熱性けいれん febrile seizures
目次
熱性けいれんとその疫学
・熱性けいれん(febrile seizures)は主に生後6~60ヶ月までの乳幼児期に好発し、通常、38度以上の発熱に伴う発作性疾患で、中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな原因がみられないものを指す。なお、てんかん(epilepsy)の既往のあるケースは除外される。
・単純型熱性けいれんは熱性けいれん全体の65~90%を占める。その定義は後述するとおり。
・熱性けいれんは発熱の後に生じることもあれば、発熱の前に生じることもある。
・熱性けいれんの原因の多くは多因子性で、複数の遺伝因子、環境因子の関与が推定される。
リスク因子
・熱性けいれんの発症リスク因子としては発育遅延、ウイルス感染、熱性けいれんの家族歴、鉄や亜鉛の欠乏などが想定されている。
・また特定のワクチン接種との関連性も示唆されていて、例えばDTP、MMRワクチンなどの関与が想定されている。MMRワクチンの接種を受けた53万人の小児を対象としたコクランレビューによると、熱性けいれんのリスクは接種後2週間のみにおいて増加し、そのリスクは小さい(約1,000回の接種につき1~2回の熱性けいれんの発症)と報告された。
・ウイルス感染は熱性けいれんの誘引となる発熱の一般的な原因で、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルスなどへの感染は熱性けいれんの発症に関与する。
・熱性けいれんの再発予測因子としては主に①両親いずれかの家族歴 ②1歳未満での発症 ③短時間の発熱-発作間隔(概ね1時間以内) ④発作時体温が39度以下 の4つが挙げられ、いずれかに該当する場合には再発確率は2倍以上となる。なお、これらの再発予測因子に該当しないケースにおける熱性けいれんの再発率は約15%とされる。
Key recommendation(American family physician)
- 単純型熱性けいれんのケースでは定期的な臨床検査、脳波検査、神経画像検査の実施は推奨されない(エビデンスレベル C)
- 単純型熱性けいれんによって、知能などに関して悪影響はなく、死亡リスクが増加することもないことを共有し、両親には安心してもらうべきである(エビデンスレベルB)
- 初回の単純型熱性けいれんの後に、抗てんかん薬を長期的に、あるいは間欠的に使用することは副作用に関する懸念から推奨されない(エビデンスレベルB)
- 発作時に解熱薬を使用しても、単純型熱性けいれんの再発を予防する効果は期待できない(エビデンスレベルA)
複雑型熱性けいれん
・以下の3項目の1つ以上を有するものを複雑型熱性けいれんと定義され、これらのいずれにも該当しないものを単純型熱性けいれんという。
- 焦点性発作(部分発作)の要素
- 15分以上持続する発作
- 一発熱期間内の、通常は24時間以内に複数回反復する発作
熱性けいれん重積状態
・熱性けいれんにおいて長時間持続する発作、または複数の発作でその間に脳機能が回復しないものを熱性けいれん重積状態という。
・持続時間は30分以上と定義されることもあるが、日本小児神経学会のガイドラインでは発作が5分以上持続している場合を薬物治療の開始を考慮すべき熱性けいれん状態の実地用定義としている。
評価
・熱性けいれんを発症した患児の多くは発作が治まった後に受診し、通常は発作から1時間以内に完全に意識状態が平時と同等に戻る。
・発熱の原因の特定も重要である。
・両親からの情報聴取を行い、熱性けいれん/てんかんの家族歴、予防接種歴、抗菌薬使用歴、発作の持続時間、発作時の様子などの把握に努める。
・診察では特に髄膜刺激徴候の有無、意識障害の評価に注意を払う。小児の526例の細菌性髄膜炎に関するレトロスペクティブレビューでは全体の93%で意識障害を伴っていたと報告されている。腰椎穿刺はルーチンでの実施は不要であるが、髄膜刺激徴候を伴うケースや、病歴や身体所見から中枢神経系感染症が疑われるケースでは実施が強く推奨される。
・単純型熱性けいれんのケースにおいて、脳波検査はその後の熱性けいれんの再発可能性や将来のてんかん発症可能性を予測するのに有用と考えられていない。
・単純型熱性けいれんの発作後において、ルーチンで神経画像検査(主に頭部CT/MRI撮像)を行うことは推奨されていない。また、CT撮像により将来的な悪性腫瘍の発症リスクが僅かに増加することが知られている。ただし、神経学的異常所見がみられるケースや、熱性けいれんを繰り返すケースでは脳派検査や神経画像検査の実施は考慮される。
急性期治療
・多くの熱性けいれんの発作は来院時までに消失しているが、発作に備える必要はある。
・小児の急性強直性発作に対してはロラゼパム0.1mg/kgを静注することが検討される。
・コクランレビューによると、ロラゼパム静注はジアゼパム静注(小児では0.3~0.5mg/kg)と同等の有効性があり、副作用が比較的少なく、抗てんかん薬を追加する必要性が小さいことが示されている。
・また静脈路確保が困難な場合にはミダゾラム口腔内投与(小児では0.3mg/kg)がジアゼパム注射液注腸(小児では0.2~0.5mg/kg)よりも有効であることが明らかとなっている。
予後と長期的マネジメント
・前述のように、発作の予後が不良でないことを家族に共有することは重要である。381人の熱性けいれんを経験した小児に関するイギリスの研究によると、少なくとも10歳の時点での評価では学業、知能などのいずれにおいても他の小児と同程度の成績を残していたと報告されている。
・熱性けいれんによる死亡は非常に稀である。
・前述のように4つの再発予測因子に該当しないケースにおける熱性けいれんの再発率は約15%である。ただし、いずれかに該当する場合の再発率はその2倍に上昇する。
・単純型熱性けいれんの再発予防に関してはフェノバルビタール、バルプロ酸などが研究されていて、これらの継続的な使用は単純型熱性けいれんの予防には有効であることは示されている。しかし、副作用や、再発予防をきたすことによって将来的なてんかん発症リスクが低下しないことなどからその長期的使用は一般的に推奨されていない。
・発熱時に解熱薬や抗てんかん薬を間欠的に使用することも推奨されない。実際、発熱時に解熱薬を使用することで単純型熱性けいれんの再発率が減少することを示した研究はない。
・両親の不安が強い場合には子どもの発熱時にジアゼパムを内服することを検討可能である。また、初回に熱性けいれんが長引いたケースや、再発リスクが高いと考えられるケースでは自宅において頓用でジアゼパム挿肛を考慮できる。
・熱性けいれんの発作後のてんかん発症のリスク因子としては、てんかんの家族歴、脳性麻痺、Apgarスコア5分値 7点未満が挙げられた。なお、初発の単純型熱性けいれんの発作後のてんかん発症リスクは約2%である。なお、複雑型熱性けいれんではてんかん発症リスクは6~8%という報告もある。
満5歳を超える年長児における発作
・通常は熱性けいれんは生後60ヶ月までの乳幼児期の発作を指すが、満5歳を超える年長児の有熱時発作についても、特徴を満たせば熱性けいれんと同様に対応する。
・ただし、5歳以降に発作を繰り返す場合などでは熱性けいれんプラス(GEFS+: genetic epilepsy with febrile seizures plus)などのてんかんを念頭に置く。
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<参考文献>
・Graves RC, Oehler K, Tingle LE. Febrile seizures: risks, evaluation, and prognosis. Am Fam Physician. 2012 Jan 15;85(2):149-53. PMID: 22335215.
・熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023(日本小児神経学会).