無症候性のWPW症候群

WPW症候群(早期興奮症候群)とその疫学

・WPW波形(心室早期興奮波形)はデルタ波とPR間隔短縮を特徴とする心電図所見であり、1,000人に1人程度の頻度で認められる所見である。

・しかし、WPW波形を示す患者の少なくとも半数は無症状とされている。

・WPW波形は副伝導路(AP: accessory atrioventricular pathway)の存在を示していて、副伝導路には順行性、逆行性、その両方のパターンがある。このうち60~75%は顕性WPW波形、つまり副伝導路を介する心室早期興奮と正常刺激伝導系とを介する心室興奮の融合波としてQRS波が形成されるため、PR短縮、デルタ波、QRS延長という古典的な波形がみられる。

・心室早期興奮を呈する患者の多くは頻脈性不整脈をきたすことはなく、生涯無症状のままである。あるコホート研究では40歳未満の無症候性WPW症候群の患者の約1/3が最終的に症状を呈した一方で、診断時に40歳以上であった患者では症状を呈したケースはなかったと報告された。なお、最も頻度が高く(約80%)、合併しやすい頻脈性不整脈はAVRT(房室回帰性頻拍)で、副伝導路が利用されることとなる。また、AF(心房細動)はWPW症候群の患者で比較的多い(20~30%)。

・AFを合併したWPW症候群ではVF(心室細動)心臓突然死に至るケースがある。

電気生理学検査(EPS)により、副伝導路の特性やVFなどの合併症をきたすリスクの層別化につながる場合がある。

臨床的なアプローチ

・WPW症候群の患者の臨床評価のなかには副伝導路の特性を評価して、アブレーションの必要性について検討することが含まれる。

・合併症の高リスク患者では電気生理学検査アブレーションの実施閾値を低めにすべきである。

SVT(上室性頻拍)やAFを伴うケースでは電気生理学検査±アブレーションを行うべきという見方もある。そういうケース以外では致死的な不整脈などの合併リスクは小さいとされている。

・また、発作時のリスクが高い職業に就いている患者やアスリートには電気生理学検査±アブレーションが推奨されている(ClassⅠ)。それ以外の患者では電気生理学検査±アブレーションを行ってもよいが(ClassⅡa)、総合的判断を要する。

・なお、非侵襲的にリスク層別化をする方法として外来における経過観察、運動負荷試験、薬物負荷試験が挙げられ、洞調律で、心室早期興奮が突然、完全に消失する場合は比較的リスクが乏しい副伝導路であることが示唆される。

カテーテルアブレーション

・カテーテルアブレーションは95%以上という高い成功率で副伝導路を除去できる。

・しかし、カテーテルアブレーションにもリスクは伴い、最も一般的なリスクは房室結節の障害に伴う房室ブロックであり、アブレーションの0.17~2.7%で報告されている。この場合、通常はペースメーカー植え込み術が必要となる。そのほかの重篤な合併症としては穿孔、心タンポナーデ、脳梗塞、冠動脈損傷などが挙げられる。

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<参考文献>

・Antiperovitch P, Skanes A, Klein G, Tang A. Approach to a patient with asymptomatic pre-excitation. Heart. 2023 Jul 27;109(16):1254-1259. doi: 10.1136/heartjnl-2022-321639. PMID: 36990680; PMCID: PMC10423537.

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