アルコール離脱症候群 AWS: alcohol withdrawal syndrome

アルコール離脱症候群とその病態生理

・アルコール離脱状態(以下AWS: Alcohol withdrawal syndrome)はアルコール使用障害の患者がアルコール摂取を急に中止した場合に起こる一連の症状を指す。

・長期にわたるアルコール摂取は脳内の受容体に影響を及ぼしていて、アルコール摂取が中断された際に、脳機能を正常に保とうと適応する動きが生じる。結果として、GABA受容体感受性の低下などが生じ、アルコール非存在下での神経系の過活動につながる。それによって、頻脈、振戦、発汗などの交感神経症状などの症状として表出されることとなる。

・アルコールはGABAによる抑制系の作用を増強し、結果として神経活動を抑制させる。慢性的にアルコールに曝露すると、GABA受容体は反応性が鈍化し、同じレベルの抑制を維持するためにはより高いアルコール濃度が必要となる。

自覚症状

・症状は最終飲酒の約6時間後から生じ始めることがある。

・最も一般的な症状としては振戦、不穏、不眠、悪夢、発汗、頻脈、発熱、悪心/嘔吐、痙攣、幻覚などである。

・最終飲酒からの時間経過と主な症状は以下のとおりである。

 <最終飲酒から6~12時間後>

 ・小離脱症状(minor withdrawal symptoms):不眠、振戦、不安、消化管症状、発汗、頭痛、動悸、食欲不振、悪心、頻脈、血圧上昇

 <最終飲酒から12~24時間後>

 ・アルコール性幻覚症(alcohol hallucinosis):幻視、幻聴など

 <最終飲酒から24~48時間後>

 ・離脱発作(withdrawal seizures):全般性強直間代発作

 <最終飲酒から48~72時間後>

 ・アルコール離脱せん妄(alcohol withdrawal delirium):幻覚(主に幻視)、見当識障害、発汗、興奮

診断/重症度評価

・AWSの診断には平時のアルコール摂取量と頻度、アルコール摂取の中断と離脱症状発現との時間的関係性などの病歴が重要である。

・AWSの重症度評価はCIWA-Ar(Clinical Institute Withdrawal Assessment for Alcohol Scale(revised))で行われる。このスケールは重症度評価に用いられるものであって、AWSの診断に用いられるものではないことに留意が必要。0~8点では離脱がないか軽度と評価され、9~15点は中等度の離脱、16点以上は重度の離脱と評価される。軽度のアルコール離脱症候群では薬物治療が必須ではないと考えられている。ただし、最大36時間までは慎重な経過観察と支持療法とが行われる。

・Mayo-Smithらにより、CIWA-Arスコアの結果に応じた治療方針の決定ができることが提案された。一般的にCIAW-Arスコア<8点で離脱発作のリスクが小さいと考えられるケースでは薬物治療を行わずに管理可能と考えられていて、静かな環境で、経過観察が可能である。一方で、CIAW-Ar≧8点の場合では離脱発作や離脱せん妄のリスクを軽減するために薬物治療が推奨される。

重篤なアルコール離脱症状の予測因子

  1. 高齢
  2. アルコール離脱せん妄あるいは離脱発作の既往歴
  3. 初診時の重篤な離脱症状の存在
  4. 内科的/外科的疾患の併存
  5. 脱水
  6. 電解質異常(低ナトリウム血症あるいは低カリウム血症)
  7. 肝酵素上昇
  8. 脳の器質的病変

薬物治療

・AWSを発症した場合は速やかな薬物治療を必要とする。治療が遅れたり、不十分だったりすると致命的な転帰をたどり得る。

ベンゾジアゼピン系薬剤(BZ系薬剤)は比較的安全で効果的で、治療薬として推奨される。AWS治療において特によく研究されているのはジアゼパム、ロラゼパム、クロルジアゼポキシドである。BZ系薬剤とアルコールとの間には交叉性がある。

・BZ系薬剤の使用は離脱症状の重症度の軽減と、離脱発作および離脱せん妄の発生率低下とに関連することが証明されている。

ジアゼパムクロルジアゼポキシドのような半減期が長い薬剤は血中濃度が1日の間で差が小さいため、AWSの後期で生じる症状(痙攣など)のリスクが小さいという見方もある。一方で、これらの2つの薬剤の欠点として肝疾患を有する患者では薬剤の蓄積が生じやすいことが挙げられている。なお、ジアゼパム5mgは、クロルジアゼポキシド25mg、ロラゼパム1mgにそれぞれ等価とされている。

ロラゼパムのような短時間作用型(通常、数時間)のBZ系薬剤代謝物に活性がなく、肝代謝に影響を受けづらいため、重度の肝機能障害が存在するケースや、重度の肺疾患患者、高齢者などで使用しやすい。ただし、短時間作用型BZ系薬剤はAWSの後期で生じる痙攣などの症状が発現するリスクは比較的高いこととなる。ロラゼパムを中止する際には漸減することが一般的である。

・CIAW-Arスコアに応じた離脱予防を目的とした薬剤投与量の目安がある。8~10点の場合ではクロルジアゼポキシド25~50mgあるいはロラゼパム1~2mgの経口投与あるいは静脈内投与、11~15点の場合ではクロルジアゼポキシド50~75mg、ロラゼパム2~3mgの経口投与あるいは静脈内投与、16~19点の場合はクロルジアゼポキシド75~100mg、ロラゼパム3~4mgの経口投与あるいは静脈内投与が検討される。

支持療法

静かで刺激が少なく、照明の少ない部屋で入院管理を行うことが本来は望ましい。

・前述したとおり脱水は重症化のリスク因子であり、補液を開始するべきである。また、電解質異常の補正も行う。

・身体的拘束は可能な限り回避するべきである。

・Wernicke脳症の予防は重要で、全ての患者でビタミンB1の補充を行うべきである。アルコールの慢性的な利用はビタミンB1マグネシウムの欠乏と関係する。また、慢性的なビタミンB1欠乏により、意識障害、小脳失調、眼球運動障害の3徴で知られるWernicke脳症を発症する場合があり、通常は乳頭体、視床や海馬領域の神経細胞障害に起因する。なお、前述の3徴は全てが揃う頻度は小さい。また、永続的な重度の健忘を伴う場合はKorsakoff症候群に至っている可能性が考えられる。Wernicke脳症が疑われるケースではグルコースを静注する前にビタミンB1(チアミン)を補充することが重要とされる。なお、Wernicke脳症を発症していないケースではビタミンB1を100mg/日で経口投与することも可能である。しかし、重度のAWSのケース、低栄養状態にあるケースなどでは全てビタミンB1を250~500mg/日 3~5日間連続して補充するべきとされる。

・またマグネシウムやナイアシン(ビタミンB3)も欠乏している場合があるため、必要に応じて補充を行う。血清マグネシウムの補正に関しては低マグネシウム血症が存在するケース、QTc延長がみられるケース、電解質異常(低カリウム血症など)を伴うケース、離脱発作の既往があるケースでは特に補正を検討する。

・血清リン値が1mg/dL以下の場合はリン酸Naによる補正を検討する。

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<参考文献>

・Sachdeva A, Choudhary M, Chandra M. Alcohol Withdrawal Syndrome: Benzodiazepines and Beyond. J Clin Diagn Res. 2015 Sep;9(9):VE01-VE07. doi: 10.7860/JCDR/2015/13407.6538. Epub 2015 Sep 1. PMID: 26500991; PMCID: PMC4606320.

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