慢性腸間膜虚血症 chronic mesenteric ischemia

慢性腸間膜虚血症とその疫学

・慢性腸間膜虚血症(以下CMI: chronic mesenteric ischemia)は食後の腹痛と体重減少とを特徴とする、比較的稀な疾患である。

・1918年にGoodmanにより腹部アンギーナ(abdominal angina)として、1957年にMikkelsenにより腸管アンギーナ(intestinal angina)としてそれぞれ報告された症候群で、アテローム動脈硬化が原因である。

・慢性腸間膜虚血症の症状は通常、大動脈からの血管起始部に存在するプラークによって生じ、腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈を含むことが多い。

・男女比はおよそ1:2とされている。

・発症のリスク因子としては喫煙、高血圧症、脂質異常症、糖尿病が挙げられる。

・冠動脈や下肢動脈の血行再建術の経験がある患者で好発する。

臨床症状

・典型的には食後間もないタイミングから、びまん性の腹痛が生じ、1~3時間程度は持続する。そのほか、悪心/嘔吐、下痢、便秘がみられることもある。

・腹痛ははじめ比較的軽度であるが、数週間から数ヶ月かけて徐々に増強する。

・腹痛と食事とが関連するため、ときに患者は食事を摂ることに恐怖心を覚え、結果として体重減少が生じる。

・また、食事との関連性が明らかでないケースもある。

臨床検査

・慢性腸間膜虚血症を確定診断させるために、十分な感度と特異度を有する検査はない。

・通常、診断は臨床症状、造影CT撮像や血管造影、MRAなどの画像検査、他疾患の除外によってなされる。

・慢性腸間膜虚血症の患者では通常、腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈のうち、少なくとも2本の血管で高度な狭窄がみられる。実際、慢性腸間膜虚血症についてのケースシリーズでは全体の91%に少なくとも2本の血管で閉塞がみられたと報告されている。腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈は腸管の栄養範囲がある程度、オーバーラップしているため、単一血管の近位部の狭窄に対しては忍容性がある。実際、慢性腸間膜虚血症の症状は2本以上の血管が侵されたときに生じることが典型的とされる。

・CT撮像では全周性の腸管壁肥厚がみられる場合がある。

治療

・慢性腸間膜虚血症は通常、緊急的な治療を必要としない。しかし、責任血管はいずれ血栓閉塞症を起こす可能性は高い

・慢性腸間膜虚血症では血行再建術(血管内治療 or 外科的治療)が選択される場合がある。血管内治療は開腹手術と比較して、周術期死亡率を減少させるが、再発リスクは相対的に高いと考えられている。

・なお、治療の目的はその後の急性腸間膜虚血症の発症リスク軽減にある。

抗凝固療法が選択される場合もある。また、慢性腸間膜虚血症で増悪がみられたケースではヘパリン投与も検討される。

・長期的管理として禁煙、血圧管理、スタチン製剤の導入、血糖コントロールなどが重要である。

合併症

・慢性腸間膜虚血症はいずれ急性腸間膜虚血症に移行するリスクがある。

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<参考文献>

・Brandt LJ, Boley SJ. AGA technical review on intestinal ischemia. American Gastrointestinal Association. Gastroenterology. 2000 May;118(5):954-68. doi: 10.1016/s0016-5085(00)70183-1. PMID: 10784596.

・Writing Committee Members; Gerhard-Herman MD, Gornik HL, Barrett C, Barshes NR, Corriere MA, Drachman DE, Fleisher LA, Fowkes FGR, Hamburg NM, Kinlay S, Lookstein R, Misra S, Mureebe L, Olin JW, Patel RAG, Regensteiner JG, Schanzer A, Shishehbor MH, Stewart KJ, Treat-Jacobson D, Walsh ME; ACC/AHA Task Force Members; Halperin JL, Levine GN, Al-Khatib SM, Birtcher KK, Bozkurt B, Brindis RG, Cigarroa JE, Curtis LH, Fleisher LA, Gentile F, Gidding S, Hlatky MA, Ikonomidis J, Joglar J, Pressler SJ, Wijeysundera DN. 2016 AHA/ACC Guideline on the Management of Patients with Lower Extremity Peripheral Artery Disease: Executive Summary. Vasc Med. 2017 Jun;22(3):NP1-NP43. doi: 10.1177/1358863X17701592. PMID: 28494710.

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・Expert Panel on Interventional Radiology:; Fidelman N, AbuRahma AF, Cash BD, Kapoor BS, Knuttinen MG, Minocha J, Rochon PJ, Shaw CM, Ray CE Jr, Lorenz JM. ACR Appropriateness Criteria® Radiologic Management of Mesenteric Ischemia. J Am Coll Radiol. 2017 May;14(5S):S266-S271. doi: 10.1016/j.jacr.2017.02.014. PMID: 28473083.

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