志賀毒素産生大腸菌による感染症と溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)

溶血性尿毒症症候群とその疫学/分類

・志賀毒素産生大腸菌(STEC: shiga toxin-producing Escherichia coli)は血性下痢の原因となる。また、溶血性尿毒症症候群(HUS: hemolytic-uremic syndrome)を誘発する血栓性微小血管症(TMA: thrombotic microangiopathy)の原因となり得る。

・HUSの3徴としては①破砕赤血球を伴う溶血性貧血 ②血小板減少(<15万/μL) ③急性腎障害 が知られる。ただし、全てが揃うとは限らない。

・様々な微生物によってHUSは発症し得るが、STECはその主な原因菌である。そのほか、S.pneumoniaeインフルエンザウイルスなどが原因となることがある。

TMAの鑑別疾患としては主に①血栓性血小板減少性紫斑病(TTP) ②志賀毒素産生大腸菌によるHUS(STEC-HUS) ③二次性TMA(妊娠/移植/高血圧緊急症/代謝性疾患/薬剤性/感染性/自己免疫性/悪性腫瘍性など) に大別され、これらが除外された場合にはatypical HUS(aHUS(補体介在性TMA))と臨床診断される。

・STECによる感染症の流行はとにピークを迎える。また、HUS発症リスクが最も高いのは5歳未満の小児とされている。

・以前はE.coli(O157:H7)のみが志賀毒素を産生すると考えられていたが、現在ではE.coli(O104:H4)などの他の株もSTECによる感染の原因として知られている。

STECによる感染症の診断

・まずSTECによる感染は発熱がないケースは稀ではなく、発熱がなくても除外はできない。

・細菌検査室ではSTECを同定するために便検体を用いて、寒天培地で培養同定できる場合がある。また、そのほか便検体を利用したPCR法による志賀毒素遺伝子(1 or 2)の同定や、血清検体E.coli O157糖脂質(LPS)抗体を検出する方法が挙げられる。

・なお、前述の便検体での検査によるSTECの同定能は経時的に低下するため、検査を提出する場合には可能な限り早めに提出しておく。検体は原則として便検体を優先的に利用するが、便検体が得られない場合には直腸スワブで代用することはある。しかし、その場合は便検体が得られ次第、そちらの検体も提出するべきかもしれない。

STECによる感染症の臨床経過

 <低リスクSTEC>

・志賀毒素1のみを産生するSTECによる感染症の特徴を明らかにした研究はない。

・しかし、一般的に志賀毒素1のみを産生するSTECによる感染は低リスク症例と思われ、通常、非血性の下痢を伴い、HUSを合併することも稀と考えられている。ただし、免疫不全者ではこの限りではない。

 <高リスクSTEC>

下痢を生じる前に、典型的には発熱、腹痛、悪心/嘔吐などの症状を示す。

・2014~2018年におけるイギリスからのE.coli(O157:H7)症例に関する分析では、全体の約2/3下痢が始まり1~3日後には血便が出現したと報告されている。なお、発症後24時間における排便回数は7~11回ほどで、発症7日目には下痢が自然軽快する。

志賀毒素2を産生するE.coliは高リスクSTECと考えられ、低リスクSTECによるケースよりもHUS合併の可能性は比較的高いと考えられる。

・高リスクSTECによる感染症に関して、小児におけるケースシリーズでは感染した小児の15~20%でHUSを発症し、特に5歳未満の患者においてリスクが最も高いことが示された。

・HUSはSTECによる感染症を発症し5~14日目の間に生じることが典型である。

・HUSの合併まで至らないケースであっても、STECによる感染症では一時的に血小板が減少することがあり、しかしそれでも基準値内に留まることが多い。

急速進行性の血小板減少はHUSの合併を示唆する所見であり、通常はヘモグロビン尿、血清LDH高値を伴う。なお、ヘモグロビン尿は血管内溶血、血中ハプトグロビンの枯渇などを反映している。

STEC-HUSの診断/臨床経過/合併症

・冒頭でTMAの鑑別として分類を記載したように、志賀毒素産生大腸菌によるHUSSTEC-HUSと称されることがある。

・STEC-HUSは臨床的には3主徴(①破砕赤血球を伴う溶血性貧血(Hb<10g/dL) ②血小板減少(<15万/μL) ③急性腎障害 をもって診断される。また、随伴症状としては①中枢神経(意識障害/痙攣/頭痛/出血性梗塞など) ②消化管(下痢/血便/腹痛/腸管穿孔/腸重積など) ③心臓(心筋障害による心不全など) ④膵臓(膵炎) ⑤DIC が知られる。

・なお、Coombs試験陰性(−)が典型的である。

・STEC-HUSを発症した小児の50~60%で乏尿あるいは無尿がみられる。これらの患者では尿量が増加するまで腎代替療法を受けることもあるが、通常は尿量の増加は透析開始2週間以内に生じる。また、虚血性心疾患、不整脈、心筋症、心嚢液貯留などの心疾患はSTEC-HUSを発症した小児患者の10%未満でみられる。稀に腸管壊死や腸管穿孔などを合併することもある。

・STEC-HUSの死亡率は小児では約3%、中高年では最大20%程度と考えられている。

・慢性腎臓病はHUSを経験した後にみられることがある。最近の報告では腎代替療法を利用することがなかったものの、STEC-HUSを経験した小児の最大1/3で慢性腎臓病がみられることが示唆されている。高血圧症、蛋白尿、糸球体濾過量の低下はSTEC-HUSを経験して数年後に現れることもあり、フォローアップが重要と考えられる。

・STEC-HUSの発症に補体C3およびC4の減少が関与していることが示唆されている。

マネジメント

・STEC感染が疑われるケースでは末梢血スメアとともに、ヘモグロビン値(Hb)、ヘマトクリット値(Ht)、血小板数、尿素窒素、クレアチニン、電解質などのベースラインを確認しておき、経時的な評価を行うべきである。

血清LDH値の上昇HUSへ進行するケースのマーカーである可能性もある。

・これまで複数の研究で、高リスクSETCの感染例における抗菌薬使用がHUS合併のリスク上昇に関与していることが示唆されている。したがって、特に血性下痢を伴う免疫不全者で抗菌薬投与を行うことは避けることが無難かもしれない。ただし、もしも何らかの理由で抗菌薬投与を検討するならば最もHUSを合併する可能性が低い抗菌薬としてAZMが挙げられている。

・腹痛を緩和させるために麻薬腸管蠕動抑制薬を使用することは結果として血性下痢の排出を長引かせ、かつHUS神経学的合併症のリスクを高めることが示唆されている。

・NSAIDsの使用は急性腎障害を助長させる可能性があり、可能な限り避けるべきである。

 <体液量の管理>

・HUSが診断された際に、血液濃縮を反映してHt値やHb値が高値のケースでは予後が不良であることも示されている。このようなケースでは腎代替療法を利用する可能性は比較的高く、神経学的合併症や死亡リスクも高くなる。

・したがって、小児が高リスクSTECに感染していることが疑われる場合には補液を行っておくことは有益である可能性が考えられる。実際、観察研究ではHUSの診断が確定する前における輸液投与が無尿の発生率の低下、入院期間短縮に関連していることが示されている。ある研究では生理食塩水を投与し、HUS発症前の体重を7~10%程度上回る目標体重としたところ、腎代替療法を受けるケースの割合は減少し、長期的後遺症も減少し、入院期間およびICU滞在日数も短縮したと報告されている。

 <腎代替療法>

・多くのケースシリーズではSTEC-HUSの発症例の50%以上が腎代替療法を必要としたと報告されている。HUS患者における腎代替療法の適応は他の原因による急性腎障害のケースと同様に、腎障害の程度とそれに起因する各種合併症によって異なる。

・重度の電解質異常や酸塩基平衡異常、尿毒症、保存的加療で対応ができない体液過剰状態などはいずれも腎代替療法の適応となる。

・腎代替療法としては腹膜透析や血液透析が挙げられるが、血液透析では比較的速やかに体液量や溶質除去などが可能で、より選択されやすいと思われる。ただし、血小板減少に起因するカテーテル挿入時の出血、カテーテル関連の菌血症などの合併症リスクは伴うことに留意しながら慎重に経過観察を行う。そのほか、持続的腎代替療法(CRRT)という方法もあり、血行動態などに与える影響が比較的小さいという利点はあるが、抗凝固療法が必要であり、その適応は総合的に判断される。

 <血小板輸血>

・HUSによる多くの合併症は血栓性病態により生じているため、血小板輸血は血行動態に影響を及ぼすような重大な出血が生じているケースなどに限定して、慎重に選択される。

 <エクリズマブ(抗C5抗体製剤)>

・抗C5抗体製剤であるエクリズマブ(ソリリス®)aHUSに有効であるが、STEC-HUSにおける有用性に関してはエビデンスが十分であるとはいえない

・なお、エクリズマブ投与により補体副経路がブロックされ、志賀毒素2による炎症反応を軽減する可能性は示唆されている。

・エクリズマブを使用する際にはN.meningitidis感染リスクが増加することに留意する。

 <血漿交換療法>

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)においてはADAMTS13活性の低下を是正する観点で、血漿交換療法は有用であるが、STEC-HUSにおける有用性を支持するエビデンスは限られ、推奨はされない

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<参考文献>

・Freedman SB, van de Kar NCAJ, Tarr PI. Shiga Toxin-Producing Escherichia coli and the Hemolytic-Uremic Syndrome. N Engl J Med. 2023 Oct 12;389(15):1402-1414. doi: 10.1056/NEJMra2108739. PMID: 37819955.

・Nitschke M, Sayk F, Härtel C, Roseland RT, Hauswaldt S, Steinhoff J, Fellermann K, Derad I, Wellhöner P, Büning J, Tiemer B, Katalinic A, Rupp J, Lehnert H, Solbach W, Knobloch JK. Association between azithromycin therapy and duration of bacterial shedding among patients with Shiga toxin-producing enteroaggregative Escherichia coli O104:H4. JAMA. 2012 Mar 14;307(10):1046-52. doi: 10.1001/jama.2012.264. PMID: 22416100.

・Walsh PR, Johnson S. Treatment and management of children with haemolytic uraemic syndrome. Arch Dis Child. 2018 Mar;103(3):285-291. doi: 10.1136/archdischild-2016-311377. Epub 2017 Sep 12. PMID: 28899876.

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