症、高リン血症、高尿酸血漿、AG開大性代謝性アシドーシスがみられ、腎不全に至っている場合では特に高マグネシウム血症がみられやすい。特に高カリウム血症は急速に生じることもあるため、注意を要する。

・また、低カルシウム血症は横紋筋融解症ではしばしば認められ、傷害が生じた筋細胞へのカルシウム流入と、壊死した筋組織でのリン酸カルシウムの沈着とによって生じる。なお、腎機能の回復に伴って、高カルシウム血症に転じるケースもあり、注意を要する。

治療と予防

根本的な原因に対する治療を行いつつ、以下のような対応が求められる。

・まず主な治療法として早期からの積極的な補液が挙げられる。急性腎障害を伴う横紋筋融解症のケースでは通常、傷害を受けた筋細胞に水分が移行し、それによる血管内ボリュームの減少が生じ、そのため補液が管理の主な項目となる。

・コンセンサスが得られた輸液速度はなく、重症度によって個別に判断する。患者の体液量と体格、心機能などにも依るものの、一案として尿量1~3mL/kg/hr(最大300mL/hr)程度を達成するために、400mL/hr程度の輸液速度で開始する見方も存在するようである。

・補液の重要性は確立しているが、使用する補液の組成については議論の余地がある。生理食塩水の使用を提案するエキスパートもいるが、高Cl性代謝性アシドーシスを合併するリスクの懸念から、乳酸リンゲル液の使用を推奨する見方もある。また炭酸水素ナトリウムの使用を推奨するエキスパートもいて、この場合は尿pH、血中の重炭酸塩、カルシウム、カリウムなどをモニターしながら使用することが望ましい。

・利尿薬の使用についても議論の余地があるが、補液による血管内ボリュームの確保ができたケースに使用を限定するべきである。マンニトールにはいくつかの利点があり、尿量を増加させることで腎毒性物質のWash outを図る効果や、フリーラジカルスカベンジャーとしての効果などが期待されている。ただし、マンニトールの作用に関する多くのデータは動物研究から得られたものである点には留意するべきで、マンニトールの有用性を示したRCTはなく、有益性はないことを示唆するものもある。マンニトールを使用する際には血漿浸透圧と実測浸透圧との差異、つまり浸透圧ギャップをモニターし、十分な尿量が得られない場合、あるいは浸透圧ギャップ≧55mOsm/kgに上昇した場合には投与を中止することを検討するべきである。ループ系利尿薬についても横紋筋融解症における有益性を示した研究はない。

・横紋筋融解症における電解質異常の補正は行うべきで、特に高カリウム血症については慎重な対処が必要。カリウムを細胞内シフトさせるGI療法は一時的な効果しかなく、あくまでカリウムを体外へ排泄させる手段は利尿薬、カリウム吸着薬、透析であることに留意する。

・なお、発症早期における低カルシウム血症は症状がある場合や重度の高カリウム血症がみられる場合を除いて、治療対象としない。

・急性腎不全がみられ、難治性の高カリウム血症、アシドーシス、体液過剰を伴う場合には血液透析が適応となり、迅速かつ効率的に電解質異常を補正することができる。

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<参考文献>

・Bosch X, Poch E, Grau JM. Rhabdomyolysis and acute kidney injury. N Engl J Med. 2009 Jul 2;361(1):62-72. doi: 10.1056/NEJMra0801327. Erratum in: N Engl J Med. 2011 May 19;364(20):1982. PMID: 19571284.

・Torres PA, Helmstetter JA, Kaye AM, Kaye AD. Rhabdomyolysis: pathogenesis, diagnosis, and treatment. Ochsner J. 2015 Spring;15(1):58-69. PMID: 25829882; PMCID: PMC4365849.

・Zimmerman JL, Shen MC. Rhabdomyolysis. Chest. 2013 Sep;144(3):1058-1065. doi: 10.1378/chest.12-2016. PMID: 24008958.

・Szugye HS. Pediatric Rhabdomyolysis. Pediatr Rev. 2020 Jun;41(6):265-275. doi: 10.1542/pir.2018-0300. PMID: 32482689.

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