憩室炎 diverticulitis

憩室炎とその疫学

・憩室炎(Diverticulitis)は一般的に大腸憩室に炎症が伴うものである。

・憩室炎は合併症を伴わない単純性憩室炎と、膿瘍、穿孔、瘻孔、狭窄、腹膜炎などの合併症を伴う複雑性憩室炎とに分けられる。単純性憩室炎が全体の約75%を占める。

・憩室症の有病率は上昇傾向にあり、最近の海外のレビューでは40歳未満で約5%、60歳以上で50%であることが示されている。それに伴ってか、憩室炎の発症率も上昇傾向にある。

・憩室炎のリスク因子としては喫煙、NSAIDsの使用、運動不足、肥満、食物繊維が少ない食事、炭水化物や赤身肉の多い食事などが挙げられている。

・欧米では左側結腸における憩室炎の割合が大きいが、アジア圏では右側結腸に生じる割合が大きい。ただし、日本では以前よりも左側結腸のケースの割合が増加傾向にある。

病態生理と合併症

・憩室症や憩室炎の病態生理は完全に明らかになっているわけではないが、腸管蠕動や腸管内圧の変化が関与している可能性が示唆されている。

・病態生理についての一つに仮説であるが、憩室の頸部が狭いため憩室内で細菌の過剰増殖が生じ、組織の虚血に至っている可能性が想定されている。

・憩室が穿孔した場合は汎発性腹膜炎に至るケースことがある。しかし、腸間膜に覆われているため、膿瘍形成などが限局的なもので済み、結果として局所的な腹膜刺激徴候を呈するに留まるケースもある。

・たとえば膀胱や小腸などの隣接臓器に炎症が波及して、瘻孔形成をする場合がある。

臨床症状と診断

・憩室炎では通常、発熱、側腹部痛や下腹部痛、便秘や下痢などがみられ得る。

造影CT撮像は憩室炎の診断においてほぼ100%の感度と特異度を有していて、確定診断に適している。また、膿瘍形成の有無などの評価にも有用である。

・CT撮像では憩室炎が存在する箇所に一致して、大腸腸管壁の浮腫性壁肥厚、周囲脂肪織濃度上昇、膿瘍形成、Free airなどが確認される場合がある。

分類

・前述のように憩室炎は合併症の有無により、単純性憩室炎(uncomplicated diverticulitis)と複雑性憩室炎(complicated diverticulitis)とに区別される。この区別は必ずしも手術の必要性と対応するとは限らず、単純性憩室炎であっても手術の適応がないとは限らず、また複雑性憩室炎でも手術を要さない場合がある。実際、膿瘍形成があるケースであっても、小さな膿瘍であれば抗菌薬治療のみで軽快する場合もある。

modified Hinchey classificationは重症度分類に使用される。0は軽度の臨床的憩室炎のみ、Ⅰaは結腸周囲の炎症所見、Ⅰbは結腸周囲/腸間膜の膿瘍形成、Ⅱは骨盤/腹腔内/後腹膜腔の膿瘍形成、Ⅲは化膿性汎発性腹膜炎、Ⅳは糞便漏出性汎発性腹膜炎を示し、グレードが高くなるほど死亡率は高くなる。

手術

腹膜炎を合併しているケースなどでは緊急手術の適応となる。また、内科的治療や経皮的ドレナージで症状が改善しない場合でも手術が検討される。

・手術は腹腔鏡手術か、開腹手術かが選択される。

内科的治療

・単純性憩室炎(uncomplicated diverticulitis)では限局性の炎症に留まる。高熱、臨床的に重篤な検査所見、免疫抑制などがなければ、外来で管理できるケースもある。また、RCTでは抗菌薬の内服治療に対する静注治療の優位性は示されていない。ただし、内服治療を基本とした外来治療では約6%で治療失敗すると報告されている。

・標準的な治療法としては腸管安静、疼痛管理、抗菌薬投与が挙げられ、経口摂取ができないケースでは静注治療を選択する。

・抗菌薬治療ではGNRと嫌気性菌とをカバーする必要がある。抗菌薬治療の期間について7~10日間程度とすることも多いが、コンセンサスの得られたものはない。あくまで重症度、治療反応性などに基づいて総合的に判断される

・臨床症状は通常、治療開始2~3日以内に改善し、徐々に食事内容を平時のものに近づけていくが、はじめは低残渣食から開始することが一般的である。ただし、忍容性があれば食事制限は必須ではないともされている。

・疼痛が悪化あるいは改善に乏しい場合には画像検査の再検を考慮する。

直径3~4cm未満の膿瘍は通常、経皮的ドレナージは容易でなく、抗菌薬治療をまず行う。より大きい膿瘍が存在したり、抗菌薬治療に抵抗性があったりする場合に経皮的ドレナージを検討する。

・以前より憩室炎が軽快して6~8週間以降に大腸癌を除外する目的で下部消化管内視鏡検査を行うことがあった。しかし、現在のCT撮像では単純性憩室炎と悪性腫瘍を混同することは稀であるという見方もある。あるレビューでは単純性憩室炎とCT撮像で診断された1,497人のうち、大腸癌が後から判明したのはわずか5人であったと報告されている。最後の下部消化管内視鏡検査を実施してから2~3年間程度が経過している場合には下部消化管内視鏡検査を検討するべきとも考えられている。

再発

・システマティックレビューによると初回の単純性憩室炎を経験した後の再発率は10~35%と報告されている。

・再発例での重症度は以前発症した際の程度と同程度とされている。

・限定的なエビデンスではあるが、憩室炎発症後の食物繊維の摂取により、再発リスクが軽減する可能性が示唆されている

・以前、米国のガイドラインでは単純性憩室炎を2度発症した場合は手術を行うことが推奨されていた。しかし、現在のガイドラインでは手術を行うかどうかを発症回数で決定することはせず、個々のケースに応じて決定するべきとされている。

・現時点では再発予防を目的としたプロバイオティクス、リファキシミンなどを使用することが有効とは考えられていない。

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<参考文献>

・Young-Fadok TM. Diverticulitis. N Engl J Med. 2018 Oct 25;379(17):1635-1642. doi: 10.1056/NEJMcp1800468. Erratum in: N Engl J Med. 2019 Jan 31;380(5):502. doi: 10.1056/NEJMx180047. PMID: 30354951.

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