手足口病 Hand-Foot-and-Mouth disease
手足口病とその疫学
・手足口病は1950年代にカナダで発生した集団感染で初めて報告された。
・特にエンテロウイルス71とコクサッキーウイルスA16によって生じる。
・コクサッキーウイルスA6が原因の場合では体幹、四肢、顔面に小水疱、痂皮などの非典型的な病変をきたすことがある。
・本邦では特に夏季に流行する。数年おきに流行する傾向があり、その間に手足口病に罹患したことのない小児が増える。
・冬季には手足口病が発症することもあり、一部はコクサッキーウイルスA6に関連している。
・10歳未満の小児で好発し、なかでも5歳未満で特に多い。また、成人で発症することもある。
・小児診療に携わる医療従事者は感染のハイリスク者に当たる。
・重症例ではエンテロウイルス71に感染している可能性が比較的高い。
Key recommendations
- 手足口病の診断は手と足底における丘疹状発疹と有痛性口腔内潰瘍の所見に基づいて行われる(エビデンスレベルC)。
- 手足口病は支持療法で対処される。発熱と疼痛に対してはアセトアミノフェンまたはイブプロフェンの使用が推奨される(エビデンスレベルC)。
- 手洗いが手足口病のリスクを減少させる(エビデンスレベルC)。
感染の伝播
・手足口病のウイルスを媒介するのはヒトだけである。
・主に糞口感染、飛沫感染、接触感染などで感染は広がる。
・発症1週間以内が最も感染力が強い。なお、ウイルスは便中に最長で4~8週間含まれるという報告もある。なお、エンテロウイルス71の家庭内感染率は52~84%という報告がある。
・潜伏期間は3~6日間とされる。
臨床的特徴
・手足口病は主に手掌および足底における斑状、丘疹状発疹と、発熱、有痛性の口腔内潰瘍によって臨床診断される。診断に悩む場合にはエンテロウイルス、コクサッキーウイルスに関する血清学的検査やPCR検査も検討されるが、一般医療機関では難しい。
・皮疹は直径2~6mm程度で、紅斑もみられ、小水疱へと進展し、最終的に無痛性の浅い潰瘍に至る。ただし、ときに皮疹は非典型的な所見を呈する。
・有痛性口腔内潰瘍は軟口蓋を含む口腔内の後部に生じる。ときに舌や頬粘膜にも所見を伴い、疼痛で食事摂取などもままならないこともある。
・皮疹や口腔内潰瘍の病変は通常、7~10日間程度で消失する。
・手足の爪が剥離することもある(爪甲脱落症)。また、爪の変形や爪溝が生じることもある。
・稀ではあるが、無菌性髄膜炎、急性弛緩性麻痺、脳脊髄炎などの合併症を生じることがある。特にエンテロウイルス71による場合が多い。その他の合併症として、肺水腫、肺出血、心不全、呼吸不全が挙げられる。
鑑別診断
・鑑別診断には主に同様に斑状/丘疹状皮疹と口腔内病変を呈する疾患が主に含まれる。
・ヘルペス性歯肉炎/口内炎では病変が通常、口腔内とその周辺に限局する。
・ヘルパンギーナは手足口病と同様にエンテロウイルスやコクサッキーウイルスが原因となるが、通常は皮膚病変を伴わず、口腔内病変のみがみられる。
・尋常性天疱瘡とベーチェット症候群では手足口病と同様に皮疹や口腔内病変を伴うため、ときに鑑別を要する。
・ヘルペスや水痘では特徴的な小水疱と紅斑とがみられる。
・疥癬では通常強い掻痒感がみられ、疥癬トンネルがみられる。
・伝染性膿痂疹では緊満感の乏しい水疱がみられ、体幹と四肢に皮疹がみられる。
・リスク因子があれば、HIV感染症の可能性は考慮する。
治療
・手足口病はSelf-limitedな経過をたどり、原則として支持療法が中心となる。
・鎮静薬、解熱薬、十分な経口的水分補給を行う。
・疼痛や発熱についてはアセトアミノフェン、イブプロフェンで対処が可能である。
・抗ウイルス薬は使用できない。アシクロビル(ACV)を利用した13例を対象とした臨床試験では24時間以内の発熱および皮疹の改善を示したと報告されているが、十分なエビデンスとはいえない。
・適切に水分補給ができないケースや、前述の神経系合併症、心肺における合併症がみられるケースでは入院を検討する。
・免疫グロブリン静注療法(IVIG)の実施は推奨されていない。アジアにおいては重症例においてIVIGを使用するケースもあり、主に心肺系の合併症への進展予防を期待されているようである。
予防
・手洗いの徹底は手足口病の感染を広げないために有用で、特におむつ交換、トイレの後、食事の前で手洗いを徹底することが重要。
・感染者との密な接触、食事や食器などの共有を回避することは重要である。また、感染者が使用した物品の消毒も重要。
・母乳育児は手足口病の発症率に関係しない。感染予防を目的に母乳育児を中止する必要はない。
・手足口病やヘルパンギーナを予防するワクチンはない。
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<参考文献>
・Saguil A, Kane SF, Lauters R, Mercado MG. Hand-Foot-and-Mouth Disease: Rapid Evidence Review. Am Fam Physician. 2019 Oct 1;100(7):408-414. PMID: 31573162.