扁桃周囲膿瘍 peritonsillar abscess

扁桃周囲膿瘍とその疫学/病因

・扁桃周囲膿瘍(peritonsillar abscess)は頭頚部の深在性感染症のなかで最多頻度を占め、扁桃と扁桃被膜の間の膿瘍として認識される。

全ての年齢で発症し得るが、主に20~40歳の若年成人で好発する。

・扁桃周囲膿瘍は急性扁桃炎の合併症であるという見方と、軟口蓋に存在する唾液腺(Weber腺)の感染から生じるという見方とがある。

・扁桃周囲膿瘍のリスク因子として不良な口腔内衛生環境、喫煙が挙げられている。

・合併症の発生率は40歳以上の患者で高い傾向にある。主な合併症としてはLemierre症候群、気道閉塞、喉頭蓋炎、降下性壊死性縦隔炎などが挙げられる。

臨床症状/身体所見

・咽頭痛は通常片側性で、強い疼痛であることが多い。また、しばしば同側の耳に放散痛が生じる。

嚥下困難、嚥下時痛もときにみられ、その結果、流涎を伴うことがある。

くぐもった声(hot potato voice)がみられ、患側に著明な圧痛を伴う頸部リンパ節が触れる。

・口腔内の視診では感染した扁桃と周囲の軟口蓋に緊満感のある腫脹と発赤とがみられる。また扁桃は下方かつ内側に偏倚し、口蓋垂は健側に偏倚する。

・治療の遅れなどにより、上気道閉塞や頸部深部組織へのさらなる感染拡大が生じることがある。

画像所見

造影CT撮像膿瘍の存在その範囲を確認するために用いられる。

・本邦からの報告で、240例の扁桃周囲膿瘍について解析した結果がある。膿瘍の最も大きい部分が上方にある場合を上極型、下方にある場合を下極型と分類し、水平断で膿瘍の形態が楕円形のものをOval型(卵型)、口蓋扁桃の外側に沿って三日月型にになるものをCap型(帽子型)と分類した。結果として、下極型は高齢者のケースで有意に多く、さらに下極かつCap型は、上下極型かつOval型よりもS.anginosusによる感染症である割合が多いことが報告された。また、下極かつCap型では下極かつOval型よりも短期間に病変が拡大し、急性喉頭蓋炎などの合併症が生じやすいことが報告された。

起因菌

・主な起因菌としてはS.pyogenes、Fusobacterium necrophorum、S.anginosusなどが挙げられる。

・これらの細菌と比べると頻度は下がるが、他にもS.aureus、Nocardia asteroides、H.influenzae、Arcanobacterium haemolyticum、S.pneumoniaeなどが起因菌となる場合もある。

診断/鑑別疾患

・扁桃周囲膿瘍の診断は臨床症状、身体所見に基づいて行われるが、造影CT撮像も診断に有用である。

・鑑別疾患としては扁桃周囲蜂窩織炎(扁桃周囲炎)、咽後膿瘍、伝染性単核球症、急性喉頭蓋炎、悪性腫瘍(リンパ腫など)などが挙げられる。なお、いくつかの後ろ向きコホート研究では扁桃周囲膿瘍のケースの1.5~6%伝染性単核球症が併発する可能性があることが報告されている。

扁桃周囲蜂窩織炎はしばしば扁桃周囲膿瘍に類似した病像を呈し、鑑別が困難なことがある。扁桃周囲蜂窩織炎では明らかな膿瘍形成を伴わない。両疾患は穿刺吸引で膿汁が吸引されるか否かで区別され、また造影CT撮像も診断の一助となる。

治療

・治療としてはドレナージ処置抗菌薬治療との併用が原則となる。

・扁桃周囲膿瘍のケースの多くでドレナージ処置を行うことが妥当とされる。手技としては針吸引、切開排膿などが挙げられるが、これまでの複数の研究では治療としていずれも同程度に有効であり、転帰において統計学的有意差がなかったと報告されている。

・針穿刺吸引を行う際には特に扁桃の外側かつ背側に存在する頸動脈、内頚静脈の損傷に十分注意する必要がある。穿刺する際には扁桃の外側は避け深さは8mm以下とする。

・抗菌薬治療としては前述の連鎖球菌と口腔内嫌気性菌(Fusobacteriumなど)に対して有効性を発揮できる抗菌薬を選択するべきである。なお、Fusobacterium属ではAZMに耐性を有することに留意する。

・抗菌薬治療は10~14日間継続することが推奨されている。

・副腎皮質ステロイドの有効性については議論の余地がある領域であり、広く研究されているとはいえない。コルチコステロイドの単回投与(メチルプレドニゾロン2~3mg/kg(Max:250mg)、デキサメタゾン10mg)は投与されないケースに比して、12~24時間以内に疼痛が減少したが、48時間後にはその有効性の差は消失するという結果の小規模研究はあるようである。

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<参考文献>

・Galioto NJ. Peritonsillar Abscess. Am Fam Physician. 2017 Apr 15;95(8):501-506. PMID: 28409615.

・川畠雅紀, ほか. 口咽科2018;31:187-192.

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