燃え尽き症候群 Burnout syndrome

燃え尽き症候群とその疫学/合併症

・数多くの研究によると、医師の約3人に1人は燃え尽き症候群(Burnout syndrome)を経験しているとされている。2015年のMedscape Physician Lifestyle Surveyではさらに高いバーンアウト率が報告されていて、2013年の39.8%から46%に増加していた。

・燃え尽き症候群は主に①患者満足度やケアの質の低下 ②医療ミス率の上昇 ③医師をはじめとしたスタッフの離職率上昇 ④医師のアルコール/薬物乱用 ⑤医師の自殺 に帰結することがあり、ときに致命的な状態といえる。

・医師の自殺率は一般集団よりも高いが、それは過小報告されている。また、ストレスマネジメントの方法や燃え尽き症候群の予防法は医学部などのトレーニング期間で詳細に扱われることはないか、あっても少ない。

Energy account

・燃え尽き症候群ではその説明をするにあたって、Energy account(エネルギーの貯金のようなもの)を利用して説明される。Energy accountはプラス状態になることもあれば、マイナス状態になることもある。例えば仕事の際にはそこからエネルギーを消費して過ごしていて、また休息などにより増えることもある。主にバーンアウトはこのマイナス状態が持続したまま時間が経過した際に生じやすい

・医師としては自分のEnergy accountをプラス状態に維持するためのMoral imperative(道徳的な責務)を有する。診療現場で患者さんのケアの質を高く維持したり、共感したりするためにはEnergy accountをプラス状態に維持できるかにかかっている。

・またEnergy accountには3種類に大別される。

 <Physical energy account(肉体的なEnergy account)>

 ・休息、エクササイズ、栄養補充などによりフィジカル面のケアにつながることで、エネルギーを蓄積させられる。

 <Emotional energy account(感情的なEnergy account)>

 ・友人や家族など親密な方々との健全な関係性を維持することで、感情的なEnergy accountが蓄積させられる。

 ・患者さんやスタッフ、家族、友人らに対して感情的なエネルギーを費やすためには、この領域のEnergy accountの充足が必要である。

 <Spiritual energy account(スピリチュアルなEnergy account)>

 ・定期的に自身の個人的目的意識と接続させることで、この領域のEnergy accountを蓄積させられる。例えば診療現場では患者さんとの対話などが理想的に進められた際などで生じる。

 ・自分がつながっている世界や領域に意味を見出すこと、つまりエンゲージメント(Engagement)が関連しているかもしれない。実際、自己同一性Well beingを維持するためにはエンゲージメントが必要とされている。

燃え尽き症候群の3大症状

・燃え尽き症候群の診断に標準的に用いられる指標としては1970年代にサンフランシスコ大学でMaslachらによって提唱された”The Maslach Burnout Inventory(MBI)”が挙げられる。

・燃え尽き症候群の主な症状としては以下の3つが挙げられ、前述の3種のEnergy accountに対応している。

・なお、Lack of efficacy(個人的達成感の低下)男性には比較的みられにくい症状であることも知られている。

・燃え尽き症候群はジリジリと時間をかけて生じることもある。また、トラウマとなるような経験や、日常生活における辛い出来事を契機に、比較的急性経過で生じることもある。

<①Exhaustion(情緒的疲労)>

フィジカル面のエネルギーレベルと、感情面のエネルギーレベルとが極端に低下し、下降スパイラルに入っている状況。

・この状況ではしばしば「このままの状態でいつまで続けられるか分からない」という思考が生じる。

<②Depersonalization(脱人格化)>

 ・たとえば皮肉や嫌味を言ったり、患者さんや自身の仕事について不満を言ったりするような状況は脱人格化を示唆する一つのアラートサインかもしれない。

 ・脱人格化は”Compassion fatigue(共感疲労)”とも知られ、このフェーズに入ると患者さんや周囲の人に対して思いやりなどをもって接することが難しくなる。つまり、感情面のエネルギーが枯渇している状況といえる。

<③Lack of efficacy(個人的達成感の低下)>

 ・自身の仕事の意味や質について疑い始め、「どうせ自分の仕事は役に立たない」などと考えてしまう。

 ・その状態から抜け出せない場合には自分が何か過ちを犯してしまうのではないかと心配する状況になる。

燃え尽き症候群の5大原因

<①The practice of clinical medicine(臨床医学の実践)>

・医師はストレスの大きい仕事という見方もできる。

大きな責任を伴い、かつコントロールできる幅が大きいとはいえないことも多いという仕事の特性自体が高ストレスと関係している。

・このストレスはどんな専門診療科であっても患者さんに関わる仕事である以上、回避できない

<②Your specific job(特定の仕事)>

・前述のように患者さんに関する対応という部分に加えて、医師という仕事に関する特異的なストレスが他にも挙げられる。

・そのなかには経済的な理由、緊急コールに対するストレス、人間関係など様々なストレスが関係し得る。

・その場のストレスから逃れるために転職をすることは可能であるが、次の職場でも同じようなストレス要因が異なるレベルで存在する可能性がある。

<③Having a life(私生活を保つ)>

仕事で消耗したエネルギーを充電させる場所としての役割がプライベート空間である。

医学部ではライフワークバランスを保つためのスキルを学ぶ場が十分とはいえない。そして、ときにレジデント時代にはこれ以上無理とまで働かなかければいけないという価値観を押し付けられることもあるかもしれない。

・家庭でときにエネルギーを充電させられなくなってしまうこともあり、そしてその原因は配偶者との確執、子供や配偶者や親の病期、経済的なプレッシャーなど多岐にわたる。

<④The conditioning of our medical education(医学教育でのコンディショニング)>

医学部での教育過程をとおして、医師らしいキャラクター特性が形成される。換言すると医師らしいキャラクター特性が燃え尽き症候群に陥らせることとなる。

・ここでいう医師らしいキャラクター特性は以下のように4つ挙げられ、Workaholic(困難や問題に対して唯一の対応がより懸命に働くべきである)、Superhero(あらゆる課題に対する回答を自分ができなければならないと考える)、Perfectionist(自分が完璧であることを求め、そして周囲の者にもそれを求めがちである)、Lone ranger(何でも自分自身でやらねばならないと考える)がそれに相当する。

<⑤The leadership skills of your immediate supervisors(直属の上司のリーダーシップスキル)>

・”People don’t quit companies; they quit their boss”という格言があり、仕事の満足度やストレスレベルは直属の上司のリーダーシップスキルに強く影響されることが知られている。そして、このことは医師にも当てはまることである。

・最近の研究では上司のリーダーシップスキルの質と部下の燃え尽き度や仕事における満足度との間には関連性があることが示されている。

自身のバーンアウトをどう認識するか

・Energy accountがマイナス状態で続くと、多くの医師は職場で”survival mode”に変わってしまう。

・診療において楽しみやチャレンジを見出すのでなく、ただ事務的に対応したり、一日をやり過ごしたりすること自体に集中していることに気がつくことがある。また、”この状態をいつまで続けられるか分からない”というふうな考えが浮かぶ場合にはバーンアウトの徴候と捉えられるかもしれない。そういった場合には早急にストレス軽減に努め、Energy accountをプラス状態に変えられるためにできるようなアクションを探すべきである。

燃え尽き症候群の予防

・燃え尽き症候群の予防策としてはindividual factors(個人的要因)workplace factors(環境要因)とに分けられる。

 <individual factors>

・個人的な強み/長所を仕事で活用する(working from strengths)

・日々の活動を記録する(tracking activation)

・健全な境界線を保つ/周囲との距離感を適切に保つ(healthy boundaries)

・感情を制御する/アンガーマネジメント(regulating emotions)

・認知の歪みを認識する(recognizing distortions)

・こうあるべきという考えを減らす(reasonable expectations)

・日々の仕事の意義を見出す(finding meaning)

・長期的な視座をもつ(commitment to long term)

 <workplace factors>

・裁量権をもたせる(enabling control)

・Rewardを構築する(structuring rewards)

・コミュニティ/チーム感を構築する(promoting community)

・公平な態度/褒め合う文化を推奨する(promoting fairness)

・仕事の負担を調整する(calibrating workload)

―――――――――――――――――――――――――――――――――

<参考文献>

・Drummond D. Physician Burnout: Its Origin, Symptoms, and Five Main Causes. Fam Pract Manag. 2015 Sep-Oct;22(5):42-7. PMID: 26554564.

・Back AL, Steinhauser KE, Kamal AH, Jackson VA. Building Resilience for Palliative Care Clinicians: An Approach to Burnout Prevention Based on Individual Skills and Workplace Factors. J Pain Symptom Manage. 2016 Aug;52(2):284-91. doi: 10.1016/j.jpainsymman.2016.02.002. Epub 2016 Feb 26. PMID: 26921494.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です